ティータイム大好き令嬢エルダーフラワー、婚約破棄されるもより良い人から求婚される!?
空色のワンピースを見にまとい、自宅の庭で毎日ティータイム。
くちなし色の髪は長く風を絵に描いたかのようで。
陶器のような肌、アーモンド型の目と髪の毛と同色の瞳、そして、長く顔立ちにさらなる華やかさを与える睫毛。
彼女の名は、エルダーフラワー。
彼女は昔からティータイムが好きだった。
家庭教師による勉学指導の合間にでもお茶を飲むことを求めるくらい。
そんな彼女はいつからか周囲から『ティータイム大好き令嬢』と呼ばれるようになっていたのだが――本人は呼び名なんかには特に興味がないようで、気にしても喜んでもいない。
そんな彼女も一定の年齢になっているので婚約者は一応いる。
モードリッグという男だ。
けれど彼女のその自由さをモードリッグはあまり良く思っていなかった。
彼女はとても気ままなので言いなりにはできない、というところも、彼を苛立たせる一つかもしれない。
そして、ある朝、ついに。
「エルダーフラワー、ちょっといいか?」
「あ、はい。何でしょうか」
「お前との婚約だが、破棄とすることにした」
「えっ……」
「まぁ泣いて謝るのなら許してやらないではないが……」
一応言ってみるモードリッグだが。
「そうですか、では、婚約は破棄ということで。承知しました。両親にそう伝えておきますね」
エルダーフラワーは動じなかった。
彼女はその日も自宅の庭で椅子に座ってお茶を飲んでいて。
辺りにはカモミールの匂いが漂っていた。
「これまでありがとうございました」
そう言って微笑むエルダーフラワー。
結局モードリッグは最後までエルダーフラワーを思い通りにはできなかった。
「聞いた!? エルダーフラワーさん婚約破棄されたんですって!!」
「やっぱ気まま過ぎかしらねぇ」
「まぁ、毎日お茶ばかり飲んでいるような子だものねぇ。あまり良くは思われないわよねぇ」
「女ならもっと奉仕しなくちゃ、若いんだから」
「あたしは最初からそうなると思ってたわ」
婚約破棄を知った人たちには陰で色々言われていたが、エルダーフラワーはちっとも気にしていなかった。
それに。
そもそも、陰であれこれ言われていることに気づいていなかったというのもある。
それから数日。
婚約破棄を知って、第二王子フルレインクルがエルダーフラワーのもとへやって来た。
「エルダーフラワーさん! ちょっといいですか?」
「あ、ええと、貴方は……」
フルレインクルは、銀髪と赤目が王族の中でも珍しく、国民からの人気もかなり高い王子だ。
「ええと、どちら様、でしょうか」
「僕のことを知らないッ!?」
「申し訳ありません、ええと……」
「フルレインクル! 第二王子です!」
「まぁ、王子様、なのですか?」
「そうです!」
「それで……あの、王子様がなぜこのようなところに?」
エルダーフラワーはきょとんとしていた。
「実は、前から、エルダーフラワーさんのことが気になっていたのです」
フルレインクルは頬を赤らめている。
まるで恋する乙女のようだ。
「知り合いでしたか……?」
真顔で首を傾げるエルダーフラワー。
「前に一度! 王都のイベントで目撃して! その時に惚れてしまったのです! ……確かに知り合いではなかったですね」
フルレインクルは伸ばした両腕を上下に振りながらここに至るまでの経緯を説明する。
「ただ、その後婚約されたと聞き、諦めていたのです。婚約者がいるのに王子が入っていくなんて問題と思ったので。ですが! 失礼ではありますが、婚約破棄されたとそう聞きました」
「事実ですよ」
「そこで! 一度言ってみようと! ……ぼ、僕と結婚してください!!」
エルダーフラワーは戸惑ったような顔をしたが。
「あの、お茶でもどうですか?」
それだけ返した。
「ありがとうございます……!」
フルレインクルはそれだけでも嬉しそうだった。
それからエルダーフラワーとフルレインクルは定期的にエルダーフラワーの家の庭でお茶会をするようになった。
◆
数ヶ月後、エルダーフラワーはフルレインクルの求婚を受け入れ、彼と共に歩むことを決めた。ただ、そこには一つの条件が合って。それは、王子の妻となっても定期的にお茶を飲むことを認める、というものだった。エルダーフラワーが提示したその条件をフルレインクルは受け入れ、それによって結婚が決まったのだった。
ちなみにモードリッグはというと、女性五人を自宅の地下室に監禁して調教していたことがばれたため処刑された。
◆終わり◆




