料理好きでしたが、それを理由に婚約破棄されました。~彼は後にやらかして処刑されることとなったようです~
幼い頃から料理が大好きだった私。
焦がし醤油というこの国においては画期的な味を生み出した。
けれどもちょうどその日人生が一変してしまう。
「でね、焦がし醤油っていうのがね――」
「あのさ、ちょっといい?」
婚約者ルクセインに今日の成果を報告していると。
「悪いけど、さ。婚約、破棄するわ」
急にそんなことを告げられて。
私は硬直してしまう。
平静を装う、なんて、無理だった。
もっと人生経験が豊富だったら冷静であれた? いや、それはかなり難しいことだろう。誰だって、いきなりそんなことを告げられたら、多少は心が掻き乱されるというものだろう? いや、もちろん、世にはそんな時でも冷静でいられる人もいるのかもしれないけれど。
でも私には無理だ。
「そんな……どうして!?」
「いやだって君さ、料理のこと第一だろ」
「あ……」
「いっつもいっつも料理のことしか話さない、面白くないよ」
それはそうかもしれない。
だって私の人生とは料理の道だから。
「でも私、ルクセインのこと、ちゃんと好きで……」
「けど奉仕する心はないだろ?」
「それは! それは……そういうのは、ちょっと」
「そういうとこだよ、君が魅力的でないのは」
「……そう」
「料理優先過ぎるんだよ」
それを指摘されてしまってはもうどうしようもない。だって、その道こそが私の生きるすべてだから。
それが嫌だと彼が言うのなら、私は彼の前から去ろう。
私にできる選択はそれだけだ。
「分かったわ。じゃあ、婚約破棄、受け入れるわ」
「助かる」
料理から離れてルクセインに尽くし奉仕する道は考えられない。
だから私は料理を選ぶ。
それに。
焦がし醤油を世に広めたい。
「じゃあねルクセイン……さようなら」
◆
その後私は自ら編み出した焦がし醤油を世に広めた。
そしてそれは大ヒット。
私は一躍有名人へと知名度の階段を駆け上がる。
さらに、その料理の腕を見込まれ国王から「城で料理を作ってほしい」と言われ、城の料理人という仕事も得た。
そこで働いていたある時、ミレイン王子と知り合い、親しくなりやがて結ばれることとなる。
「僕は君が料理に打ち込んでいるところが好き。だから、ずっと料理に心を注いでいていいよ。ただ、たまには僕のことも見てね」
「はい……努力します」
「あと、何か協力できることがあったら言ってね」
「そんな、申し訳ないです」
「いいんだ。それが僕のしたいことだから。ずっと見守らせてね」
ミレイン王子は私が料理を愛していることを受け入れてくれた。
彼となら幸せになれる――そんな気がした。
◆
あれから十年、私は今もミレイン王子と共に穏やかに生きている。
一方ルクセインはというと、惚れた女性に想いを伝えて拒否されてからストーカーと化し、散々追い掛け回した後に彼女を捕まえ自室に監禁したそうで。それが発覚すると、犯罪者として拘束され、後に処刑されたそうだ。
なぜそこまで執拗に追いかけ続けたのだろう……。
他にも素敵な女性はいたはずなのに。
諦めて次へ行っていれば、処刑されることもなかったのに。
なぜ犯罪に至るまで立ち止まれなかったのだろう……。
どこかで少し考えてみていたなら、少しだけでも立ち止まってみられていたなら、きっと命を消されはしなかっただろうに。
◆終わり◆




