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さくっと読める? 異世界恋愛系短編集 2 (2022.3~12)  作者: 四季


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明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

 明日婚約者オードレインと結婚式を挙げる、という日、私は見てしまった――彼が知らない女性と二人きりになり密着して愛を深め合っているところを。


「ねぇ、本当にいいの? いるんでしょ、婚約者。怒られないかしら?」

「怒られないよ」

「本当?」

「ああ。あいつ、気づいていないからな。だから大丈夫。……でもごめんな、結婚してしばらくは色々あるからお前に会えなくなるけど」


 いきなり見てしまったものだから衝撃が大きくて。

 さすがにすぐそこへ出ていくことはできなかった。


 壁の陰に隠れて様子を窺う。


「いいのよ、べつに」

「だけど、だけど……これだけは信じて。俺が愛しているのはお前一人だけだから。婚約者だって、妻だって、あいつは俺の愛する人じゃない」


 口づけして見つめ合う二人。


「ここで言っていいの?」

「いいんだよ」

「……ありがとうオードレイン、あたしも愛しているわ」


 どうしよう、どうしよう――そんなことを思うが、こういう時どんな風に対処するべきなのか分からなくて。


 取り敢えず映像記録魔法を使って以上に距離が近い二人の様子を残しておいた。


 その時、女性に勘付かれる。


「ちょっと! そこにいるの誰!?」


 叫ばれてしまった。

 どうやら私の存在がばれてしまったようだ。


「どうした?」

「人がいる!」

「え。おいおい、怖いこと言うなよな~」

「本当よ! 見てきてちょうだい」


 こうなってしまった以上仕方ない――心を決め、私は二人の視界に入る位置へと移動する。


「なっ!? リリア!?」


 驚いた顔をするのはオードレイン。


「ど、どうして……ここに……?」

「すみません。実は、たまたま通りかかりまして」

「か、勘違いするなよ!? これは浮気とかではない! 彼女とは仕事の話をしていただけだ!」

「あの……私、何も言っていませんけど」

「ヴッ――」


 オードレインは自滅しているような形だ。

 こちらはまだ何も動き出していないというのに。


「でも……そちらの女性、そんなに大切なのですね」

「だ! か! ら! 間違いだ! ったく、不細工女はそうやってすぐに勘違いするから嫌なんだ」

「勘違い? そうとは思えません、だって」


 そう言ってから、私は先ほどの録画を再生する。


『ああ。あいつ、気づいていないからな。だから大丈夫。……でもごめんな、結婚してしばらくは色々あるからお前に会えなくなるけど』


 徐々に青ざめていくのは、オードレインだけではなかった。彼の相手である女性もまた青白い顔になっていっていた。どうやら一応やらかしている自覚はあったみたいだ。


『だけど、だけど……これだけは信じて。俺が愛しているのはお前一人だけだから。婚約者だって、妻だって、あいつは俺の愛する人じゃない』


 しかし――何度聞いても酷い発言だ。


 心ないにもほどがある。


「お、お前! そんなもの撮りやがって! 許さねぇ! 卑怯者!」

「結婚前日に他の女性と遊んでいる人の方が卑怯と思いますよ」


 正直もう彼を想うことはできない。

 今日までは大切にしたいと思っていたけれど。

 もう彼へ感情は冷めきってしまった。


「私、貴方との婚約は破棄します」

「な!? 何だと!? ふざけるな! 明日結婚式だぞ!?」

「式は予定通り行います。ただし、内容は別のものとします。明日は皆さんの前で貴方の行為を紹介することにでもしましょう」


 今さら彼と共に行くことを選ぶことはできない。


「貴方は来なくても結構です――どうか、そちらの女性とお幸せに」


 私は婚約破棄の手続きを開始する。


 そして、翌日の結婚式予定の時間には、皆に昨日のオードレインと女性がいちゃつく映像を披露した。


「……何これ? 酷いわね」


 参加者は内容の変更に驚いていた。


 こちらとしても申し訳なくは思う。

 祝福しようと来てくれているのに。


 でも仕方がないのだ、彼が裏切ったから。


「あの人の息子さん、他の女にも手を出してたなんて……まったく、どんな教育をしたらこんなどうしようもない人に育つのかしら」

「なんだこれ最悪だな」

「ごみ」

「いるよなこういう男、ばれても気づかないんだよな」

「下半身動物かよ」


 映像を見せられた人たちは皆『オードレインは汚いものである』というような顔をしていて、オードレインの親戚らは顔を真っ赤にして震えていた。


 無理もないか――こんな恥ずかしい映像を流されては。


 でもこれも仕方のないこと。

 彼がきちんとしていればそもそもこんなことをしなくて良かった。

 原因を作った彼が問題なのだ。


 そうして、結婚式予定の日は終わった。



 ◆



 私はオードレインからもその相手の女性からも慰謝料をもぎ取ることに成功した。


 額としてはそれほど多くはないが。

 それでも良かった。

 一切何もないよりかは少しはすっきりする部分があったのだ。


 こうして私は新しい世界へと踏み出す。


 オードレインに裏切られたことは残念だったけれど。

 その谷も越えて。

 まだまだ進んでゆく。


 人生は長いから――。



 ◆



 オードレインとの婚約が破棄となった日から二年、私は、とある写真展にて出会い知り合った領地持ちの家の長男である男性と結婚した。


 彼は少し風変わりな人。

 けれども共通の趣味がある私に対してはたくさん喋ってくれる。


 彼と結ばれることができて良かった。


 今は迷いなくそう言える。


 苦労を越えた先に見つけた幸福。

 それを何よりも大切にしていきたい。


 ちなみに、オードレインとあの女性は、あの後間もなく別れることとなったそうだ。というのも、恥をかかされたと怒ったオードレインの一族が女性に対して償いの金を支払えと強く求めたそうなのだ。それによって女性側も怒って。家と家の喧嘩に発展してしまったそうで。その中でオードレインは女性から「もう無理、さよなら」と言われてしまったのだそうだ。


 最終的にはオードレイン一族は女性の家からお金を貰うことに成功したそうだが――オードレイン自身は女性に捨てられたショックで体調不良になり、風邪のような症状から始まった体調不良が次第に悪化して、やがて亡くなったそうだ。



◆終わり◆

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