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婚約破棄後、さようなら。
大きな湖の畔に立っている。
夜で明かりもまともにないというのに、水面は澄んでいて美しい。
けれどもそこに薄く映る私自身の顔は嫌い。
美しさの欠片もないから。
昨日、結婚間近だった婚約者から婚約破棄を告げられてしまった。
それからずっと泣いていたものだから、顔中赤らんでいるし、目もとなんて腫れているかのよう。顔全体が重苦しくなっているような感覚は今も消えない。そして、水面にうっすらながら映る顔も、やはり腫れぼったかった。感覚と外から見た状態はほぼずれていなかった。
鏡を見ることなんてせず、ここへ来た。
(私は、もう……)
今日、ここで、すべてを終わらせる。
楽しかったことは確かにあった。そこそこ恵まれて育ってきたし、良い思い出もある。けれども、今はもう、それらに手を伸ばしこの世へ残るという選択はできない。
「さようなら、世界」
呟いて、湖に飛び込む。
意識が遠退く中で最期に見た夜空は……とても綺麗だった。
◆終わり◆