他の女に目がいった婚約者を許そうとは思えません! 婚約は破棄します! ~彼のその後は悲しいものだったようです~
「今日はどこ行く?」
「そうね……例のガーデンとか?」
「それはいいね!」
「構わない?」
「もちろん! そこに行こう!」
私とルカドリッツ、婚約者同士である二人にも、楽しく交流できている頃はあった。
家と家の都合から始まった関係で。
けれども関係は悪くはなく。
それなりに楽しい日々を共に過ごしていたのだ。
――ある時までは。
それは婚約から半年ほどが経った頃、私は街中で目撃してしまった――ルカドリッツが私の知らない女性と一緒に歩いているところを。
陶器のような滑らかな肌と凹凸のある女性らしい身体を持つ、雌として雄を惹きつけることに特化しているような美しさを持った女性であった。
ちょうどその頃から彼の私への態度は変わっていて。
彼はそっけなくなっていた。
だから、その姿を見た時、すぐにしっくりきた。
ああそういうことか、と。
彼の振る舞いの変化に納得がいったのだ。
ルカドリッツの心はもう私へは向いていない。
彼の目に映るのは別の女性。
悲しいことだけれど分かってしまった。
だから、その数日後、親と共に彼の前へ姿を現して「婚約は破棄します」と宣言した。
ルカドリッツは驚いていたけれど、街中で女性と歩いているのを目撃したという話をすれば他の女性がいることを素直に認めて婚約破棄を受け入れた。
こうして彼との縁は終わりを迎えることとなった。
その後彼から少額ではあるが償いの金を支払ってもらうことができた。
◆
ルカドリッツとの婚約が破棄となって数ヶ月が経った頃、領地持ちの家の子息であるアインという青年とある茶会にて知り合い、彼と結ばれる方向に話が進んだ。
「本当にいいの? アイン。私、婚約破棄直後なんだけれど」
「いいよ。べつに今日夫婦になるわけじゃないし。日は問題ないでしょ」
アインは私より年下だ。けれど年齢のわりに落ち着いた雰囲気の持ち主で。しかしそんな中でも明るさはあり、爽やかな感じの人である。一緒にいて心地よいタイプだ。
「そうだけれど……気持ち的に」
「それなら気にしない」
「そう……」
「何か?」
「いいえ。ただ、何だか申し訳なくて」
「何それ、変なの。やらかしたのは向こうなんでしょ? 婚約が破棄になったっていっても君は何も悪くないんだから、そんな風に思う必要は全然ないよ」
◆
あれから数年。
私はアインと夫婦になり、第一子も誕生して、温かな環境で生きられている。
とはいえ大変なこともある。
特に今は赤ちゃんがいるのでなかなか寝られない。
「すごく眠そうだよ!? 大丈夫!?」
「う、うん……ええ……平気、よ……」
「そうは見えないけど!?」
「大丈夫……眠い、のは、あるけど……」
「育児手伝うよ」
「いいのよ、気にしないで……」
「いやだから寝惚けてたら危ないって!」
ちなみにルカドリッツはというと、好きな人と結ばれることはできなかったそうだ。
というのも事情があって。
薬物やら暴力事件やら問題を起こすことが多すぎるアルバテルス家の娘に気に入られてしまい、しまいには強制的に結婚させられてしまい、アルバテルス家の屋敷に監禁されてしまったそうなのだ。
彼はいつも外へ出たがっているそうだが、扉のない部屋の中に閉じ込められてしまっていて、どうしようもない状況だそうだ。
愛する人と結ばれることができないどころか親と会うことさえできないなんて、可哀想に。
◆終わり◆




