貴方のような人とは生きていけませんので、婚約は破棄とさせていただきます。~そんなことをしていてはどちらにも捨てられますよ~
私には婚約者がいる。
その名はオーガンドという。
二つ年上の男性だ。
夕陽のような色の髪が特徴的な人。
その日私は婚約者に改めて挨拶をするため両親と共に彼の家へ向かっていた。
しかし、その時に、驚くべき場面を見てしまう。
「オーガンドぉ、本当にいいのぉ? これからもここへ来てぇ」
「いいんだよ」
「でもぉ、婚約したんでしょぉ?」
「いいんだよ、あんなのは形だけの婚約だから。あんなの愛じゃない。俺が愛しているのはこの世でただ一人、エルフィ、お前だけだよ」
「んふふぅ、嬉しぃ」
そう、オーガンドが自室で薄着な女性と絡み合っていたのだ。
さすがに全裸ではなかったけれど、それでも、婚約者がいる身でそこまでするのはあまりないことだろう。
とはいえ今出ていって怒るのは気まずくてできない――そう思っていたのだが、私が何か動くより早く父が動いていた。
「オーガンドくん! 何をしているんだ!」
父は迷いなく彼の部屋へ突撃していた。
恥ずかしい……。
見ているだけでも恥じらいが……。
でも、いつか誰かがしなくてはならないことだ。
「何だよおっさんいきなり」
突撃してきた男性が私の父であると気づいていないオーガンドは目つきで圧をかけるようにしながら発した。
「レイの父だ!」
「っ……!」
オーガンドの表情が変わる。
さすがに、まずい、と思ったようだ。
「オーガンドくん、女がいたのか!?」
「こ、これは、違って……遊び! ただの遊びなんです!」
急に話の方向性を変え始めるオーガンド。
不自然過ぎる……。
「嘘だな」
「そんな!? 嘘なんて言いません!」
「だがさっきその女性に向かって『俺が愛しているのはこの世でただ一人、エルフィ、お前だけだよ』と言っていただろう? それが嘘だと、そう言うのか?」
「そ、それは……そういう雰囲気だったから……」
「まぁいい。いずれにせよ、雰囲気でそんなことを言える男に娘をやることはできんのでな。婚約は破棄とする!」
父ははっきりとそこまで言ってのけた。
「それでいいな?」
確認されたので。
「ええ」
私はそう答えた。
愛している人がいるのにオーガンドを無理矢理自分のものにしようとは思わない――私とてそこまで困ってはいない。
「レイさん! 誤解しないでください!」
「いえ、気にしていませんよ。どうか、そちらの女性と仲良くなさってください。お幸せに」
こうして婚約は破棄となった。
意外な展開だったけれど、でも、早く気づけて良かったと思う。
結婚してからこんなことが判明したらややこしいから。
ややこしいこと、問題があること、そういうことほど早く判明してほしいものだ。
その後父が頑張りオーガンドから償いの金をもぎ取ることに成功した。
◆
オーガンドと女の関係を知ったあの日から、今日でちょうど一年半。
明日私は結婚する。
もちろん、オーガンドではない男性と。
結婚相手となった彼は、歴史あるカップアンドソーサーの販売店エルフィートを営むエルフィート家の子息、後継ぎだ。
ちなみにオーガンドはというと、あの時色々言ってしまったために、怒ったエルフィに捨てられたそう。で、それから現在に至るまで、ずっと一人ぼっちだそうだ。エルフィの怒った姿が怖すぎてトラウマになり、女性に声をかけられなくなってしまったのだそう。
ま、自業自得だが。
すべて彼の行いが招いたこと。
きちんと生きていればそんなことにもなっていなかっただろう。
◆終わり◆




