婚約破棄を告げられた魔女は精霊と生きることにした。
私、ルルカ・フローレンは、魔法を使うことを生業としている魔女である。
魔女と言っても、悪事を働くわけではない。
病気や怪我を治したり、困っている人の悩みを解決したり、そういうことが主な仕事だ。
つまり、害はない。
ただ、人里から離れたところに住んでいることもあって、人を食べるだの人々を呪っているだのと事実でないことを言われてしまうこともある。
そんな私にも、一応、婚約者がいるのだが……。
「ルルカ、君との婚約は破棄する」
その日、私は告げられてしまった。
婚約者の彼ボードレンが私が住む森の家へ来ることは珍しい。それもこちらが呼んでいないのにやって来るなんて、特に珍しいことだ。だから少々嫌な予感はしていた。
「婚約破棄、ね……」
「何だ? 不満か」
「いいえ。ただ、急だなと思って」
「不満じゃないか」
「違うわ」
「まぁいい、そういうことだから」
少し間を空け、彼はふっと笑う。
「魔女なんか妻にしたら末代まで恥をかくよ」
馬鹿にされている。
すぐに分かった。
けれどもここで相手の思惑に乗っかるわけにはいかない。
ここで怒れば乗せられてしまっている。
「そう、じゃあさようなら」
だからこそ、笑顔で返そう。
こうして、すべて終わった。
「はーぁ」
婚約破棄、か。
私は座り慣れた椅子に腰を下ろして溜め息をつく。
確かに、私は、普通の人間とは少し違っている。魔法が使えて、それを生業としているから。魔女と呼ばれるのも仕方ないことなのだろう。悪人と誤解されがちな点だけは不満だが、それも、この状態では仕方ないのかもしれない。
「ルルカ! 今日は元気ないね! 何かあったのかい?」
声をかけてきたのは、精霊のポポ。
少年と魚を掛け合わせたような容姿の水の精霊。
体表は粘液で覆われており、触れるとやや湿っている。
「婚約破棄されたのよ」
「ええっ、そんな!」
「ま、魔女だから仕方ないわね」
「どうして! ルルカはとっても優しいのに!」
かつてポポを危機的状況から救ったのは私だ。
それ以来彼はここに居座り続けている。
もっとも、おかげで水には困らないのだけれど。
「まぁ、魔女だから。誤解されても仕方ないわね」
「どうして! そんなの、ぼく、嫌だよ!」
「分かってくれる人が分かってくれればそれだけでいい、他はどうでもいいの。でもポポ、貴方はここにいて。その方が楽しいから」
「わぁーい! 嬉しいよ!」
彼は賑やか、たまにうるさいくらい。
でも、そういうのも悪くない。
「何なら、ぼくがルルカを幸せにするよ!」
「ありがとう」
「ええっ。意味伝わってる!?」
「一緒にいてね」
「伝わってない、ような……もやもややん……」
これからは魔女を良く思わない人と関わりを持つのは避けよう。
◆
あれから数年、私は今も、森の家に住んでいる。
ポポを筆頭に数体の精霊と一緒に暮らしている。人との関わりは最低限、前から客として来てくれている人たちくらいだけ。でも穏やかに楽しく生活できている。美しい自然の中で精霊たちと暮らす、というのも、案外悪くない。
ちなみにボードレンはというと、あの後複数の女性と同時に付き合っていて女性同士が大喧嘩に発展してしまい、女性二人の喧嘩を制止しようとして刃物で刺されたそうだ。
負傷した状態で運ばれ、医者に手当てしてもらうも、既に手遅れだったらしい。
◆終わり◆




