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愛してる、なんて、婚約者がいる身で他の女性に囁くものではないですよ。~貴方との婚約は破棄としますね~

 愛してる、なんて言葉は、簡単に言えるものだ。


「君が一番好きだよ。愛してる。ずっとこうして会おうね」

「エデロース様……!」


 婚約者エデロース、彼は、かつて私との婚約を強く望んだ。

 そして私は流れに乗るように彼と婚約した。

 両親が乗り気だったからその勢いに押されたための婚約とも言えるが。


 けれど今日、私は見てしまった。


 エデロースが路上で私ではない女性に愛を囁いているところを。


「エデロースさん……一体何をしているのですか?」

「なっ……リリア!?」

「そちらの女性を一番愛しているのですか?」

「か、勘違いしないでくれ! 君は別枠だよ! この女性はそれ以外の中で一番ってことだよ!」


 意味が分からない。

 何を言われても受け入れられない。


 私に責めれられないようにそう言っている、としか思えない。


「エデロースさん、残念ですが、婚約は破棄とします」

「な、何で!?」

「そちらの女性と幸せになる方が貴方のためと思いますので。では私はこれで。さようなら」


 私は婚約の破棄を強く決めた。


 だってそうだろう? 彼はあの人を愛しているのだ。なのに私が婚約者という場所にいたら邪魔だろう。私がいなければもっとあの女性と一緒にいられる、ということなのだろう? ならば私は消えてあげても構わない、元より彼を強く求めてなどいないから。


 その後きちんと手続きを進め、婚約は破棄とした。



 ◆



 春、夏、秋、冬、季節がすべて通り過ぎた。


 そしてやがて私には結婚する予定の人ができた。


「結婚かぁ、ドキドキするね」

「そうですね」


 彼はこの国で最高レベルと言われる大学にて砂の研究をしている。

 研究熱心で少々気難しいところのある人のようだが、私には意外と親切にしてくれている。


「リリアさん、そろそろ普通に喋ってよ」

「え?」

「敬語だと距離が縮まらないからさ」

「ええ……難しいです」


 忙しい時はなかなか会えない時期もあったけれど、時折でも連絡を取り合って、関係をここまで続けることができた。


「いいからいいから! 練習してみて!」

「分かりま――いや違った、分かったわ。って、こんな感じ……かしら」

「そう! それ!」

「試してみるわ……」

「ありがとう」


 きっと、この先も、少しずつ前へと進んでゆこう。


 そう思っている。



 ◆



 あれから五年、私は今も砂の研究をしている彼と夫婦になって穏やかに暮らしている。


 もうすぐ第一子が誕生する。

 なので忙しくなりそうだ。

 けれども今はまだ穏やかに暮らせている。


 そうそう、そういえば。


 これは最近近所のおばちゃんから聞いた話なのだが、エデロースはあの後あの女性に激怒され逃げられて一人ぼっちになってしまい、そのことを苦に命を絶ってしまったそうだ。


 理由が理由なので葬式も大規模にはできず。


 親だけが参加しての葬式となったそうだ。


 婚約者がいる身であんなことをしていなければ、今頃、きっと私と夫婦として暮らせていただろうに――人生とは分からないものだ。



◆終わり◆

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