私のことを愛していると言っていた婚約者、実は他の女と仲良くしていました。~そういうことならお別れです~
私の婚約者であるエルキはやたらと私のことを褒めてくれていた――思えばその時点で不自然だったのだけれど。
でも、私は、そのことに気づけていなかった。
純粋に大事にしてくれているのだと思っていて、告げられる「愛している」とか「出会えて良かったよ」とかいう言葉もそのままの意味で受け止めてしまっていたのだ。
けれども違った。
私は見てしまったのだ――街中を腕組みしながら歩くエルキと知らない女性の姿を。
しかも、二人はしばらく歩くと路地裏に入っていって。こっそり後をつけて様子を見ていたところ、とんでもないことをし始めた。路地裏とはいえ公の場なのだから普通はそんなことはしないと思うのだが、二人はそうではなく。二人はそこでいちゃつき始めた。しかも甘ったるい愛の言葉を吐き合いながら。
エルキが言っていた言葉たちはただ言っているだけのものだったのだ。
その時になって気づいた私。
気づかなかった自分にも非があると思いながらも、それでもやはりショックだった。
その後私はエルキと女性に関して調査を開始する。
親の知人が営む調査組織に依頼し二人の関係や行為に関して調査してもらうこととなった。
「安心してくれ、我が娘よ。証拠が挙がればあとは婚約破棄するだけだ。その時にはわたしが言ってやるから」
父はそう言ってくれた。
父のことは大好きというわけではなかったけれど、この時ばかりはとても頼もしく思えた。
それから数週間、エルキと相手の女性――名はルイーネというそうだ――二人の濃厚な関係に関する証拠物が提供された。
これならエルキとの関係を終わりにできる。
私もそれで悔やむ心はない。
未来が見えてきたような気がした。
◆
その後、父がエルキとルイーネを呼び出し、関係性について問い詰めた。
最初は否定していた二人。学園時代の友人、とか、仕事の関係もあって、とか、色々言い訳のような言葉を並べていた。しかし、父が証拠となる物品を出して見せると、二人の顔色は変わった。
「ち、違うんだ! 俺は! 俺はこの女に唆されて! こういうことを強要されたんだよ!」
エルキは急に逃げに走る。
ルイーネにすべての責任を押し付けようとしている。
女性に責任を押し付けて自分だけ助かろう、とは……。
「えっ!? ちょっと! 何言い出すのよ! まさかあんた、あたしだけを悪者にする気なの!?」
ルイーネは驚きに面を染め上げている。
それは分からないでもない……。
二人でいた時のエルキの顔は嫌々といった感じではなかった。
むしろ、心の底から愛している、というような表情だった。
あれを自分に気はなかったとは言えない、普通は。
でも今のエルキはそんな滅茶苦茶なことが言えてしまうほど追い詰まって焦っているのかもしれない。
「だってそうだろ、最初声かけてきたのはそっちだっただろ」
「はぁ!? 仲良くしてたのは同意のもとでしょ!?」
「と、とにかく、お父さん! 俺は娘さんだけを愛していました! この女と一緒にいたのは、その、その、脅されていただけで! それ以外の何でもありません!」
「待ちなさいよ! 嘘つくな!!」
喧嘩を始める二人に、父は告げる。
「ま。何にせよ、こちらの決定は変わらない。エルキくん、君と我が娘の婚約は破棄とする! ……二人とも、慰謝料はしっかり払ってもらうからな。もちろん、ルイーネさんも、だからね」
こうして私とエルキの婚約は破棄となった。
その後私は二人から慰謝料を支払ってもらって。
急にお金持ちになった。
だからといって真っ直ぐに喜べるわけではないけれど。
でも、まぁ、これはこれで良かったのかもしれない。
◆
その後私は国開催の魚釣り大会に参加したことをきっかけに王子と知り合い、彼に見初められ、彼と結ばれた。
こんなことになるとは。
想定していなかった。
でも、エルキとあのまま関係を維持していたよりかは、今のこの人生の方がずっと良いものだと思える。
これから学ばなくてはならないことはたくさんあるけれど。
でもそこは一つずつやっていけばいい。
そうそう、そういえば、これは親を通じて聞いた話なのだけれど――エルキとルイーネの関係は、こちらから婚約破棄を告げたあの日に終わったそうだ。
二人はあれ以来一度も会うことはなかったそうだ。
ただ、娘は騙されていたと言い怒ったルイーネの親が、エルキに慰謝料のようなお金の支払いを求めたそうだ。
だがエルキ側はその支払いを拒否。
それによってさらに怒ったルイーネの父親に、ある晩急に襲われ、エルキは殺められたそうだ。
こうしてエルキはこの世から去ったのだが、ルイーネがそれで救われたわけではなく。むしろ、人殺しの娘として冷ややかな目を向けられることとなったために、ルイーネは心を病んでしまったそうだ。
◆終わり◆




