私は不幸になんてなりません。~婚約破棄して勝ったと思ったら大間違いです~
「君との婚約は破棄とする!!」
婚約者ポックは片手を前に大きく伸ばし勝ち誇ったような顔つきでそう宣言した。
俺が勝者だ、と言わんばかりのポック。
いろんな意味で残念な彼の隣には栗色の髪の女性が黒い笑みを浮かべながら寄り添っている。
そう、二人はぐるなのだ。
婚約者であるポックとその正式ではない恋人リリイナ、二人はこれまでも私を陥れようと画策してきていた。人前で恥をかかそうとしたり、小さな嫌がらせを繰り返したり、そういうことをしてきた。
つまり、私にとっては二人とも敵なのだ。
「ごめんなさいねぇ~、こんなことになってしまってぇ~」
「いいんですよリリイナさん。どうか二人でお幸せに」
リリイナの嫌み満点な発言には乗せられない。
笑顔で言葉を返しておく。
すると彼女は舌打ちしながら「おもんね」と睨んできた。
何とでも言っていればいい。
「リリイナを傷つけるな!」
「はい? 私はお二人の幸せを願っただけですけど」
「ぐっ……」
ポック、彼は馬鹿なのだろうか。
「それでは私はこれで。さようなら」
一礼すると。
「ふん! 可愛くない女め、婚約破棄されたと恥をかけ。そして不幸になれ!」
嫌がらせの的になるだけの婚約者の座なんて要らない。
……でも、この会話はすべて録音している。
いや、今日だけではない。
これまでもずっと。
二人の会話で私に関係するものはほとんどを録音してきた。
◆
数ヵ月後。
私はとある会にてこれまで溜めてきたあの二人の会話を披露することにした。
この催しは、そのために開かれた会とも言える。
これでも私の家はある程度人脈と権力がある。
催しを開催するくらい容易いのだ。
「皆さん、それでは、ポックさんとリリイナさんの失礼な言動をお楽しみください」
流れ出す二人の声。
『あの女、婚約破棄して恥かかせてちょうだいよ~』
『いいな!』
『名案じゃない~? 婚約破棄されたなんてことになったら、彼女、きっともう道も歩けないわ~』
『それはいい! そうしよう! リリイナは天才だな』
参加者はポックとリリイナの酷い会話を次々に聞くこととなった。
◆
そうそう、これは後日耳にしたのだが。
ポックを雇っていた会社の社長がたまたまあの催しに参加していたそうで、愛妻家な彼は「婚約者に対してあのような仕打ちをするとは、人として理解できない」と怒り、ポックをクビにしてしまったそうだ。
突如仕事を失ったポック。
働く場所を探すもなかなか見つからず、そのうちに貯金がなくなって。
最終的にはリリイナが身を売って生活費を稼ぐこととなったらしい。
そんな状態だから、プライドが高い二人はもう出歩くことさえまともにはできなくなってしまったらしい。
私? 私は今も実家で穏やかに暮らしている。最近は知人が教えてくれたことから狩りに目覚めて、友人とよく山へ行っている。新しい趣味が増えるというのは良いことだと心から思う。新たな趣味から人脈も広がっていっているし、人生の楽しさも右肩上がり。
婚約破棄して勝ったと思ったら大間違いだ。
◆終わり◆