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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter1 ブラックブーツ
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Chapter1-xx

この話は晴久君はお休みです

「お待たせしました」


「別に待っちゃいねぇが、もう良かったのか?」


「はい。結局着替える事にはなるでしょうが、私が居る必要はなさそうでしたので。それよりどうでした?」


「悪くねぇんじゃねぇか? 長野の所の坊主は、これから体の使い方を学べば今回ぐらいのはどうとでもなるだろう。嬢ちゃんの方は今後あの足のヤツに振り回されなきゃいい線はいくだろ」


「まぁ、晴久君達の事も聞きたかったのですが、今のは別の事のつもりで聞いたつもりでした……が、今後を想定したと言うことは……」


「多分テメェと新道の予想通りだな。アイツの急成長は作為的なもんだ。手の加え方は俺でも分かるぐらい雑だけどな」


 その言葉に、ご謙遜を……と返す亜古宮は、目の前でタバコを吸いながら周囲を見渡す男から視線を外して、同じ様に周囲の観察を始める。

 すると、その男の言うようにセラが吸収した異物の破片からは僅かではあるが別の気配が感じ取れ、その気配の残痕は本来であればこの場にはありえないモノ。


「久々に新道から連絡きただけで驚いたってのにテメェまで訪ねてきたと思ったら、随分と面倒くさそうな事になってんな。検討はついてんのか?」


「大凡は。二、三ほど拠点らしき所は潰したんですが、大した打撃にもなっていないでしょう」


「そりゃ大変そうだな」


「他人事ですねぇ」


「実際他人事だ。今回だって昔のよしみで手を貸しただけで、俺等には俺等の生活があんのは分かってんだろ?」


「遅かれ早かれだとは思いますが」


「それでもテメェが進んで俺等を巻き込むのは話がちげぇだろ」


「だから新道 清次郎を通してからお伺いしたんですよ。私は私なりにそちらのルールに従っているつもりなので、そうピリピリしないでくださいよ」


 そう言う亜古宮の態度が気に食わないのか、男は返事こそしないものの咥えていたタバコからは弱くも炎が揺らめきだし、それに気付いた亜古宮は男の次の行動を察して近付こうとしていた足を止めて距離を取った。


「はぁ……テメェの相手は疲れる。腹も減ったし、そろそろ切り上げるぞ」


「これ以上は収穫もなさそうですし、そうしましょう」


 指で弾かれたタバコが空中で燃え尽きると同時に廃工場内は業火に包まれ、廃工場内の全てを灰に変えると男の手に炎が吸い寄せられる様に集まり何事もなかったかのように消える。

 廃工場内に残ったのは亜古宮と男のみ。

 その他の痕跡は一切なく、灰や焦げ目までもが消えていた。


「いやはや、流石鬼の魔王に気に入られただけの事はある。貴方も相変わらずお強いですね」


「アーコミア」


「亜古宮です」


「テメェが何をするかは勝手だが、テメェが俺等を動かせると勘違いはすんじゃねぇぞ」


「もちろん承知してますよ。ですが忠告をするのは自由でしょう? 盗聴の可能性も今しがた消し炭になったので」


「……はぁ、勝手にしろ」


「では……今後はお気をつけください。新道 清次郎も気にしていましたが、些かここ数年異物が活発になっています。私の役目であるのは確かなんですが、あまりにも発見できた数が多すぎる」


 今までとは違い真剣な表情の亜古宮は、ポケットに入れていた首輪を取り出して黙って聞いている男に見せた。

 その首輪は、以前に晴久を襲った巨大な犬が付けていた異物。


「そして、どうやら私以外にも人工的に異物を作り出してる輩が居るようです。それも私や貴方達がこちらに来るよりも前から」


 亜古宮の言葉に男は一瞬だけ目を見開き、次の瞬間には疑いの視線を向けたが、すぐに興味を無くした様子でタバコを咥えようとしたが止めて出口へと歩き始めた。


「忠告は感謝しておく」


「あぁそれと、個人的に気になったんですが、一三 秀彦さんとお知り合いなんですか?」


「あん? 一三? どっかで聞いたな」


「警察庁警備局公安課 超常現象対策室で室長をしている一三 秀彦です。あ、役職を聞いた事はご内密に」


「公安の超常現象? そんな嘘くせぇ……あー、大分前だが連れのカバン引ったくった奴と悶着があった時に居合わせたのが、確かそんな名前だったな」


「それだけですか? 向こうは随分と親しげな雰囲気でしたが」


 食い下がる亜古宮に対して男は面倒くさそうな様子で改めてタバコを咥え、軽く手を翳すだけで火が着いたタバコを軽く吸い、わざとらしく悩む素振りを見せ、そのまま答える事無く廃工場から出ていこうとする。


「無視ですかー?」


「昔からサツは嫌いでな。細かい事は忘れちまったよ」


「ふむ……今はそういう事で納得しておきましょうか。この際、聞きたい事が色々とあるのですが、それもまたの機会にでも」


「そんな機会はごめんだ。まぁ、精々頑張れや。二度と会わない事を祈ってるぜ。亜古宮さん」


「激励ありがとうございます。それと片方がそう願うと機会に恵まれるようなので、私からはまた会いましょう。とお言葉を返しておきますよ。佐々木(ささき) (のぞむ)さん」


 佐々木と呼ばれた男は亜古宮の言葉に鼻で笑い返し、そのまま炎に包まれて消えた。

 そこから数秒して聞こえ、遠くなっていくエンジン音を耳にしながら、亜古宮も廃工場を後にする。




---

--




「えーっと、ウェットティッシュとゴミ袋。ボディーソープと……そういや俺のシェービングジェルも少なくなってたな」


「おつかいかな?」


「はい? ……はぁ、何のようだ」


 帰宅途中、スーパーに寄って買い物をしていた佐々木は声を掛けられ振り向くと、先日珍しく連絡してきた人物が立っていた。


「買い物中に知り合いを見かけたから声を掛けた。ではダメかな?」


「ここは人工で島まで作るような金持ちが来る店じゃねぇよ」


「それはお店に失礼だろ。それに俺だって普通にスーパーやコンビニで買い物するさ」


「人工島には何でも揃ってるって聞いてるぞ」


「実はビールは無いんだよ」


 男――新道 清次郎が引いていたカートには、確かにビールケースが二つと何種類かのおつまみがあり、佐々木は軽く鼻で笑い返して自分の買い物を続け始める。


「それで何の用だ? 今日の報告はアーコミア……いや、今は亜古宮だったか。そっちからいくんだろ?」


「今回、手伝ってくれた分の報酬は何が良いかと思ってね。メールとかで聞いてもよかったんだけど、まぁたまには顔を見ておこうかと」


「別に気にすんな。確かに今日は娘と寝る約束があって間に合うか分からねぇが、お前からの頼みならとカミさんは納得してくれてる」


「それを聞いたらますます申し訳ないじゃないか」


「わざとだ」


「だろうね」


 二人は軽く笑い、お互い買う物を選び終えてレジへと並ぶ。

 そして会計を済ませた二人は飲み物を片手に喫煙所へと場所を変えた。


「他に要件があるなら、コレが吸い終わるまでに話せよ。これ以上帰りが遅くはなりたくねぇ」


「そうだね。俺もそろそろ戻って今日の分の仕事を終わらせないといけないな」


 新道は懐から二つの装飾された封筒を取り出し、受け取った佐々木は自分の宛名が入っている方の封筒を確認した。

 どうやらそれは同窓会の招待状の様で、それを見た佐々木は少し顔をしかめながら買った物を入れたリュックの中にしまう。


「二ヶ月後か」


「やっと予定が取れてね。なんと、今回は彼も来る。泊まりで」


「は?」


 彼が誰を指しているかがすぐに分かった佐々木は、驚きのあまりに目を見開き、持っていたタバコを落としかけた。

 新道が主催で開かれた同窓会は今回で三回目。そして彼が来たのは最初の一回目だけであり、それもごく僅かな時間で佐々木は会っていない。

 それには理由がある。その理由を知っているからこそ佐々木は泊まりでという事に驚いた。


「いいのかよ、そんな勝手して」


「先々月に連絡が取れたんだけど、どうやら向こうの事情があるらしい」


「ぜってぇ碌なことじゃねぇぞ。その事情ってやつ」


「俺もそう思う。なんせ今回の同窓会を開いてくれって言ったのは彼だし、できるだけ全員参加させるようにとも頼まれてるからね」


「だからわざわざお前が出向いてんのか。はぁ……もう欠席で出していいか?」


「構わないけど、俺の予想では多分会いに行くと思う。本人か、もしかしたら奥さんの方か、はたまた両方か」


「そっちも来んのか……」


 ニコリと笑う新道に佐々木は大きな溜め息を煙と共に吐き捨て、リュックを背負い頭を抱えながらバイクの方へと向かう。


「それじゃあ、次は同窓会で」


「はいはい」


 背中越しにやり取りと済ませた佐々木は、もう一度心底嫌そうな溜め息を吐いてから遠ざかっていく。

 普通ならば聞こえることのない距離で漏らされた大きな溜め息を耳に、苦笑いを浮かべ佐々木を見送った新道も静かにその場を後にした。






お読みいただきありがとうございます。

これからもお付き合いいただければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ライターは炎帝の力だってことか。 魔力篭ってないって言ってたしな。
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