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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter1 ブラックブーツ
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Chapter1-4

 あぁ~~~だるいわ。

 魔力カラカラに使って二日経ったけど……だるいわ。

 今日一日学校休んだにも関わらずだるいわぁ。


「晴久? 晩ごはん、何か食べたいのある?」


「えー、あー、里芋の煮っころがし」


「あら……お父さんも同じリクエストだったのよね。んー……お肉とお魚どっちがいい?」


「肉」


「お肉ね。帰ってくるまでには出来てるから、頑張ってらっしゃい」


「んー、お袋もいってらー」


 今の時間は……四時か。迎えはまだ来ないし、晩飯は遅くなりそうだなぁ。でも今すぐ来られても、ダルさマックスで動きたくない。

 だからってテレビも面白そうなのやってないしなぁ。


「なーんもする気がおきなーーい」


「なんだ晴久、そんな調子で大丈夫か?」


「親父……無理だわ。なんかダルさが抜けない。俺はもうダメかもしれない」


「縁起でもない事を。どれどれ……なるほどなるほど」


「何してんの?」


「ちょっとまっとけ」


 俺の声を聞いてなのか、自室から出てきた親父は俺の頭に手を置いて、何か納得した様子で自室に戻っていった。

 一体何だったんだ。


「ほれ、これ食え」


「いや、マジでなにこれ」


 改めて自室から出てきた親父に投げ渡されたのは、形からして四等分ぐらいにされた飴玉みたいなやつの一欠片が包まれた紙。

 親父から渡されたとはいえ、一個丸々じゃなくて欠片って……流石に口に含むのに抵抗があるんだが……。


「今まで枯渇するまで使った事も無かっただろうし、この世界ってのも相まってまだ魔力を上手く回復できてないんだろ。一時すりゃ使い果たしても一日程度でそれなりに回復できるようにはなるとは思うけど、今日のところはそれ食っとけ」


「だからコレ何? 飴玉の欠片? なんで欠片?」


「もしもの時用に魔力が回復できる飴の欠片だ。丸々一個は流石に過剰だから、問題ない程度がそれぐらいだろう」


 まぁそういうことなら……魔力回復用の飴とか、なんかマジでゲームじみてるな。

 あ、おいしい。もっとエグい味してるもんかと思ってた。


「ちなみにラムネ味だ」


「ちなみについでに、欠片じゃなくて一個そのまま食ったらどうなんの?」


「そうだなぁ……多分だが一週間ぐらい寝込むと思うぞ? 晴久は俺等の子だからそれぐらいで済むとは思う」


「んじゃ普通の人がこれ食ったら……」


「準備無しに食えば、欠片でもふた月は寝込むんじゃないか? 父さんも試したことはないから予想になるけどな」


 そんな事をした日にゃ説教で済まないだろうが……と続けてぼやく親父の目はどこか遠い。

 お袋に怒られてる親父を見てみたいって思ったのは内緒だ。

 しかしこの飴すごいな。疲れが取れていくというか、倦怠感が無くなっていくのが実感できる。魔力の有無ってここまで体感できるもんなんだな。


「どうやらお迎えが来たみたいだな」


 親父がそう言って数秒後、インターホンが鳴った。


「よく分かったね」


「車が家の前で止まったからな」


「魔法で気づいたん?」


「普通に音でだ。まぁ、半分ぐらいはそれで正解でもあるけどな!」


 アッハッハ!と笑う親父は、頑張ってこい。とお袋と似たような事を言ってから部屋に戻っていく。

 そういや親父達は個々で特別な力を貰ったとかで、俺はお袋の力を引き継いでるらしいけど、結局親父の特別な力が何か聞きそびれてるな。

 親父の自室には入るなみたいな事をずっと言われてるし、もしかして関係あったりするのか? 昔、興味本位で入ろうとした時は鍵が掛かってて断念したっけか。


「今なら入れてくれ「はーるーひーさー! 迎えに来たわよ―!」……帰ってきてからでもいいか」


「ほ~ら、女の子を待たすもんじゃないぞぉ~」


「うぜぇ……」


 セラの声が聞こえるやいなや、自室から顔だけ出してニヤニヤしてる親父に聞こえない程度で呟いてから玄関へ向かう。まぁ、どうせ聞こえてるんだろうけどな。

 準備していた荷物を持って動きやすさ重視で靴を履いて玄関を開ければ、セラは前に見た時とあんまり変わらない服装で立っている。


「おまたせ」


「少し待ったわ。寝てたの?」


「いや、ちょっと考え事してた」


「ふーん。まぁいいわ、早く行きましょ」


 セラに続いて玄関前に止まっている車に乗ると、ルームミラー越しに運転手の人の気だるそうな目と視線が合った。


「長野 晴久君だね?」


「あ、はい。えっと……」


「少し移動に時間が掛かる。移動しながら自己紹介もしよう」


 そのまま車が出発して数分ぐらいか? セラは隣で携帯を弄り、運転手も特に喋ることもなくやたら長く感じる沈黙の時間。

 なんか喋りかけづらいなと思っていると、信号待ちになってやっと運転手の人が口を開いた。


「遅くなって悪いな、俺は一三にぬき。漢数字の一と三って書いて一三にぬきだ」


「おぉ……なるほど、珍しい名字っすね」


「よく言われる。長野君でいいかな?」


「大丈夫っす」


「長野君が亜古宮とどこで知り合ったか聞いてもいいかな」


 あぁそういえば、一応頼れるとか不安な言い方してたけど、一三さんも亜古宮さんの知り合いなんだっけ。異物の気配とかしないから、異物関連の関係者なのかも分からないし、どこまで話していいか分からないな。

 こんな事を聞くぐらいだし、俺等の事もあんまり共有してないっぽいし……どうすっかな。


「公園で犬に襲われてるところを助けて貰った時? ですかね」


「えっ、野良犬に?」


「多分? 情けない話っすけど、その時気絶しちゃって犬がどうなったかとか詳しい事は分からないんすよね」


「……なるほど、それは災難だったね」


 今、ミラー越しに睨まれてた気がする。もしかして探られてる? 嘘とか分かる系の人なのか? いやでも大丈夫なはず。一応嘘は言ってないし。

 そうだよなぁ、亜古宮さんの知り合いだもんなぁ、何かある人だよなぁ。


「一三さんは亜古宮さんとどういう関係で?」


「んー、以前俺の仕事を手伝ってもらったぐらいの仲だ」


「何の仕事してるか聞いても?」


「大した仕事じゃない。主にデスクワークをして、書類整理をして、亜古宮には少し仲介を頼んだことがあるんだ」


「そういや亜古宮さんの名刺に仲介相談屋とか書いてあった気がします」


「亜古宮は何でも屋みたいな所があるからな。さてと、到着までもう少し掛かる。他に質問があれば聞いてくれ。今のうちに親睦でも深めよう」


 何か聞きたいこと……特に無いな。セラみたいに今後の仕事仲間って空気でもないし、あんまり気になる事もない。

 そういえばセラは静かだな。携帯ずっと弄ってんのか。


「ん? 何?」


「いや、静かだなぁって」


「いつも私は騒がしいって意味かしら」


「そういう意味じゃ……」


 そもそも、いつもを指摘できるほど一緒に居た事も無ければ、知り合って日が浅すぎるだろ。

 一三さんも鼻で笑ってるし、そんなに睨まれても困る。


「ふふふっ冗談よ。Mr.ニヌキ、私からも質問いい?」


「もちろん構わない。篠原君は俺に何を聞きたいのかな?」


 あんな表情コロコロ変えられるのかよ。セラは携帯しまってもうニコニコと質問する気満々だし……女ってこえぇよとーちゃん。


「それじゃあ、Mr.ニヌキのファーストネームは?」


秀彦(ひでひこ)。ミドルネームは無いよ」


「ファーストネームは結構聞くわね。日本のドラマで五人は聞いたわ。次は歳、いくつ? 私は十六」


「おじさんは三十八」


「私のパパとは十違いね。んー、趣味は?」


「あー……タバコ? コーヒーもお供だな」


「肩身の狭そうな趣味ね。コーヒーは自分で?」


「自動販売機ならボタン一回三秒で買える」


「……日本にもコーヒーショップはあったわよね?」


「おじさんは呪文を唱えるのが苦手なんだ。ブラックしか飲まないって拘りもあるからね」


「ブラックコーヒーの注文はそんなに難しくないわよ。まぁそうね、次の質問、休みの日は何してるの?」


「意外と質問が多くてびっくりだ。まるでお見合いをしている気分だな」


「十六歳とお見合いできるなんて、嬉しいでしょ?」


「……丁度コーヒーショップがあったな。カフェインを買ってくるよ」


「ブラックコーヒーが出てくる呪文を教えてあげる」


 はぁー……すげぇな。知り合って間もないだろうに会話がポンポン流れるじゃん。聞いてただけなのに蚊帳の外感強すぎてなんか疲れた。いや、聞いてただけだから疲れたのか?

 とにかく、二人とも店に行ってくれて、やっとなんか呼吸できてるなって感じがする。


「待たせた。晴久君もブラックコーヒーで良かったかな? 一応ミルクと砂糖は持ってきた」


「あ、すいません。ブラックで大丈夫です。ありがとうございます。いくらでした?」


「いいよ、ここはおじさんに奢らせてくれ」


「うっす、あざっす……あれ? セラは?」


「呪文を唱えていたからもう少し掛かるんだと思う」


「なるほど」


 数分ほど黙々とコーヒーを味わっていると、車に戻ってきたセラの手にはまるでパフェのような……いや、もうパフェだろソレ。


「何話してたの?」


「何も。さっきの会話のテンポすげーなって思いながらコーヒーを飲んでた」


「映画やアニメに感化されてる所も多いわね。翻訳家は尊敬してる」


「日本語以外はサッパリ。英語の成績も見れたもんじゃない。まぁ俺の語学力はおいといて……その、カップの側面に大量に落書きされた飲み物は一体……もう匂いからして甘いんだが、今から多分動くぞ?」


「季節を添えたフラペチーノよ」


「その注文をしたらそれが出てくるのか?」


「いいえ? 同じものを頼みたいならバニラクリー「長くなりそうだからいいや」――そう? 別にそこまで複雑じゃないのに。一口飲んでみる? 美味しいわよ」


「いや、遠慮しとく」


 カップからはみ出しすぎだろ……画像でしか知らなかったけど、マジであんなの出てくるんだな。今から動く予定があるのにあんなの飲んだら絶対吐く。匂いだけで胸いっぱいだ。


「Mr.ニヌキは? 一口飲んでみる?」


「おじさんになると甘い物もキツくなってくるんだ」


「そうなの? なら私のパパはまだおじさんじゃないのかしら」


 軽く首を振りながら答える一三さんが、ほんの少し運転席側の窓を開けたことはセラには秘密にしておこう。

 多分一三さん、キツくなってきたというよりは苦手なんだろうな。


 そんなこんなで一三さんとも少し会話が弾み始めた頃、街から少し離れた所にある石壁と鉄格子に囲まれた廃工場前で車が止まった。

 でもここ、確か'なんでかどうやっても入れない'とか意味分からん噂が流れてた気がするんだが……。


「俺はここまでだ。二人はあの建物の中へって亜古宮から言伝を預かってる」


「一三さん……あそこって入れない廃工場ですよね? 結構昔からあるって噂を聞きますけど」


「入れない廃工場? あぁ、そういえばそんな話だったな。まぁ今の君達には関係ないんじゃないかな」


「……とりあえず入れるならいいっす」


 セラはもう車の外で軽くストレッチしながら待ってるし、なんか引っかかる一三さんも車から出てタバコを咥え始めたし、俺もそろそろ行かなきゃな。


「ねぇ、アンタなんでそんな大荷物なの?」


「むしろなんでセラは何も持ってないんだよ」


「携帯とサイフは持ってるわよ! それにブラックブーツも、ほら!」


「ブラックブーツに関しては荷物とかいう話じゃないだろ」


 いつの間にか鎧のパーツみたいなので膝を覆われた脚を得意げに見せつけ、スタスタと廃工場へと向かうのはいいが……セラのヤツ、自分で話した事覚えてんのか?


「ずぶ濡れのまま帰りの車に乗る気なのかね」


 なんて俺の呟きはセラに届いていないようで、俺もバスタオルとかを詰めてあるリュックを肩に、セラの後を追った。


----

--


「あー、俺だ、一三だ。前に言ってたやつ、調べ終わったか?」


 廃工場へと向かう二人を見送った一三は、コーヒーやライターなどの小物を車のボンネットの上に置き、タバコを吸いながら電話をかけていた。

 そんな時、一三の視界の端に蒼い髪の男が近づいてくるのが見えた。


「また後でかけなおす。引き続き調べててくれ」


「気にせず続けてよかったですよ?」


「仕事の電話だ。お前に聞かせたくねぇんだよ――亜古宮」


「それはお邪魔してしまいましたね」


 携帯を胸ポケットに戻した一三は小さくなったタバコを消して携帯灰皿に捨て、間髪入れず新しく取り出したタバコに火を付け、鬱陶しいと込められた視線を亜古宮へと向ける。

 だが亜古宮は一三のそんな視線を気にする事なく話を続けた。


「それはそれとして、今日は運転手ありがとうございます」


「どういたしまして。二人は中に向かったぞ? お前は行かなくていいのか?」


「もう少ししたら行きますよ。今回はあのお二人で解決してもらおうと思っていますから。それに念のためも頼んでいますしね」


 亜古宮が見た視線の先には、少し離れた所に大型のバイクが一台止まっている。


「ハーレーのファットボーイ……黒車体に赤いライン、まだアレに乗ってんのかアイツ」


「おや? お知り合いでしたか?」


「ここら一帯でアレを乗り回してるヤツは俺の知る限り一人だけだ。あの野郎もお前と繋がりあるのか」


「繋がり……まぁ、繋がりといえば繋がりですかね。別に親しいわけではありませんけど」


「幾ら調べてもお前の素性が掴めねぇのが癪なんだが、アイツに聞けば分かるか?」


「さぁ? 素性なんて言われましても、名刺は以前にお渡ししましたしねぇ……誰に何を聞くかなんて私に聞かれて分かりません」


 笑顔でそう答える亜古宮に、そういう所が気に食わねぇんだよなぁ……と小さく零し、一三はコーヒーを一口飲んだその時、廃工場の方から凄まじい音が響いた。

 不思議と廃工場に変化は無く、崩れそうな様子も一切ない。


「おいおい、大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ。まだ時間は掛かりそうですがね」


「死人なんて出すなよ? これはお前に貸しを作る為であって、お前の取り調べなんてしたくねぇからな」


「おかしいですね。私の記憶では、以前お手伝いしたはずなんですが」


「俺は今日非番。重ねて未成年二人をこんな所に連れてきている。お前との約束で邪魔はしないが、どうにも安全な事ではない。下手すりゃ俺は無職になりかねないのにも関わらず快く頼みを聞いてやっているというのに……はぁ、更に言えば「あー、分かりました。分かりました。お互い貸し一つという事にしておきましょう」――それで妥協してやろう」


 亜古宮は鼻で笑い、軽く肩をすくめてそのまま廃工場へと向かい始める。

 それまでにも何度も轟音は響いていたものの、やはり建物や周囲に影響は無く、遠くまで響いていてもおかしくない音に誰かが気づいて来る様子も無い。


「俺が高校の時、何してたかなぁ……」


 小さな呟きはタバコの煙と共に消えていき、一三は胸ポケットにしまった携帯を取り出してどこかへ電話をかけながら二人が戻ってくるのを待ち続けた。




ブクマありがとうございます。

これからもお付き合い頂ければ嬉しいです。

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