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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter1 ブラックブーツ
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Chapter1-1

「よっ! お? 寝不足か?」


「おー、雅人。寝不足ってか疲れが抜けてない感じだ」


「またゲームのしすぎか? 俺も最近新しいのやりたいからマルチできるなら誘ってくれよ」


「一緒にやるか? トランプタワー作り」


「……何やってんのお前」


 昼休み、机に突っ伏していると、いつもの様に弁当を持ってきた雅人が隣のクラスからやってきた。

 しかし今日の俺は疲れ切っている。正確に言えば、昨日の疲れが抜けていない。


「集中力を鍛える為にな、なんか、いつ回るか分からない扇風機の前でトランプタワー作ってんだ俺」


「忍耐力の間違いじゃねぇの?」


「多分そっちだわ」


 あの面接の翌日、なんとなく暇だったから亜古宮さんの所に行くと、任せたい仕事も特に無いし、まずは魔力に慣れるための準備で渡されたのは未開封トランプ。

 それも一箱だけじゃなくて、紙製とプラスチック製を二箱ずつの計四箱。そして追加で渡された曲者――気分で回る扇風機くん。

 亜古宮さんがそう言っていたからそうなんだろうけど、とりあえず俺はこの気まぐれ扇風機の前でトランプタワーを作り続けた。


 スイッチを入れて十分間は絶対に動かない扇風機。

 ただそこから先はランダムで動く扇風機。

 俺が頑張って二段目を積み上げている時にトランプを吹き飛ばしてくれちゃう扇風機。


 ハハッ……思い出すだけで腹たってきた。

 震えで一つの山もできなかったのは怒りのせいもあった。間違いない。


「んで、なんで忍耐力なんか必要なんだ?」


 腹が立っても動く気力も無く突っ伏したままでいると、空いていた向かいの椅子を勝手に向き合わせて俺の前に雅人が座って、空いている僅かなスペースに弁当を広げ始めた。

 俺は俺で後頭部を見せながら食事をさせるのもな……と思って、重たい体を起こした反動で、次は背もたれにより掛かる。


「バイト始めたんだけど、なんか必要らしい」


 流石に魔力がどうのこうの言ってもなぁ。冗談ならまだしもこっちがマジだから言いづらい。雅人がマジトーンで言ってきたら、俺は困惑するもの。


「突然だな。なんのバイト?」


「捜し物するバイト?」


「いや、俺に聞かれても」


「俺もいまいち分かってない」


 結局、俺が今やってる事はトランプタワー作りだしな。今週末になれば、何か頼まれるみたいだし……まぁ、そん時にはもう少し雰囲気ぐらいは掴めるはず。

 トランプタワー作ってるよりはよっぽどな。


「ヤベェバイトではないんだろ?」


「一応親父達の知り合いの場所だから、大丈夫だと思う」


「なんか煮え切らない言い方するな」


「しゃーない。不安要素しかない」


「まぁ、頑張れよ。俺はトランプタワー作らねぇけどなぁ」


 くそ……美味そうに弁当食いやがって。

 俺も食うかな。


「あ、そういや知ってるか? 昨日の夜、面白いの見たぞ」


「んぐ?」


 俺が弁当を広げてる間に、弁当は食べ終わって売店のふわやわ生クリームプリンを食べ始めていた雅人は、片手で弄っていた携帯を見せてきた。

 串刺しにされたうずらの卵の一気食いに勤しみつつ見てみると、映っているのは一本の動画。SNSに上げられた十秒程度の短い動画で、俺もよく見知った大通りで夜空を撮っているようだ。

 まぁ、それだけなら別に面白くはないんだが、ガヤの声が大きくなり始めた瞬間、ソレは映って消えた。


 大通りの夜空に浮かぶ満月。そのド真ん中。

 顔はハッキリと映っていないけど、間違いなく人影が空中で二段ジャンプをして、向い合せのビル間を跳んでいる。


「なにこれ、CG?」


「俺も思ったんだけど、コメント見るには違うらしいんだよな。同じ時間に目撃情報いっぱいあって、この動画の投稿者も別の場所で見て、方向予想して車で先回りしたぐらいだってよ」


「先回りは流石に意味分からんけど、マジならやべぇな。頭のネジ何本か抜けてそう。ってかここ、道路挟んで飛べるぐらい飛び抜けて高いビルあったっけ?」


「無いからちょっとした話題になってる。ほぼ同じ高さのビル間を飛んでるらしくて、一番有力なのはなんかの映画の撮影でワイヤー使ってたんじゃないかって」


「流石にな。生身でコレとか人間辞めて……」


 ふと脳裏に亜古宮さんが浮かび、親父達が駆け抜け、この間の超大型犬がハッハッしてる絵面が締めた。

 いやいやいや、まさかね。そんなわけ無い。


「どうした?」


「んにゃ、あー……魔法とかあったらできんだろうなって」


「あー、魔法ならありえるわ」


「え?」


「魔法なんてのがあればな! アニメやゲームじゃあるまいし」


「ハハハ」


 びっくりしたぁ……変な汗出たわ。ありえるとか言うなと、ありえねーよ。いや、ありえるんだけどさ!

 しかし実際の所どうなんだろう。マジで亜古宮さん関連なのか?


「晴久、晴久」


「ん?」


 脳裏で涎を撒き散らしながら走り回る超大型犬と亜古宮さんに汚染され始めていると、雅人がまた別の動画を見せてきた。

 どうやらついさっき上げられた動画みたいで、リアルタイムでどんどんコメントが増えていっている。

 その動画の投稿者は俺も知っている。まぁ、テレビ越しでしか見たことはないんだけど、たまにバラエティとかにも出てる女性のマジシャンの人で、名前はなんだったかな……あ、丁度字幕出てる。


"Phantom Thief Queen"


 あぁ、そうだそうだ。テレビではシーフさんって呼ばれてたな。この人のマジック、あんまり見たことは無いけど、前に見た時は確か完全密封された箱からの脱出だったっけか。


"タネと仕掛けの世界へご招待しましょう"


 動画自体は英語だけど、字幕のおかげで言っている事は分かる。この台詞はシーフさんがマジックをする前によく言う台詞だ。

 たまに、タネも仕掛けもありません。ってよくある台詞を言うけど、正直何か違いがあるのかは知らない。多分演出なんだろう。

 なんて事を考えながら見ていると、シーフさんは自然に、地面と変わりなく、空中を歩いてみせた。


「超タイムリーじゃん」


「ね。冒頭の方で棒使って板版とか無いの見せてたけど、マジでどうやってんだろ」


「動画じゃ屋内だけど、さっきの動画見るに屋外でもできるっぽいし……本当にどうやってんだろうな。そもそも同じ方法なのかもわからねぇけど」


「何種類もあるなら俺でもワンチャンある?」


「なに、雅人お前、空中歩きたいの?」


「そらもうアレよ。箒に乗って飛ぶでも可」


「宅急便頼めるな」


「スターゲイジーパイお見舞いしてやるよ」


「実は食ったこと無いから興味はある」


「俺も」


 なんてやり取りを続けていると、いつの間にか時間が経っていたみたいで、雅人が座っていた席の主が戻ってくるに合わせて雅人も自分の教室へと戻っていった。

 そして後半の授業まで終えて、やっと帰れる時間。

 どうすっかなぁ……今日は特に用事もないし、大人しく帰るかなぁ。


「ん? 電話だ」


---

--


「学業お疲れさまです。いきなり呼び出してすいませんね」


「いや、今日はまぁ友達と帰ろうと思ってただけなんでいいんすけど、どうしたんですか? なんか急いで来てほしい感じでしたけど」


 雅人も今日は用事があるとかでモノレールを降りるまでは一緒で、別れた後は亜古宮さんから電話で呼び出されていたから、親父に連絡をしつつボロボロのビルに来た。

 一階には前と同じようにアルバイトの……えっと……榊原さんだったっけか。たしか榊原さんが店番をしていて、俺の顔を見ると今度は軽い挨拶を交わしてカウンター横の板を上げるだけで案内は無かった。


「――という事なんですが……晴久君? 聞いてますか?」


「えぁっす。何も聞いてなかったっす」


「正直でいいですが、次は聞いてくださいね」


「うす」


 男子高校生の劣情を見透かしたような目をしている亜古宮さんは、改めて……と一息置いてから話し始めた。

 本当に悪いとは思ってる。でも榊原さんは、いい匂いしたんだ。


「今回お呼びしたのは、週末の事についての説明とそれに関する事でお渡ししておきたい物があったからなんです」


 そう言って机の上に置かれたのは、黒い兎のキーホルダー。

 見た分ではただのキーホルダーだけど、なんだろう、多分異物だ。そんな感じがする。


「先日お伝えした通り、今週末はもう一人のアルバイトと顔合わせをしていただきます。ただ少し予定が狂いそうでして、その時に私が立ち会えない可能性が出てきたのでコチラをお渡ししておきます」


「異物ですよね? このキーホルダー」


「異物ですね。今度顔合わせをするアルバイトの子が探している異物の一つです」


「でもなんで俺に? 別に後か先にかに亜古宮さんが渡してもいいんじゃ」


「晴久君の安全の為に持っていたほうがいいかと思います」


 つぶらな瞳で見てくるこのキーホルダーが、俺の安全を保証してくれるらしい。らしいけど、コイツが一体何をしてくれるんだろう。


「持ってるだけで効果があるんですか?」


「基本的に持ってるだけで大丈夫だとは思いますが、出方によっては私から渡されたと告げたほうがいいでしょう」


「誰に?」


「もう一人のアルバイトに」


 え? 身の危険ってそこなの? 超大型犬とかそういう感じじゃなくて、もう一人のアルバイトから俺、なにかされんの?


「どうやら異物回収が上手くいってないようで、殺気立っているみたいなんですよね」


「それで人を襲うとか、めっちゃ危ない人じゃないっすか!」


「いえいえ、その辺はちゃんと弁えている子なんですけど、晴久君は枠組みで言えば異物に半身は突っ込んでますから。あの子も感じ分けできないですからねぇ……ほら、最悪の場合は回収しようとするかと」


 ほらってなんですか。分かるでしょ?みたいに言われても分からないです。ってか分かりたくないっす。

 殺伐としすぎでしょ。キーホルダーでなんとかなるのか?

 俺の中で完全に、筋肉盛々のスキンヘッドなおっさんが大鉈振りかざしてるんだけど。探してるって……この異物がなんだってんだ。実はカワイイ物好きとかか?


「あぁ、それともう一つお伝えしておくことがありました」


 そう言って亜古宮さんは少し携帯を操作して、俺にその画面を見せてきた。

 見覚えがあるどころか、今日雅人が教えてくれた一本の動画。二段ジャンプをしてビルを飛ぶ人影の映像。

 昼に見せられた時はそう思わなかったけど、今見たら何となくシルエットが女の子な気がしてきた。


「今日、俺も見ました。あの、マジシャンのシーフがやったあっちの方も」


「あぁ、そっちは偽装ですね。シーフが再現した方は仕掛けがありますが、彼女の方は異物の力です。そしてこの子がもう一人のアルバイト、セラさんです」

ブクマ・評価ありがとうございます。

まだまだ未熟者ですが、今後ともお付き合いいただければ嬉しいです。

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