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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter0 始まり
3/24

Chapter0-3

 翌日。

 母親も親父も朝から用事があるという事で、一人作り置きされたサンドイッチを頬張りつつ、朝のニュースをぼーっと見ながら昨日の事を思い出す。


 親父とお袋は高校の頃、クラスごと異世界に召喚された経験があるらしい。

 その異世界でクラスの皆で亜古宮さん達魔族と戦って、帰りたい人達は帰ってくる事ができたんだとかなんとか。

 んで今回、俺が襲われた理由は、亜古宮さん曰くこの'目'のせいだろうとの事。

 スキルとかいう固有能力――'死の支配人(ネクロマネージャー)'をお袋から遺伝しているせいで、こっちの世界に溜まっている亜古宮さん達の異世界の魔力が反応してしまって、あの超大型犬に襲われるハメになったらしい。


「まさか両親から、まさか魔力だのスキルだのマジトーンで話されるとはなぁ」


 親父とはアニメとか一緒に見たりする事も少なくないけど、どんな事考えながら見てたんだろうか。ってか親父達はアニメや漫画とかの住人寄りの経験してるんだよな……想像できねぇ。


「お、今日の俺の運勢は……七位か。微妙な……うわ、マジで'ロジカル・サイン'って書いてある」


 お馴染みの朝の占いを見ていると、昨日親父が言っていた様に最後の方の端っこに'ロジカル・サイン'という表記を見つけた。

 この名前、親父の仕事用の名前らしくて、本を出してるのは知っていたけど職業が占い師だったのは知らなかったなぁ。


 そんな事を考えつつ最後のサンドイッチを頬張れば、携帯のアラームが鳴って時間を知らせてくた。

 本日は平日。本来なら学校もあるけど、今日はお休みだ。別の用事の為に準備を軽く済ませて、登校ラッシュから少し時間がずれた頃に家を出る。

 電車に乗り、携帯で地図を見ながら歩いていたものの、目的の場所は入り組んだ先の裏路地にあり、予想以上に時間が掛かってたどり着きはした。したんだが……。


「あ、味があるなぁ……」


 誰に言うわけでもないのに濁した言葉が出た。

 一階入り口はボロい一軒家風。なんと言えばいいか、イメージ通りの超古い駄菓子屋。そしてその上にボロいビルが生えている建造物。

 携帯で何度か確認をしても場所を間違えたわけでもなく、建物が変わることもない。間違いなくこれっぽい。


「すんませーん」


 意を決して一歩……の前に建て付けの悪い扉を奮闘してから中へ入ると、用途の分からない物や誰がどう飾るのか分からない置物なんかが所狭しと置かれている。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


 そして奥からロングヘアの女性が出てきた。

 メガネにカーディガン。なんかいかにも本が好きそうな感じで、パット見は俺より年上っぽい。言葉からして店員さんかな?


「えっと、亜古宮さんからココに来るようにって言われたんですけど……」


「……あぁ、長野さんですか?」


「あ、ですです」


「店長から話は聞いています。どうぞこちらから二階に」


 店員さんの案内についていくと、外観通りの階段の先にあった扉の前へ。

 どうやら案内はここまでみたいで、ノックして反応が無い事を確認した店員さんは、扉を開けて「好きなところでお待ち下さい」と言い残して一階へと戻っていった。


「好きなところって言われてもな……」


 部屋の中はシンプルに机と椅子とパソコン。あとは客用のソファー……ここでいいか。

 待つこと数分。


「おや、もうそんな時間でしたか」


「あ、どうも」


 開いた扉に反応して視線を向けると、段ボール箱を小脇に抱えた亜古宮さん。

 それなりに緊張をしている俺を他所に、亜古宮さんは段ボール箱を近場に置いて、慣れた手付きで飲み物や茶菓子を用意していく。


「そんなに緊張しないでください。今日は昨日気になったことにお答えする為と、今後の予定についてお話するだけです」


「よろしくおねがいします」


「では私は少し書類を用意するので、先に晴久くんの質問から答えるとしましょうか。遠慮なく聞きたい事を聞いてみてください」


「それじゃあまず聞きたいんですけど……俺、本当にここで雇われるんですか?」


 そう。今日俺は、亜古宮さんの所にバイトの説明を聞きに来た。

 昨日の内に、なんか勝手に採用まで決まっていたんだけど、今日改めて仕事の内容とか話すってことでまとまっていた。俺の同意もなく。

 バイト自体は別にいいんだ。給料も出るみたいだし、学業優先で構わないって事だったし。ただあまりにもトントンと勝手に話が進むもんで、俺の心の準備はできていない。


「嫌なら嫌で構いませんよ。ここで働いていたほうが色々と安全というだけで」


「それは、あの、昨日の超大型犬みたいなのに襲われないっていう感じで?」


「襲われてもすぐに助けてあげられるって感じで」


「あぁ……襲われはするんスね」


 その言葉には顔を向けてニコッと返すだけの亜古宮さん。

 亜古宮さんがやると意味深に見えてくる。

 笑顔に煽られる様に俺のお先が超大型犬で埋め尽くされる想像を振り払い、気分を変えるために昨日聞いた話の中で気になっていたことを聞くことにした。


「また別の質問なんですけど、昔に親父達と敵同士だったんですよね? 今は仲良しなんですか?」


「まさか。昨日も言ったと思いますが、十数年程経ちますけどこちらでの関わりは無いと言っても過言ではありませんでしたよ。晴久君のご両親と直接戦った記憶はありません。なので仲がいいとかは悪いとかは個人的にはありませんね」


「でも一応和解とかはしたんですよね?」


「してませんよ? 私と彼等とは契約関係です。私、かなり丁寧に殺されましたし……好き嫌いでいえば、それなりに嫌いです。今は首輪代わりに色々と制約で縛られて働かされてるだけですからね」


 気にした様子もなくサラッと亜古宮さんは答えてくれているけど、質問した上で反応に困る。

 流れとはいえ今からお世話になるかもしれない人から、嫌いだけど契約関係なので――ってのは不安だ。

 本当に世話になってもいいんだろうか。親父達は亜古宮さんがこんな風に思ってるとか知ってんのかな。


「警戒してますね? とても良い傾向です。信じる事は大切だと勝手に知るでしょうが、それで警戒心を忘れるのは愚か。例えご両親の名前を出されたとしても、無条件に信じないように」


 何枚かの紙をテーブルに並べて向かいに座り言う亜古宮さんの目は、きっとあからさまに警戒を露わにしている俺に嫌悪やらマイナスやらのイメージを抱いた様子はなく、寧ろ好感触な雰囲気。


「そしてもう一つ。ちゃんと把握できている契約関係というものは、時には好き嫌い以上に相手とのやり取りを円滑にし、自身を守る際に役立つ場合があります」


「契約関係……」


 さっき亜古宮さんが言っていた言葉を思い出す。

 話す雰囲気とは裏腹に、聞いた限りじゃ親父達と亜古宮さん達の関係は良くはない。寧ろ未だに敵対していてもおかしくなさそうなぐらい。

 それでもその関係を成り立たせている契約関係。


「何を考えているのか分かりますよ。まぁ、私と彼等は少々特別な経歴がありますから、全てに当て嵌めるには無理があります。言葉ほど頭を固くせず、柔軟に考えて、焦らずに……まずは練習がてらにどうぞ」


 スッと押し出された三枚の紙には、ビッシリと書かれていた。そして一番上の最初には'雇用契約書'の文字。

 不安があるのは確かだけど、なんか少し分かりやすく大人な気分が押し寄せて来て、日頃勉強なんて大嫌いなのに食い入るように読んでいく。

 途中意味が分からない所があって止まっていると、俺の様子に気付いたのか亜古宮さんが教えてくれて、そこからは分からない箇所があれば聞いてを繰り返し、気がつけば一時間半ぐらい経っていた。


「た、多分大丈夫っす」


「ならサインをお願いします。今後、晴久君に近付いてくる者の中で悪知恵を働かせてくる者も居るでしょう。もしその時、一人の場合は用心を怠らないようにしてください。気が付かない内に奴隷になっているかもしれません」


 もう一度読み直してサインをする間、冗談めかして亜古宮さんがそんな事を言っていたけど、魔法云々の存在を知ってしまうと冗談と笑い飛ばしちゃいけないのかもしれない。

 一人真剣に考えていると、亜古宮さんは空気を切り替える様に軽く手を叩き、さっきよりももっと軽い雰囲気で次の話を始める。


「さてさて、追々経験していくでしょうしつまらない話はこのへんで。次はお仕事内容の話をしましょうか」


「よろしくねお願いします」


「まず最初に、雇用契約書で細々と書いてありましたが、晴久君は学生なので都合のいい時の出勤で構いません。どうしてもお願いしたい時は事前にこちらから連絡をします。そして次に晴久君の主なお仕事ですが――」


 そう言って亜古宮さんは、テーブルの上にお土産屋で売っていそうな剣のキーホルダーと、なんか見覚えのある首輪を置く。


「異物回収等のお手伝いをしてもらいます」


「あの、この首輪って」


「お察しの通り、昨日晴久君を襲った獣が身につけていた首輪ですね。残念ながら目的の異物ではありませんでしたが、まぁこれも異物には変わりません」


 サイズはだいぶ違う。あの超大型犬の首はフラフープ程度じゃ収まらないぐらいだったけど、テーブルの上にある首輪は至って普通の首輪。それでも俺が感じたように亜古宮さんはあの首輪だと言った。

 何となく感じは違うけど、お土産キーホルダーの方からも近い雰囲気を纏っている気がする。これもその異物ってやつなんだろうか。


「流石と言えばいいでしょうか……知覚してからの成長が早いですね。ハッキリとではないでしょうけど、この二つに見た目や用途以外にも違いがあるのが感じ取れていますね?」


「感じ取れてるって言っていいのか分からないけど、なんか違うな―って感じがある気はします」


「それだけ分かれば十分です。こういう気配のある物を私達は統一して'異物'と呼びます。見た目は決まっておらず、どこにあるかも様々。人型だってもちろんあります」


「俺や親父達みたいな?」


「大きな括りで言えばそうですね」


 そこから亜古宮さんは異物について説明をしてくれた。

 曰く、俺が感じてる気配は活性化している魔力らしく、異物は活性化した魔力で何かを起こしたりできちゃう不思議アイテムって認識でいいらしい。

 なんか違うって感じる理由は、その魔力にも種類があるからだとかなんとか。

 なんで違いがあるのか細かく聞きたかったが、亜古宮さんは詳しく説明しても今は意味がないと言って、「地域差」「水で言う所の軟水や硬水みたいな違い」と簡単に説明するだけで詳しくは聞けなかった。


 次に異物の中でも特殊なのが、やっぱり俺みたいな人型。

 基本的に異物は何かしらの物だけど、色んな要因で人が異物になっている場合があるらしい。俺みたいな先天性も少ないが存在しているし、異物を体内に取り込むとかヤバそうな事をやったりして後天性の場合もあるんだと。

 だから、珍しくはあるけど唯一ではないので安心してください。なんて言われた。まぁ……親父とお袋がいる時点でそれは何となくわかってる。


 そして異物回収という仕事には、物の回収に加えて人型の見極めなども含まれているらしく、今後俺は魔力の扱いを訓練しつつ基本的には回収の手伝いをしていくと説明された。


「ちなみに亜古宮さんは、人型の異物にどれぐらい会ったりしたんですか?」


「そうですねぇ……元から知っていた人達を省けば、両手で足りるぐらいですかね」


「元々知ってた人達を入れたら?」


「一度しか面会してない方々の方が多いですが、三十満たないぐらいでしょうか」


「結構居た」


「その内、晴久君も会うと思いますよ。多方面に居ますし、知らないだけの場合もあるでしょうから」


 親父達がそうって事は、親父達の知り合いにもそういう人が居るのか? 今度聞いてみようかな。

 あっ、そういえば、ここにはもう一人いたな。


「あの一階の人も異物関連だったりするんですか?」


榊原(さかきばら)さんですか? 彼女は普通のアルバイトさんですよ。何か気付いているかもしれませんが異物には関わってはいないですね」


「あ、そうなんですね」


「まぁもしかしたら異物を扱えるようになるかもしれませんがね。その時はその時でしょう」


 なんか軽く言っているけど、異物を扱えるのはいいことなんだろうか。なんて考えていると、亜古宮さんは何かを思い出したようにカレンダーとにらめっこをしている。

 数分、どっからか取り出した手帳とカレンダーを見比べていた亜古宮さんは、一度頷いて俺を見た。


「来週末空いてますか?」


 亜古宮さんの笑顔は、どうしてこうも期待で膨らみたい胸を不安で埋めてくるんだろう。



ブクマ・評価ありがとうございます。

引き続きお付き合い頂ければ嬉しいです。

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