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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter3 グールグル

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Chapter3-3

 俺の緊張を台無しにしても尚、隣でほぇ~はぇ~と小さく声を上げているセラは……もうこの際無視でいいか。こっちに反応求められても困るし。

 とりあえず、用意されてる椅子に座ればいいのか? 一三さんは腕を組みながら壁に寄りかかってるし、今回用事あるのは俺等だしな。


「初めまして可愛い坊や、可愛いお嬢さん。自己紹介をし合いましょう。私は'ペッカートル'。可愛い坊やと可愛いお嬢さんの好きに呼んでいいですよ」


「あ、はい。長野 晴久です」


「初めましてMs.ペッカトール。私はセラ。セラ 篠原よ」


「可愛いお嬢さんの複数の差の少ない匂い、可愛い坊やと違って混血児なのね。四色……ですかねぇ」


「凄い! 私が言わずにクォーターを当てられたのはアナタが初めてかも!」


「ふふっ、ありがとう可愛いお嬢さん。ちょっとした私の特技の一つなの」


 初手のセラの一言は聞こえていたような気もするけど、セラとペッカートルさん二人の会話する雰囲気はいい感じだな。

 自己紹介した上で、俺の事やセラの事を坊っちゃん嬢ちゃんで呼ぶ事とか、匂いのカウントって色なのか? とか思う所はちょいちょいあるけど、険悪ムードで空気が重たくなる可能性とかあったと思うともう全然気にならない。

 せっかくセラが作ってくれたこの空気に俺も混ざって、さっさと話を終わらせよう。


「あ、あはは、俺もスプリットタンとか初めてみました」


 馬鹿かな?

 チロッと二股の舌が器用に唇を舐めたのは気になっちまってたけど、話に混ざる初手でこれは馬鹿だろ俺。


「可愛い坊やはこの舌が気になるの? 天然モノですよ。体験してみる?」


「遠慮します」


 体験ってなんだよ。食われるのか俺。亜古宮さんの情報ではカニバリズムでも死んでるのオンリーとか言ってたじゃん。え、なに、俺、殺されるの? 踊り食いなの?

 事前情報のせいで恐怖しか沸かないんだけど。


「馬鹿なの? 晴久」


「自分でも頭ん中パニクってるから、口にするのやめてくれ」


「冗談です、可愛い坊や。そんな事を話しに来たのでは無いのでしょう? そんな事で坊や達が私を可愛い坊やや可愛いお嬢さんと合わせるわけがない」


 後ろを見るペッカートルさんは、まぁ多分、一三さんへ向けられているんだろう。

 それでも一三さんもだし、ペッカートルさんの奥で入り口に立っている名前も知らない二人も俺等の会話に入ってくる様子はない。


「んんっ! それじゃ本題なんすけど、俺達の手伝いをしてもらえませんか?」


「手伝い……何故私に? と聞きたい所ですけど、まずは可愛い坊やの話を聞いてからにしましょう」


 少しキョトンとしたペッカートルさんは、すぐにさっきと同じ笑みに戻ってからゆっくりと目を閉じた。

 すみません、ペッカートルさん。何故? の質問に多分俺は答えられないっす。


「えっとまずですね――」


 心の中で謝罪をしつつ、俺は亜古宮さんの名前も出しつつ、見せられた情報を思い出しながらペッカートルさんに伝えていく。途中の内容を忘れていたりすれば、隣からセラが追加を入れてくれて、一通りの事を伝え終えてペッカートルさんの反応を待つ。

 そして少し間があってペッカートルさんはゆっくりと目を開けた。


「屍食鬼、食屍鬼、グール、女性の場合はグーラなんて言ったりもしましたか。その怪物を一緒に探して欲しいと……可愛い坊や達は、私の事を少しは知った上で、と思って?」


「はい。亜古宮さんが少しは教えてくれています」


「なるほど。わかりました。この中も快適でいいですけど、少し退屈をしていたところですから、その調査の手伝いをしましょう。外出許可は出してもらえるのよね? 坊や」


「長野君達の調査は約二週間。外出許可が出せるのは一週間だけだ」


 あれ? 一三さんに調査の期間とか喋ったっけ? いや、事前に亜古宮さんから聞いてたのか。じゃなきゃ、こんな施設であんな拘束されてるペッカートルさんに協力頼むとかできないだろうし。


「という事だから、可愛い坊や、可愛いお嬢さん、手伝えるのは少し後になりそうだけど大丈夫?」


「多分大丈夫です」


「私達もその間にできるだけ調べとくわ。Ms.ペッカートルが合流する頃には終わってるかもしれないし、オススメのお店もついでにね」


「それは頼もしいわね。可愛いお嬢さん」


 その後二人の中々混ざれない入れないテンポで行われる他愛無い話を聞いていると、いつの間にか部屋から居なくなっていた一三さんが戻ってきた。


「二人とも、そろそろ帰ろう。あまり遅くまで連れ回す訳にはいかないからな」


「あ、もうそんな時間すか」


 ふとスマホを見てみれば……マジか。もう四時じゃん。

 え、セラとペッカートルさん、そんなに話してたの? こういう面会って、時間制限あるんじゃないのか。ってか今から帰ると、急いでも七時過ぎるじゃん。


「楽しい時間だったけど、終わりみたい。またお話ししましょう? 可愛いお嬢さん」


「もちろんよ! Ms.ペッカートル!」


「可愛い坊やも、次は色々お話しをしましょうね」


「あ、はい」


 一通りのやり取りを終えて一三さんが俺等を連れて出ていこうとすると、ペッカートルさんは一三さんを呼び止め、眉間に皺を寄せた一三さんは外に立ってた人と数回言葉を交わす。

 何を言ったのかは聞こえなかったけど、とりあえず俺とセラは外に立っていた人と一緒にグルグルと似たような場所を歩いて施設の出口へと案内された……ってか、ここ、秋末さんが待ってる駐車場の前なんだけど。入り口と出口違うのか。

 案内してくれた人にお礼言ったら、軽い敬礼を返してくれた後に出口消えたし。どうなってんだこれ。


「んー? あれ、二人だけ?」


「一三さんはなんか呼び止められて、先に行って待ってろってことでした」


「そっかそっか。なら晴久君も篠原さんも適当に後ろで休んでていいよ。飲み物とか、軽くつまめるのも置いてあるから好きに飲み食いしちゃって」


「ありがとう。遠慮なくいただくわ! Mr.アキスエは何かいらない?」


「じゃあ、クーラーボックスの中にミルクティーがあると思うから、それ貰えるかな?」


「OK!」


 秋末さんの言う通り、来る時にはなかったはずの氷や飲み物が詰まったクーラーボックスと手軽に食べれそうな物が突っ込まれてる大きめの袋。座るスペースもちゃんと確保はしてくれている。

 仮眠とか言いながら買いに行ってくれたんだろうな……おぉ、飲み物も食べ物も色々種類がある。とりあえず俺はお茶にしようかな。


「寝てもいいから。スマホの充電とかは、シートポケットから伸びてるので合うの適当に使って」


「なんか、色々とあざっす」


「気にしなくていいよ。今の俺にはそれぐらいしかしてやれないから」


 へらへら~っと笑う秋末さんに改めてお礼を言って、帰ればあるだろう晩飯の事を考えつつサンドイッチとお茶を手に一息。

 セラのおかげで緊張はあんまりしてなかったと思ったけど、気を張ってたみたいだなぁ。なんかあくびが出てきたわ。


「晴久、眠いの?」


「んー少しな」


「寝たら? Mr.ニヌキが戻ってきたら起こしてあげるわよ?」


「まーじかぁ。まじかぁ」


 あー、目を開けるのダルいな。開けようとしても眉しか動かねぇ……。


「おやすみ。晴久」


 んー……。




----

--





「いい子達ね。坊や達よりもずーっと」


「そのいい子達を待たせてるんだ。嫌味を言いたいだけなら帰る」


 晴久とセラが出ていった部屋で、一三とペッカートルはガラス一枚を挟んで向かい合い座っていた。

 本来ならばペッカートル側の扉の前には、この施設の職員が立っていたのだが一三の指示で外で待機しており、その空間には本当に二人だけ。


「それは確かに可愛いお嬢さん達に悪いわ。もっと坊やともお話しをしたいけど、手短にいきましょう」


「そうしてくれ」


「本当の目的はなぁに? あんな事で一時的にでも私をここから出すなんて、不思議で不思議で気になるわ」


「グールを探すのも本当に頼みたい事ではある。行方不明者の中に重役の子供が出てしまって、調査の結果ではおそらく関係があると結論が出て、見て見ぬふりもできなくなった」


 一三が答えている間は口を挟む気がないのか、ペッカートルはゆっくりと目を閉じて背もたれに寄り掛かる。暗にそれは、納得できる答えがでるまでは一三の言葉を止めないという姿勢でもあった。

 その様子を見ていた一三も大きなため息をはき、晴久達の協力を頼んでいるために機嫌を損なわせても面倒だと思い、おそらくペッカートルが納得するであろう目的を話し始める。


「はぁ……長野君達が知らない目的は二つ。一つは前例を作るため。もう一つは……まだ未確定情報だが今回の件はどうにも裏がある可能性が高い。最悪、今回の調査中に荒事になる可能性もある。流石に長野君達だけをそんな所に送り出せない」


「坊やの言う'前例'とタイミングがよく、'裏の調査'の調査の入り口はグール。食人という共通点を持つ私が一番使えそうだったと」


「この施設の中でも比較的に話ができ、暴走の可能性も低く、こっちが提示する条件で動けそうな奴は? と考えると該当する奴は絞られてくるからな。亜古宮からの推薦もあったし、早い段階で白羽の矢はお前に立ったよ」


「今の所はそれだけで納得してあげましょう。それとは別にもう一つ……可愛い坊やや可愛いお嬢さんは'グール'を正しく認識しているの?」


「どういう事だ?」


 ペッカートルの問いかけに一三が軽く首を傾げながら言葉を返せば、ゆっくりと開かれた妖しい輝きを放つ独特な瞳がその様子を捉える。

 その瞳は見定めているようで、憐れんでいるようで、楽しんでいるようで。一三にはペッカートルの感情を表している様に見えた。

 一三のそんな考えを察してか、ペッカートルは再度目を閉じてからゆっくりと我が子に教えるように優しく一三の言葉に返していく。


「坊やがこの国で神秘を相手にしている事を私は知っているわ。だからこそ、名を継がれる神秘を相手にする時は大小に関わらず、嘘や真のどちらも集める方がいいと私は思うの。例え本当の相手が違ったとしても」


「今回の件はグールじゃないと?」


「それは今から調べる事だから私にも分からない。ただそれを判断するためにもグールの知識は少しは必要でしょう? 今の状態のままじゃあ、きっと可愛い坊や達……いえ、坊やにもグールは見つけられないわ」


「君が見つけられるのなら問題はない。そのための協力者だ」


「ふふふ……そうね。今回は私が手伝ってあげる。必要最低限、可愛い坊や達が一線を越えない様にしてはあげる。ただもし今後を考えるのなら可愛い坊や達も、そして坊や、貴方も神秘の事を事前に少しは調べてみるといいわ」


「……やけに調べてほしそうだが、なにかあるのか?」


「さぁ? ただそうね、可愛い坊やと可愛いお嬢さんを見て、まだ純粋な子達がもうずる賢い子達に振り回されるのが少し可愛そうに思ったのかも」


 何かに気づいている。それを確信している一三ではあるが、ペッカートルがハッキリとした事を言う気が無いのも察せてしまい、大きなため息を返すのみ。

 このまま問い詰めようとしてもどうせ聞き出す事はできないだろうと諦め、席を立って出ていこうとすれば、目を開いてその背中を見つめていたペッカートルが呼び止めた。


「最後に、あの可愛いお嬢さん、少し神秘に呑まれかけているわ。異界の坊やは気づいていると思うけど異界の坊やも異界の坊やでずる賢い子だから直前まで何も言わないでしょう。だから前もって可愛い坊やの方に教えておいてあげるといいわ」


「篠原君が? 亜古宮から聞いた話では篠原君の異物は適正者を選ぶタイプの装備型だったはずだ」


「それも間違いではない。ということじゃないの? 異界の坊やとは長らく話していないから分からないわ。私も可愛いお嬢さんの神秘もハッキリと分かっていないし、異界の坊やが何を思ってそういう言い方で止めているのかも知らない」


「……相手が亜古宮だからか否定ができないな。わかった、忠告は素直に受け取っておく」


「またね、坊や。次に会える日を楽しみにしているわ」


 微笑みを見せて言うペッカートルの言葉には返ってくる声は無く、無造作に閉じられた扉の音だけが返事をした。

 元より最後のやり取りは期待していなかったのか、気にすること無くクスクスと笑うペッカートルが僅かに動く足先で床を鳴らすと、半透明の蛇がスルリと地面を抜けて顔を見せる。


「一足先にお願いね」


 その言葉に半透明の蛇はチロッと舌を出して答えて地面の中へと消えていく。それを確認してから自分を自室へ運ぶ職員が来る数秒の間、ペッカートルは微笑みを崩さず小さく誰にも聞こえない声で呟いた。


「異界の坊やの目的はなにかしらねぇ……」




ブクマ、評価等々含め、お読みいただきありがとうございます。

引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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