Chapter3-2
「おまたせ」
「んー」
「結構待った?」
「十分ぐらいか? まぁ、スマホ弄ってたし、そんなかな」
亜古宮さんから次の仕事の話を聞いてから翌日。
昨日言われた通り、今日は例の協力者を紹介するってことで、セラが泊まってるというホテル前でセラと迎えを待っていた。
「そういえば昨日はどうだったの? プレゼント喜んでくれた?」
「あー、ありがとな。なんかすっごい喜んでくれたわ。母さんも親父も」
「それなら良かった」
「今朝、早速玄関前に蔓籠が設置されてたわ」
まぁ、お袋には一瞬で選んだのは俺じゃないと見抜かれたけど、それは言わんでおこう。喜んでくれたのは事実だし、親父に至っては喜びすぎてリビングに飾ってた。ソフトのパッケージを……お袋に気持ちは分かるが部屋に飾れと撤去されてたけど。
「ってか結構高そうなホテル泊まってんのな」
「うーん、まぁね。パパとママが手配してくれたんだけど、私も最初はビックリしたわ」
「どっか借りるとかじゃなくてそもそもがホテルだもんなぁ……もしかしてセラの家って結構金持ち?」
「否定はしないかな。その分、面倒な事も多いけどね」
自嘲的な笑みとでも言えばいいのか、いつもの自信ありげで明るい感じとは違った笑顔。
セラのそんな表情は初めて見たけど……なんかあんまり気分がいいもんじゃないというか、セラにはそんな表情はしてほしくないし、させたくない。そんな気分。
あかん、空気がしんみりしてきた気がする。
「そ、そういや、迎え遅いな」
「ふふっ、話題の切り替え下手」
「うるせぇ」
「それと待ち合わせ場所は変更になって、駅前に来いって」
さっきとは違った笑いをするセラが見せてきた画面には、確かに亜古宮さんから待ち合わせ場所変更の内容が送られてきている。
待ち合わせ場所の駅は……歩いて行けなくはないけどここからだと少し掛かるな。
「どっかでタクシー拾うか。一応手持ちは持ってきてるし、領収書貰えば多分経費とかでいけるよな?」
「大丈夫なんじゃない? 天気いいから歩きたい気分だけど、待たせちゃ悪いしね。そうしましょ」
少し待っててと言い残してホテルのフロントへ向かうセラを観察していると、数度受付の人と会話を交わしてからすぐに戻ってくる。
用事が終わったなら行くか。と腰を上げようとしたが、どうやらセラがフロントの人にタクシーを呼んでくれるように頼んだらしく、五分ほどで着くそうな。
「普通に表で拾うことしか頭になかったわ」
「歩きたい気分なのは本当だったから、そうすればよかった……手抜きを覚えすぎるのも考えものね」
そこからは、まぁいいわ。と切り替えた様子のセラと雑談をしてタクシーを待ち、待ち合わせ場所まで移動して亜古宮さんの姿を探していると、そこに亜古宮さんの姿は無く、代わりにひどく疲れ切っている様子の一三さんと知らない人が俺等を見つけて近づいてきた。
亜古宮さんの話では一三さんと関わりがある人らしいけど……写真と違って一緒に居る人は男だし、今日会う予定の協力者ってわけではなさそう。
「やぁ長野君、篠原君。どう伝わっているかは知らないが、亜古宮は来ないから行こうか」
「あ、お疲れ様です。っと、協力者に会う以外なんも聞いてないんですけど、行くってどこに?」
「そこからか……秋末、先に車取ってきてくれ。歩きながら説明する気力はないから、俺は説明しとく」
秋末と呼ばれた人は、俺も説明側がいいとぼやきながらも一三さんから渋々と車のキーを受け取って車があるであろう方へと歩いていった。
その間に一三さんから今日の流れというか、これから行く場所の事を教えてもらった。
曰く、目的地はここから車で三時間ちょっと掛かる山奥っぽい所にある特殊な刑務所。
なんでもその刑務所は一般的には知らされていない特殊な場所らしく、移動中に場所やら内容やらを口外しないって誓約書をかかされるらしい。
そこに居るのは表には出せない奴やら、ヤベェ奴等らしいくて、俺は本当にそんなのがあるんだなぁと実感がわかない。
だけど移動中に、ぎっちりと色々書かれた誓約書を見た時に行きたくない気持ちだけは高まった。そしてふと思う。
「……なぁ、セラ、俺達今から協力者に会いに行くんだよな?」
「言いたいことは分かるけど、今更ボヤいても仕方ないでしょ。諦めなさい」
「お前すげぇな。もう俺は不安でいっぱいだぞ」
「私は無いわね。晴久ももっと私を信用したら?」
えぇ、なにそれなんかすごいカッコいい。
俺もそんな感じのセリフ、サラッ言ってみたいんだけど。
「ん”んっ……まぁ、そうだな。俺もセラに信用してもらえる様にドシッとしとかねぇとな」
「今でも十分に信用も信頼もしてる。だから不安も無いの」
えぇ……。イケメンかよぉ。フォローもバッチリかよぉ。
なんか最近のセラ、落ち着いてるっていうか雰囲気が変わった感あるんだよな。いやまぁ、相変わらず学校では、いつか教室の扉ぶっ壊すんじゃねぇかってヒヤヒヤさせてくるけども。
んー……真面目な空気? 回収目的の異物を手に入れた実感がやっとあって焦りが無くなったのかな? なんか心境の変化がどこかであったのは確かっぽいんだけど分からんな。
「ん、何?」
「いや、最初あった時に比べてなんか雰囲気変わったなと」
「最初? あぁ、晴久が私の下着覗こうとした時ね」
「バッ! おまっ!?」
ジッと見すぎたな。と思ってセラの問いかけに素直に答えてみれば、こいつトンデモねぇ事を言いやがった。俺とお前だけならまだしも、ここには……うん、一三さんは疲れが相当溜まっているのか助手席で爆睡している。運転している秋末さんも、疲れからか目が完全に死んでるけど運転に集中してるみたいだ。
お二人には悪いけど疲れててくれてよかった。いや、大した問題じゃないのかもしれないけどさ、そんな変態みたいな印象を持たれるのは普通に嫌だわ。
「あれは不可抗力でお互い様で終わっただろ。持ち出すなよ」
「少しは不安無くなった?」
小声で伝えれば、セラからそう返ってきた。
悔しいかな完全に消えてはないとは言え、ついさっき感じてた程はない。クスクスといたずらが成功したように笑うセラを見れば、その残りも消えていっているようにも感じる。
うん。まぁ、なんか誤魔化された気がせんでもないが、ソレ以上にありがたいとは思うけどとりあえず――。
「こんなん、やり方のせいで別の不安が付きまとうわ」
別の意味でヒヤッとさせるのは違うと思う。
なんてやり取りをしたり、予告された通り誓約書にサインしたり、スマホでゲームやらニュースやらを見てると、どうやらやっと目的地に着いたらしく俺とセラと一三さんは車から降りる。
秋末さんは帰りも運転しなきゃいけないからと留守番ついでに仮眠をとるそうな。
そんなこんなで見晴らしのいい駐車場から、少し入り組んだ山道を歩いて歩いて数十分。普通に息が上がりながら歩いたその先……やっと到着か。
「で、あれがその施設ですか?」
「まぁ入り口だな」
「私には神社にしか見えないんだけど」
「カモフラージュってやつさ。それっぽい形をしているだけで何も祀っちゃいないよ」
神社。神社? まぁ、たしかに雰囲気は神社っぽい。ただボロボロ過ぎて手入れされてないだろレベルだし、社務所もないし、あるのはなんか人が一人入れるかぐらいの小さい建物一つ。賽銭箱すら見当たらない。
カモフラージュになってんのかコレ。っと……ぼーっと観察してる場合じゃないな。
「あー……確かこの辺に……あったあった」
見失うとまずいと思ってセラと一緒に一三さんの後を追って小さい建物の裏側へと行くと、一三さんは少しだけある隙間に足を突っ込んで、面倒そうにブツブツ言いながら何かしている。
そして何か見つけた様子で足を踏み込む様な動きをすると、ガコンなんて音の後にすぐ横の地面がスライドして地下へ続く階段が出てきた。
「なんかワクワクしてきたね。晴久」
「分かる。秘密基地みたいでロマンあるわ」
小声で話しかけてくるセラに答えつつ、結構深くまで続く階段を降りていくとチラホラを一緒の服を着ている人たちをすれ違い始め、その人達は俺達――というか一三さんに一礼してから不思議そうに俺とセラを見つつも何処かへ歩いていく。
まぁ、明らかに部外者ですし、中も映画のセットみたいでワクワクしているのも確かだけど、中の様子というか雰囲気というか……俺達が浮いているってのは俺にも流石に分かる。それぐらいここにはなんか独特な空気がある。そのせいか居心地はあんまり良くないな。
「晴久、ここ……」
「あぁ、異物の気配がチラホラある」
さっきよりかも小声で話しかけてくるセラの言いたいことはすぐに分かった。
一応、俺もセラも亜古宮さんに言われて訓練っぽい事はしていたりする。そのおかげか気を張れば、前よりも違和感というか異物の気配を感じ取れやすくはなっている……はず。
だから多分、今もこうして居心地の悪さと共に感じる気配に緊張ができているんだと思う。
「もう中で待ってるらしい。面会室だから一応強化ガラス挟んでるが、何かあったらすぐに逃げてくれ。対処はこっちでするから」
一三さんがドアの前で立っていた人と話し終えると、どうやらやっと例の協力者と面会らしい。
まぁ、うん。俺もセラもなんとなく扉の向こうに誰かがいるのは分かってた。気配どころか圧がすごいもん。何かある前に逃げたくなるぐらいの圧が……。
「そんなに緊張はしなくていい。もしもの話だし、仮にあっても俺等がなんとかするから。準備はいいかな?」
「うっす」
「いつでもいいわよ」
流石にこの圧を受けてすぐに緊張が解けるわけでもなく。だからといってうだうだする暇も無さそうなので、なんとか振る舞いぐらいは余裕を持ってと気合を入れていると、一三さんにはバレているのか軽く笑いながら先陣を切って扉を開けてくれた。
途端に襲ってくる圧は更に強くなったが、止まったら動けなくなりそうだと思い気合いで一歩。
「お客さんと聞いていたけども、なんともまぁ……坊やが更に可愛らしい坊やとお嬢さんを連れてきたようで」
腕やら何やらベルトを使って全身を固定されていて尚も放たれていた圧――その存在感に気圧されたが、それ以上に俺等を見る瞳に言葉が出てこない。
見透かされている? いや、なんか違うな……静かに見定める様に、何かあの人の中で基準をもって観察をしている。多分これがしっくりくる。
だけど何よりもやっぱりそのひと「おっぱいでかぁ……」――うーん、台無し。
ブクマ、評価等々含め、お読みいただきありがとうございます。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




