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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter0 始まり
2/24

Chapter0-2

 俺は自宅のリビングのソファーで目が覚めた。

 ガンガンと痛む頭で思い出せるのは、犬種不明の超大型犬に襲われて死にかけた事ぐらい……いやでも自宅に居るってことは、実はあれは夢だったのか?


「いやー、くっそリアルな夢だったな。本気で死ぬかと思った」


「お目覚めですか?」


「へ?」


 誰に言ったつもりもない言葉に返事があった事にも驚き、それが知らない奴の声だった事にも驚き、振り返ってテーブルの方を見れば、蒼い髪の男がコップに入ったオレンジジュース片手に俺を見ている。


「え、なんで幽霊が俺んちでオレンジジュースを」


「初めて話す相手に幽霊とは……一応これでも恩人なんですが」


「まさか、実は夢じゃなくて俺は死んじまって――」


「これは聞こえてませんね?」


 蒼い髪の男が何か言っているがそれどころではない。

 今は自分の状況を整理するのに忙しい。どうする……成仏はしてないみたいだし、まずはお袋に報告か? お袋ならきっと俺の事も見てるだろうし。


「ん? おぉ、起きたか晴久」


「親父……? 俺が見えるのか?」


「打ち所が悪かったか?」


 心配そうに俺の頭に手を置く親父。その手の暖かさが、お前は生きてると言ってくれているようで少し落ち着いた。

 俺はそれから少しして、蒼い髪の男を気にしつつも親父に今日あった事を話してみる。

 自分で言っていてアレだけど、突拍子もなさすぎて夢だと言われたほうが何倍も納得する内容だったのに、親父は真剣な表情で聞いてくた。


「お前からも事情は聞いていたが、これはお前の落ち度ってことでいいのか? アーコミア」


「私がこちらの世界に来た時には既に手を出されていた事です。今回は偶々、偶然、貴方のお子さんが巻き込まれただけですよ。むしろ私が近くに居たおかげで助かったんですから、感謝してほしいぐらいなのですが」


「偶然ねぇ……」


「いくら疑ってもそれは事実です。ただ次は偶然ではないかもしれませんがね」


「お前が俺等を巻き込むのはルール違反のはずだが?」


「もちろん流れに従って、私はどうもしません。そもそもどうしようもできません。彼を巻き込むのは、偶発的に発生したこの世界の流れですよ」


 なんか普通に話してるけど、親父と青い髪の男は知り合いだったのか? アーコミアって多分名前だよな。ってか俺の話なのに俺が置いてけぼりな気がしてならない。

 全く何を話しているのか分からん。


「親父は、その幽霊と知り合いなのか?」


「ん? まぁ、知り合いと言えば知り合いだが、こうして直接話すのは初めてか?」


「そうですね。こんな形で会うことになるとは思ってませんでした」


「俺もだよ」


 はぁ……と大きなため息を吐く親父。

 仕事は家でしてる親父が家を開けることは少ない。買い物とかもお袋と一緒だし、結構古い知り合いなのか? いや、会って話すのが初めてならネット上の友達とか?


「そういやお袋は?」


「少し用事で出てるよ。もう少ししたら帰ってくると思う」


 お袋とも知り合いなのか気になったけど、今居ないなら本人には聞けないか。親父から聞いてもいいが、それよりは他の知りたい事を先に聞いていたほうが良さそうだ。


「あんまり状況を理解できてないんすけど、アーコミアさんが助けてくれたって事でいいんですかね?」


「結果的にはそうですね。あと、アーコミアというのは昔の名前で、今は'亜古宮(あこみや) (すたる)'と名乗っています」


 そう言って渡された真っ黒で白抜き文字の名刺には、確かに'亜古宮 廃'と書かれている。

 昔の名前ってのは、生前とかそう意味なんだろうか……とか思いながら名刺を眺めていると、ある部分で目が止まった。

 裏には'仲介相談屋'やら'古物商店亜古'やら他にも色々と書かれているがそれは別にいい。

 幽霊がなんで名刺を持ってるのか気にはなるけど、亜古宮さんがどんな仕事をしていようが別にいいんだ。

 俺の目が止まったのは役職。亜古宮さんの名前の前に付いている一つの単語。


「元魔王?」


 堂々と書かれている'元魔王'の文字。

 ユーモアに溢れすぎて反応に困るぞ、これ。


「アーコミア……お前、この名刺配り歩いてんのか」


「いえいえ、こっちの名刺は所謂分かってる人用で、いつもはこっちですよ」


 亜古宮さんが取り出した別の名刺は、少し縁に装飾があるだけで至ってシンプル。役職みたいな所も'仲介役'とだけ書かれている。


「元魔王って面白い冗談っすね」


「「……」」


 え、なんか変なことでも言ったか?

 場の空気が一瞬だけ固まった気がしたんだが……。


「この反応、お子さんに何も話していないんですね」


「あー……別に知っておく必要はないかなと思っていたからなぁ」


「親父?」


 一体なんの話だ。俺的には結構当たり障りの無い言葉のつもりだったんだが、なんか失礼なことでも言っちまったのか?

 もしそうだとしたら亜古宮さんは怒った様子もないし、とりあえず謝れば許してくれるかな。


「ただいま。あら、おはよう晴久。気分はどう?」


「あ、おかえりお袋。気分は悪くねぇんだけど、なんか亜古宮さんと親父の話が意味不明で混乱してる」


「どんな話をしていたか私も気になるわ。まずはご飯にしてから、何を話していたか聞かせて? もちろん……亜古宮さんも食べていきますよね?」


 帰ってきたお袋は、亜古宮さんに有無を言わさず台所へと移動していく。

 昔に怒られた時をふと思い出して俺も何も言えなかった。話してた声ほどお袋の目は優しくなかったのは、気のせいじゃないだろう。


「亜古宮と呼んでいただけたのはポイント高いですよ」


「何目線なんですか」


 コソッと耳打ちしてきた亜古宮さんに思わず食い気味で返してしまった。

 親父と一瞥だけしたお袋は、なんか亜古宮さんに対して良い印象は持ってなさそうな空気だけど、今のところ俺からしたら助けてくれたおちゃめな幽霊なんだよなぁ。

 イケメンで爽やかな蒼い髪の幽霊……ってか普通に話してるけど本当に幽霊なのか?


 そうこうしていると、元々下準備は終わっていたんだろう。すぐに晩御飯がテーブルに並べられていって、俺の隣には亜古宮さん。向かい側には親父とお袋が座り、どこか緊張が抜けない食事が始まる。


「それで、一体どんな内容を話していたの?」


「晴久から何があったかを聞いて――」


 俺が起きてからの流れを親父が話している間、途中で口を挟む事もなくお袋は静かに聞いていた。

 そして話を聞き終えて一言。


「晴久、お父さんとお母さんの秘密を知りたい?」


「もしその秘密を聞いたら、色々と納得できんの?」


「それは晴久次第。でも知らないでいる事を選ぶなら、この話はここで終わり。今回の事は不幸だったと納得して、あとは亜古宮さん達に任せるだけ。二度と同じことがないようにしてもらうわ」


 達……? え、何、亜古宮さんみたいな存在が複数いるのか。ってかお袋はそれを知ってるって事だよな?

親父は何も言わないし、亜古宮さんはニコニコしてるだけだし。今回の事で何も知らないのは、本当に俺だけなんだな。


「そりゃ……知りたい」


「知ってしまったらきっと今までのようには過ごせないわよ。貴方はお父さんの息子だもの、きっと楽しんでしまう。危機感が麻痺してしまうかもしれないし、そのせいで今日よりもっと危ない目に遭うかもしれない。しなくてもいい色んな苦労をするかもしれない。もう一度だけ聞くわ……それでも知りたい?」


 なんだよそれ。そんなズルい言い方ないだろ。

 なんでそんな…………あぁ、そっか。こんな真面目な空気なのに、俺、笑っちゃってんのか。

 別にお袋の言っている事が嘘だとは思わない。思わないからこそなんだろうな、期待にも似たなんかがフツフツと湧き上がってきてる。


 いやいや、俺らしくない。おかしい。なんだこの感情は……今日の出来事が楽しかった? また似たような事があるかもしれないのに心が躍る? 死にかけたんだぞ。ありえないだろ。

 それなのにもっと――。


「知りたい」


 考えがまとまる前に言葉が出てしまった。でも撤回しようとも思えない。

 大丈夫。お袋が少し大げさに言っているだけで、秘密ってのを知られたくないだけで、このよく分からない何かに突き動かされたせいじゃない。


「らしいわ、お父さん。私は反対したかったけど、教えたほうが良さそう」


「みたいだな。もうこの様子だと遅かれ早かれ、アーコミア達に相談する羽目になるか」


 親父とお袋が一体なんの事を話しているのか分からない。

 わからないことだらけだ。

 なんか、不愉快だ――「では、早いところ秘密を暴露してしまいましょう」――ハッ……俺は今、何を考えた。


 亜古宮さんが軽く鳴らした手の音で、やっと自分の思考にモヤが掛かっていた事に気付いた。

 思考が晴れてくれてやっと分かる。マジでやばかった。絶対正気じゃない。

 だって今一瞬、俺は……親父とお袋の……'死'を。


「一応礼は言っておく。これからは世話になるだろうしな」


「いいですよ別に。私が手を出さなくても、まだ問題は無かったようですし。あのお守り、便利そうですね」


「あぁ、王様には感謝してるさ。さて晴久、落ち着いたか?」


「あ、うん。もう大丈夫だと思う」


 親父と亜古宮さんのやり取りは、まだよく分からない。王様とかいう謎の人物も出てきたし。でもそれよりも今の自分への恐怖心が上回る。だから早く俺はその秘密とやらを知りたい。

 そんな俺の心を汲み取ったのか、親父は軽く咳払いをしてまっすぐと俺を見て、口を開いた。


「最初に言っておくが、至って俺は真剣に本当の事を言う。こんな真面目な空気で嘘は言わない。いいな?」


「分かった」


 もう一度一呼吸置いた親父。そして――。


「実は父さんと母さんな、異世界帰還者なんだ」


「……」


「……」


「え?」


「うんまぁ、もっと簡単にそれっぽく言うと、魔法使いなんだ」


「……」


「……」


「「……」」

ブクマ・評価ありがとうございます。

引き続きお付き合い頂ければ嬉しいです。

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