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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter2 思い切り
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Chapter2-8

「はい、では異物のお勉強会を始めましょう」


「いきなりっすね」


「後日改めてとお約束したので」


 そういえば異物の講習を改めてとか言ってたっけ。

 世巡さんの一件から三日。まだ筋肉が突っ張ってる感じがしてるし、今日は普通に休日だから休みてぇ。勉強とかしたくねぇ。

 でもなぁ……世巡さんと約束したんだよなぁ。


 ――俺はもう一度だけやり残したことをやり直してくる。

 ――俺が居ない間、よかったら妹と仲良くしてやってくれ。もしもの時、晴久君には任せられる。

 ――それと、お父さんにも今一度"ありがとうございました"と伝えておいてくれ。


 妹の菜々さんに髪を切ってもらったとかで、くっそ爽やかイケメンって事が分かった世巡さんは居なくなった。そんな世巡さんに菜々さんはというと、憑き物が落ちた様な雰囲気で大丈夫って言ってたし、まぁ大丈夫なんだろうと思う。

 親父に世巡さんの言葉を伝えた時は、迷いは晴れたようで何より。と満足げだったのも気になったけど、なんか聞いても教えてくれそうに無かったからやめた。

 ただまぁ……任せられるって言われた時に出来ることはしてみますって言っちゃったし、もしもの時ってそういう事なんだろうし……これぐらいは頑張らないとなぁ。


「あれ、そういえばセラは? 二人とも呼び出してませんでしたっけ」


「セラさんからは、何やら用事もありますし、晴久君から後日聞くので今日はパスということでした」


 あいつ逃げたな。

 この三日でなんか知らんけど個人で連絡取るぐらい仲良くなってたのアイツの方だぞ。

 俺なんて、起きた時に帰ろうとしてる菜々さんから無料クーポン貰って以来なのに。


「ではでは時間も惜しいですし、メモはスマホでもなんでもお好きにどうぞ。必要でしたらそこのノートをお使いください」


「あっす」


 その、ホワイトボードを回転させると、裏に既に色々書いてあるのも慣れてきたな。


「まず私達が異物と呼ぶモノの種類は大きく分けて三種類。その三種類をまた細分化して分類しています」


 ホワイトボードには亜古宮さんの言う通り、大きく書かれた【異物】と【人工異物】の文字に挟まれて三つの大きな枠が書かれている。

 一つは【装備型】、次に【寄生型】、そして【特殊型】。

 そこから更に個々の枠の中には、永続だったり固定だったりと幾つか分類があるっぽい。


「例をあげると、セラさんのブラックブーツや世巡さんの妹さんが所有している思斬り鋏は、装備型の固定枠に入ります。今は装備型だという事だけ覚えれば問題ありません」


「なるほど。まぁ装備型はイメージしやすいっすね」


「おそらく装備型の異物がこちらの世界では一番多いです。時点で特殊型が多く、寄生型が一番少ないでしょう」


「そんなに珍しいんですか? その寄生型って」


「珍しいですね。寄生型は私が実際に遭遇したのは三つしかありません。内一つは既に私が消滅させたので、現在残っているのは二つですかね」


「し、消滅っすか。物騒ですね」


「物騒ですよ。そして厄介です。寄生型の異物は、晴久君のご両親や私よりも制限が緩く、対峙するとなると大変なんです」


 その時の事でも思い出しているのか、どことなく亜古宮さんから哀愁が……。

 こんな事を続けていたら、いつか俺も寄生型とかいうのと会うんだろうか。嫌だな―、絶対に関わり合いたくねぇ。


「次に特殊型は、薄々気付いているでしょうが晴久君や私の様な存在の枠組みですね。異世界帰還者もこの枠組に入ります」


「世巡さんとかもって事っすか」


「その通り。特殊型も様々で、外らかこちらに来た状況で帰還者、転移者、転生者、加えて晴久君の様な先天型、寄生型ではなく個人が異物として発現する後天型と種類があります。特殊型の大部分は帰還者が占めますね」


 親父達は帰還者って分類だろう。

 それに一応、転移者とか転生者とかもいるんだな。死線だけじゃ流石に分からなそう。


「とりあえず大まかな事はコレぐらいですね。先程も言った様に、とりあえず晴久君は異物には三種類の分類があると覚えていただければ問題ありません。何かご質問は?」


「はい!」


「どうぞ」


「単純に気になったんですが、大まかな分類でも大丈夫そうなのに、どうして細分化して種類分けしてるんすか」


 なんか今の説明のままだと、別にここまで細分化する必要性を感じない。

 いやまぁ、なんとなくならそれでもいいんだけど、何か意味があるなら種類こそ覚えなくても分けられてる理由ぐらいは知っておきたい気分。


「それは各異物によって保管方法や監視環境が変わるので、それの目安としての用途。他には、この細分化は試験的な所もあります」


「試験的?」


「発見した異物は情報をデータでまとめて記録しています。そこではここから更にランク付けも行われていて、未来――その来る時の指標とする気でしょう……まぁ、知った所で深くは考えなくて大丈夫です。そういうのもあるんだーと覚えるぐらいが丁度いいでしょう」


「?」


 なんか無理矢理話を終わらせられた気がする。

 なんだかんだ亜古宮さんは聞けば答えてくれるし、もう少し聞けば教えてはくれるんだろうけど……聞いたら聞いたで後戻りできなさそうだからやめとこ。


「もう一つ質問していいですか?」


「いいですよ」


「ちょっと話が逸れるんですけど、この前、菜々さんを拉致した組織ってなんですか?」


「あぁ……そうですね。それは教えておきましょうか」


 そして当たり前の様に回転したホワイトボードには、でかでかと'悪の組織'という文字と、大小のデフォルメされた人型っぽいシルエットが七つ。

 他にも色々書いてあるけど……とりあえず亜古宮さん、かわいい絵描くんだな。


「全容は明らかではありませんが、私が集めた情報では彼等は特定の名前を持たない組織であり'ボス'と呼ばれる存在を筆頭に、幹部が六人。以下不特定多数の構成員が居るとされています」


 あぁ、だからとりあえず悪の組織なんて言ってるのか。本当にそう名乗ってるのかと思ったわ。


「最も、ボスは居ると言うだけで情報から予想される人物像は様々。六人の内一人は、寄生型異物の所持者で私が消滅させたので、増員されていなければ幹部は現在五人ですかね」


「なるほど、五人……」


 ん? 今、サラッと人を殺した宣言しなかったか?


「世巡さんやセラさん、晴久君から教えていただいた情報から、おそらく三人が対峙した相手は幹部の一人でしょう」


「え、あ、はい」


「私は直接対峙した事はありませんが、化学物質や機械などの扱いに長けている者が幹部にはいるそうで――」


 亜古宮さんは俺達が戦った相手の説明や、その他には老婆や女性、長身の男やら特徴もそこそこに他の幹部の事も教えてくれているけど、正直頭に入ってこない。

 覚えられる自信が無いってのもあるが、やっぱりさっきの事が気になって仕方がない。


「あの亜古宮さん」


「はい?」


「その、一人幹部を消滅させたって……殺したって事っすか?」


「そうですけど?」


 そんな当たり前の様に言われましても。

 聞いたのは俺だけど、それって普通に殺人だよな。


「ふむ……晴久君、お忘れかもしれませんが、私はこう見えても元は魔王と呼ばれていたんですよ。こちらの世界でもポピュラーな人間の敵の魔王と。まぁ今はこちらの世界でのルールに則り、基本的にはそういう事はしませんが、別に人を殺す事に抵抗があるわけではありません。必要であれば微塵の躊躇いもなく人に限らず私は殺せます」


 変な汗が出てきた。

 必要であればそうする……そりゃそうだろと思うけど、俺にそんな覚悟はない。だけど俺が置かれている環境とか、今後のもしもを考えると、俺もそうしなきゃいけない時が来るのかもしれない。

 その時、俺はできるんだろうか。


「現状、異物を人と考えない。という割り切り方もありますが、まぁ、晴久君は心配はしなくていいですよ。そういう事はそういう事が出来る人物をあてがうので」


「……ありがとうございます」


 本当に気にしていない様子で笑いながら言う亜古宮さんの言葉に返しながら、なんか少し自分が情けなくなった。

 別に強いとかじゃないのは分かってるけど、ちょっとは特別な存在っていうか、楽しんでる自分が居たはずなのに、その瞬間を考えるとビビってしまった。

 この前の時もビビって……あのフルフェイスが死ぬのを回避した。きっと世巡さんには、俺が敵を助けた様にも見えたかもしれない。それでも死の瞬間から俺は逃げたんだ。


「何を思い詰めているか大方予想ができるので言いますが、別にそれで良いんですよ?」


「え?」


「本来であれば晴久君はコチラ側の事情に立ち入る事もなく、それなりに生き、それなりに成長し、事が起きても当事者ではなく無関係な逃げ惑う大衆でいられたでしょう。それが偶々コチラ側に踏み入る事になり、偶々今の状況になっているだけです」


「偶々っすか」


「はい。その辺に転がっているビー玉が晴久君の足に当たったか当たらなかったか。晴久君がそのビー玉に気付いたか気付かなかったか。そんな僅かな事が偶々重なった結果でしかありません。そこに晴久君自身の崇高な目的があったわけでもなく、晴久君自身がやりたかった事でもない」


 それでも、偶々でも、俺はもう関係者じゃん。

 その状況で俺が選んでるんだし、そこはもう俺の意思だろ。


「ですので別に不殺の心でいいんですよ。晴久君が培ってきたその気持ちは、これからの晴久君を形作るモノ。それを貫く為の力が晴久君にはあるんですから、それでいいでしょう。私はそれをサポートする為にこうして色々と手を貸しているんですから」


「もしかして慰めてくれてます?」


「と言うよりは、そんな事に悩む理由が理解出来ないだけです。当然の感性を否定する意味が分かりません。暴力的な発想というわけでもなく、排他的な思想でもなく、ごくごく普通なその考えを何故晴久君が捨てる必要があるんですか?」


「だって亜古宮さんは」


「晴久君は私の様になりたいのですか?」


 今までのやり取りの中でも胡散臭い笑みのままの亜古宮さん。

 だけどなんとなく頼りがいはある亜古宮さん。

 参考にしたい所はあっても、亜古宮さんの様にはなりたいとは……ちょっと……。


「その表情で分かりますよ。だからこそ別に晴久君は晴久君のままで良いかと。今はそんな事に悩まず、私や周り、与えられた環境で経験を積み、やりたい事を見つけた時……いつか選択を迫られた時に選びたい選択を選べる様になる事が、一番晴久君の為になると思いますよ」


「良いんすかね。それで」


「ダメな理由がありますか?」


 そう聞かれると別にダメだとは思わない。思わないけど、やっぱり考えてしまう。

 選択をするような場面に直面した時、そうしないという事を俺が選んで良いのか……。俺はそうしないという選択をできるのか。

 はぁ……結局その時にならないと分かんね。

 何より今は、他人の事よりもとりあえず自分が簡単には死なない様に頑張らないといけないよな。


「少しは気持ちの整理がついたようですね」


「問題の先送りになってる気がしてならないですけどね」


「別に先送りで問題ない事だと私は思いますよ。今回の事に関しては、実はもう答えはでているでしょうから。後は色々と学びながら、その時を待てばいいだけです」


「うっす。頑張ります」


「では続けましょうか」




 そこから、改めて異物の種類やそれぞれの特徴。そして恐らく俺を今後狙ってくる可能性があるであろう"悪の組織"の事を教えてもらい、気が付けばもうすぐ夕方という所で今日の勉強会は終わった。

 亜古宮さんは何か用事があるとかで、鍵は気にしなくていいと言い残して何処かへ行ってしまって、事務所には俺一人。

 やっぱりなんだかんだで緊張してたのかな。一気に疲れが来た感じがする。


「……よくよく考えると、殺人を平気でする人と関わり持ってる俺も大概ヤベェ奴じゃんね」


 いや、自分を特別視するのはやめよう。どうせ亜古宮さんに言わせたら'たまたま'なんて言葉で済む事なんだろうし。

 そんな事より……なんで亜古宮さん捕まってねぇんだろ。そこら辺もファンタジーパワーでなんとかなるもんなのかね。




ブクマ、評価等々含め、お読みいただきありがとうございます。

前作からの方も今作からの方も、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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