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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter2 思い切り
16/24

Chapter2-7

「チッ……」


「アハハッ」


 世巡さんの動きが分からないけど、気が付けば地面に傷を付けている刺股と、それを予測していたかの様に首だけを動かして避けているフルフェイス。

 そして反撃であろう二発の銃声の後には、空中に居たはずの世巡さんは瞬間移動でもしたのか地面に立って舌打ちをしている。


「攻撃しづらいだろうけど我慢して頑張ってください。なんせ僕、悪役なので」


「減らず口を」


 あのフルフェイス、妹さんの周りで攻防を繰り返すだけで大きく移動しようとしない。

 多分、世巡さんもそのせいでいい感じの攻撃ができないんだろう。もしかしたら攻撃を誘導するみたいな事をされているのかもしれない。

 そして二人の戦闘が凄すぎて、妹さんを救出するタイミングが分からん。マジでなんも分からん。


「セ「しっ……」――」


 どうするかセラに小声で聞こうとしたら、すぐに口を手で塞がれ、即座に半身だけ下がってきたセラに押され転けそうになったのを必死で耐えていると……セラの頭があった所に四発の弾丸が飛んできた。


「アレ? 当たったと思ったのに。 お兄さんのお仲間ですか?」


「さぁな!」


「二人確認が出来てないし、多分当たりですよね?」


「見て確かめればいいだろ!」


「アハハ! 確かにそれはそうですね!」


 ――ッ!? 死線!?


「んー、勘違いかもですね」


 急に伸びた死線が見え、慌ててセラの頭を押さえて俺も頭を下げると、フルフェイスが腕を一振りすると同時に頭上には綺麗に一列、かなりの数のナイフが突き刺さり壁が溶けて煙を上げている。

 銃での攻撃には反応しなかったのになんでナイフには? と一瞬疑問に思ったが、そんな事よりも間違いなく俺等を狙った攻撃をしてきた事の方が問題だ。

 フルフェイスの反応を見るに俺等をしっかり認識しているわけではないっぽいが、避けなきゃ死んでる攻撃をしてきた事は確か。


「よそ見か? 随分と余裕だな」


「どうせお兄さんは、僕に攻撃を当てきれないですからねぇ。ほら、今のも簡単に避けられる」


「そいつぁどうかな」


「強がったってダメですよ。そんな臆病な攻撃、利用するに決まってるじゃないですか!」


 姿勢を低くして突っ込んでいこうとした世巡さんだったが、フルフェイスが妹さんにナイフみたいなのを突き立てようとすると、おそらく世巡さんの攻撃であろうモノが不自然な軌道で床から天井にかけて傷が出来ている。

 いや、そんなかわいいもんじゃねぇ。抉れてるよ。


「やはり人質はいいね! 美品であればあるほど、傷付けたくないと正義の味方は行動する。子供でも分かる正義の苦悩。だからこそ、ちゃんと利用すればソレは絶対的な弱点になる。そう思いませんか?」


「知らねぇよ」


「いえ、貴方は分かるはずです。その動揺、慎重さ、落ち着き、でも焦り、そして恐怖……経験者でしょう? どちらの立場か、その結果は知らないですけど!」


 何か思い当たる事があるのか、世巡さんの動きが俺にも分かるぐらいに鈍くなったな。フルフェイスのやつ、世巡さんと知り合いだったりするのか? いや、どっちの事も詳しく知っているわけじゃないけど、それはないか。


「――ん?」


 静かに息を殺しながら二人の戦いを見ていると、セラが俺の袖を軽く引っ張ってきた。

 何事かと思えば、ハンドサイン?

 えーっと、私が? フルフェイス? 俺が、妹さん? ……え、なにそのサムズアップ。突っ込む気か? 壁がナイフで溶けたりしてんの見えてないんかコイツ。


「信じてるわ」


 俺が返事をする前にセラは駆け出し、目の前には俺一人隠れるぐらいの黒く薄い壁が現れた。

 おそらくセラが空中で方向転換したりするのに使っている壁だろう。多分、フルフェイスから俺を隠すために大きめの足場をわざと作った。

 いきなりで言いたい事もあるが、うだうだしてる暇はない。ここで動かなきゃ、俺一人とか状況はもっと悪くなる。


「一人は女の子? まだ一人いるはずなんだけどな」


 あのフルフェイス、俺が居る事は確信気味でキョロキョロしてるし、セラのタイミングに合わせて……いや、今、このタイミングでセラよりも先に妹さんの元へ行く。

 確かこの大きな宝石を押し込めばいいんだよな。躊躇うな、思いっきりいけ。そして――頼むぞ、亜古宮さん秘密道具!




「ぬおおおぉおおぉおおおあぁああぁああぁ!!???」




「へ?」

「ん?」

「……」


 なんだこの速度!? ちょっと踏み込んだだけなのに、なんかやばい速度で突っ込んでる!?

 妹さんもう目の前に近い! ってか止まり方分からねぇ――死線、俺、違う、これは、くそっ――。


「だらっしゃいぃぃ! グベッ」


 本能……ってわけではないけど、ダメ元でフルフェイスを蹴り飛ばして方向転換。なんとか上手くいったようで、妹さんを吹き飛ばす事もなく、俺は無事地面と衝突して止まれた。

 ついでにフルフェイスを蹴り飛ばせたし結果オーライ。


「セ――世巡さん、妹さん寝袋につっこむの手伝ってください!」


「……あぁ」


 妹さんは寝ているのか? 薄っすらと死線は見えるから死んではないけど、これだけ近場でズドンズドンやってるのに反応する感じはない。ってか人を寝袋に入れるって意外と難しいな!


「いたたた。もう一人居るとは思ってたけど、偶然か、ただのお馬鹿さんか、それとも……」


「セラァ!」


「分かってるわよ!」


 フルフェイスの声が聞こえてセラの名前を呼べば、どうやらその必要は無かったようで黒い壁が現れて遮蔽物ができた。

 数秒遅れて何かが壁にぶつかって、更に砕ける音。


「流石にコレじゃダメね」


 黒い壁じゃ防ぎきれこそしないが、それでも速度は落ちたみたいでセラは軽くナイフを蹴り飛ばしていく。

 その間にと思って妹さんを寝袋に入れたは良いけど、チャックが布を噛んで上がらんんんん!!


「落ち着け、晴久君」


 俺とは違って落ち着いている世巡さんは、冷静に一度チャックを下ろしてから締め直し、わざわざ俺に背負わせてベルト類まで止めてくれた。

 ただ、なんというか、世巡さんちょっと不機嫌? 心当たりはあるけど、今は気付かないフリをしておこう。


「あざっす。セラ! 逃げるぞ! で、いいですよね?」


「あぁ。逃げようか」


 世巡さんがフルフェイスに向けて手を翳し、軽く手首を動かすと、凄まじい勢いで地面が捲り上がってフルフェイスの周りを覆い閉じ込めた。

 なんか脱出しようと音はするけど、簡単には壊れなさそうだな。


「そう長くは持たなそうだ。急ぐぞ」


「うっす」


「分かったわ」


 どうやら俺の予想とは違って長くは持たないらしいっす。

 今はバンクルの効果で馬鹿みたいに動ける感があるけど、これがいつまで続くかも分からないし、正直今の状態が切れて尚、妹さんを背負って走れる気がしないし、早く逃げるに限るな。

 それにしてもドラマや漫画の奴ら、日頃どんだけ鍛えてんだよ……。


「うぉっ!? またこの浮遊感」


「'ポータルウォーク'って言ってな。分かりやすく言えば、一種の超短距離転移魔法だ。戦闘では魔力感知能力が低くかったりする雑魚専用みたいなもんだが、目先の移動には便利なんだ」


「もしかしてフルフェイスと戦ってる時、すっごい手加減してたりしました?」


「いや、こっちの世界じゃポータルウォークも連発はできないし、向こうも本気でやってはいなかった。それに俺が全力を出せなかった状況なのは事実だったが……どうやら本気でやらない方が良いらしいからな」


「アハハ」


 誤魔化せてるとは思ってなかったけど、世巡さんがそれ以上何も言わないのは、俺への配慮かな。だったらそれに甘えて今は逃げるのに集中しよう。

 さて、世巡さんの魔法で一瞬で倉庫の外には出れたし、とりあえず倉庫から離れているのはいいけど……帰りはあの天井が捲れてる車なのかな。

 ってかそもそも、合流場所どこだ。




---

--




「あ、ボスですか? フォーです。アハハ、逃げられちゃいました。もちろん人質も、あーー、ディファレントアイテムも一緒に。え? いやいや本気でしたよ? データ類は随時送信していたでしょ? 五体満足で生き残っているだけでも褒めて欲しいぐらいですって」


 自身をフォーと名乗った者は、フルフェイスヘルメットに内蔵されている無線機で連絡を取りながら、先程壊した石壁の瓦礫を軽々と蹴飛ばし、晴久達が'異物'と呼ぶ物が落ちていないか探しはしているが、センサーに反応がない所を見ると既に持っていかれているだろうと諦めている。


「えー? 発信機ですか? 人質の方には付けていましたけど――あ、今、壊されましたね。僕の部隊も半数は連絡が取れないし、これは全員見失ったかな」


 瓦礫に腰を下ろしたフォーは周囲を見渡す。

 人質が座っていた椅子。

 その身内であろうロン毛の者との戦闘跡。

 今は消えているが、自身達が'ディファレントアイテム'と呼ぶ道具を扱う者が出した黒壁。

 そして、自分を蹴り飛ばした者。


「あの時、間違いなく僕は死んだ。ロン毛のお兄さんは僕が気を取られたのを見逃していなかった。だけど僕は生きている。人質を奪還した後も、役割が違えば僕は殺せたはずなのに……そういえば僕の攻撃も不発に終わったなぁ……」


 フォーはナイフが突き刺さり、不自然に溶けた壁に目が止まる。

 突き刺されば特殊な配合をしている劇薬が漏れるナイフ。それで殺すつもりでもあったが、仮に避けられたとしても、そんな現象を見れば警戒してそこから離れるだろうと予想していた。

 後はそこを狙い撃てば良い……そう思っていたフォーだったが、予想に反して二人は姿を見せなかった。


「ボス、僕の小さなお願いを聞いてもらっていいですか? いやいや、そんな難しい事じゃないですって。ボスが持っている情報を少しと、僕を――」




--

---




「とりあえず、発信機の類はもう無さそうですね。妹さんの奪還、お疲れ様でした」


 世巡さんの言った通り、道に倒れている俺達を襲ってきた人達を辿ると、ボッコボコで廃車寸前の車に寄りかかって休んでいる亜古宮さん達と合流ができた。

 亜古宮さんがレンズの無い虫眼鏡みたいな道具で妹さんに発信機が無いか調べてる間に周囲を見てみると、かなりの数の人達が倒れているけど死んでる人は居ないみたいだ。


「異物の鋏は?」


「ちゃんと持って帰ってきている」


「それならもうココに用は無いですね。早く撤退しましょうか。わざわざ殺していない彼等が起きる前に」


 なんとか形を保っているシートに妹さんを寝かせ、膝枕をするように世巡さんが座り、後ろには口数も減りヘトヘトになったセラが座った……もう寝てる。


「一三さん、そろそろ」


「あー、ちょっと待ってくれ。もう数人だけ確認するから」


 既に助手席を陣取っている亜古宮さんは、何やら気絶している人達のヘルメットを外して写真を撮っている一三さんに声をかけた。

 一三さん、何やってんだ? そういう趣味でもあるのかな。


「よし、とりあえずこんなもんでいいだろ。ん? 晴久君は乗らないのか?」


「晴久君はそろそろ乗った方がいいですよ。もうすぐでしょうから」


「え? あ、乗ります」


 亜古宮さんが意味深な事を言っているが、乗りたくても乗れそうな場所が……まぁ、セラの横でいいか。

 んー、ケツが半分浮いてるけど、他に座れる場所もないし仕方ない。


「それじゃ、晴久君の家でいいんだな?」


「お願いします。車もそこまでは持たせます」


「いやそこまでじゃなくて俺が帰り着くまでは――」




「ん、あぁれ? いつ寝たんだ俺。ってか馬鹿みたいに体が重てぇ」


 いつ寝たのかも分からず、目が覚めれば体が動かない。ベッドから微動だにできない……ベッド?

 ここ、俺の部屋じゃね?


「起きたか」


「親父……」


 なんとか首を動かして声のした方を見れば、親父が俺の椅子に座ってゲームをしている。

 マジで俺ん家なんだな。いつの間に着いたのか全然分からねぇ。


「亜古宮から借りた道具使っただろ。身体能力が上がる系の」


「ん、あぁ、あー、この体が動かないのって、ソレの反動ってやつ?」


「そういう事だ。明日は筋肉痛で泣きたくなるだろう」


「まーじかぁ。明日学校なのに」


「動けないってわけじゃないから行けるだろうが、どうしてもってなら休めば良いさ」


「ラッキー」


 そういえば、本当にあのボロボロの車で家まで走ってこれたんだな。ってか、世巡さん達はどうなったんだろうか。

 なんか下から声は聞こえるけど、もうセラとかも回復したんだろうか。


「なぁ親父」


「ん?」


「世巡さんの妹さん、大丈夫だったん? なんか死んでるかと思うぐらい反応無かったんだけど」


「調べたら薬を使われていた。一応処置はしたから、妹さんもそろそろ起きるてるだろうさ」


「薬って……やべぇな」


「暗示を掛けやすくして、妹さんに異物を使わせたんだろうな」


 異物……しぎり鋏だっけ。

 結局どんな異物か分かってないな俺。親父は知ってるかな?


「親父、今回の異物ってどんな異物なのか知ってる?」


「たまたま見れる奴が家に居たから知ってるぞ。思斬しぎり鋏、思いを斬る鋏と書いて思斬り鋏と名前は定着しているらしい」


「あぁ、そういう字を書くのね。大体予想はついたけど、どんな感じの異物なん?」


「'後ろ髪を引かれる思い'とか言うだろ? そういう'悩み'や'迷い''思い'を断ち切れる鋏だ。失恋した時、思いを切って吹っ切れたりとか、聞いた話から推察するに、今回で言えば死ぬかも知れないって恐怖を断ち切ったりもできる」


「なんか使い方では危なそうだな」


「道具なんて大体そうだ。だから使用者を見極めるのも亜古宮の仕事の一つなんだよ。こっちの世界じゃ、まだオカルトやおまじない程度で抑えておかないといけないらしいからな」


 亜古宮さんってそんな仕事もしてたんだな。

 俺に店を観察させてたのはその一環って事か。細かい所は聞かなかったから、あの観察になんの意味があるかまでは知らなかったんだよなぁ。


「ってかさ、誰か来てるの? 下から聞こえる話し声、結構多い気がするんだけど」


「母さんが女子会してたんだよ。買い物先で久々にあったらしくてなぁ……流れで連絡とかして三人、母さんの知り合いが来てる」


「お袋の知り合い……気になるな」


「同級生二人と、一人は東郷先生だ。晴久も知ってるだろ?」


「中学の校長?」


「そうだ。少ししたら、ちったぁ体動くようになると思うから、挨拶はしとけよ」


 東郷校長か。話した記憶なんて一、二度しかないけど、優しいちっちゃい校長だってのは覚えてる。

 そういや前に亜古宮さんに見せてもらったアルバムだと、親父達の担任だったんだよな。んでお袋の同級生ってことは、あのアルバムに居た人の誰かなんだろう……あ。あぁ! くっそ重要の事を忘れてた!


「親父!」


「な、なんだ。そんな大きな声出して」


 未だにゲームを続けていた親父は俺の声にビックリしているようだったが、そんな事はどうでもいい。

 俺は親父に聞かねばならんのだ。


「……FSファンタジースリーパーって親父達も好きだったよな?」


「まぁ、よく聞きはするな。それがどうした」


「FSが親父達の同級生ってマジか?」


「あー、あー……ついに知っちまったか。隠してたわけじゃないんだが、そんな話す事でも無かったというか、別に俺はそこまで仲がいいってわけじゃないからなぁ」


「新道校長も知り合いってマジか!」


「……お前が俺に言いたいことは分かったから、無理して起き上がろうとするな。どうせ近々会うんだから……あっ」


「マジで!? それくわしぃ……く……」


 親父の言葉を聞いて起き上がろうとした瞬間、ため息混じりの親父にデコを軽く叩かれると、体の力が一気に抜けて意識が遠くなっていく。

 待って、もっと詳しく。近々会うってどういう……。


「その話は、また今度な。はぁ、鴻ノ森と並木に呆れられそうだ」


 遠のく意識の中で聞こえたのは、嫌々とした親父の声と、別に誰かが部屋の扉を開けた音だった。

組織での呼び方が違うだけで、異物=ディファレントアイテムという認識で大丈夫です。



ブクマ、評価等々、お読みいただきありがとうございます。

前作からの方も今作からの方も、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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