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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter2 思い切り
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Chapter2-6

「いいか? 亜古宮、俺はお前の運転手じゃなくて警察だ」


「えぇそうですね」


「店が荒らされ、一人連絡が取れず行方不明で、その行方不明の兄は十四年前に行方不明だった人物。どれもこれも警察に連絡があっていい事件だと思わねぇか?」


「かもしれませんねぇ」


「……なんで警察の俺はその事を仕事中じゃなくて、仕事明けに聞かされているんだろうな」


「私が今、一三さんにお伝えしたからでしょうねぇ。そんな事より、よろしかったんですか? 晴久君達にご職業を伏せなくて」


「そんな事ってなお前……はぁ、この調子だと、どうせいつかは知られそうだからな」


「なるほど。あ、お菓子いかがですか?」


「俺が運転中なの分からねぇか」


「あーんして差し上げますよ」


 静かに亜古宮さん達の会話を聞いていると、バックミラー越しに一三さんの凄まじく嫌そうな顔と目があった。

 やめてくださいよ。俺も、なんか亜古宮さん鬱陶しい絡みしてるな。って思っているんですから巻き込まないでくださいよ。


「長野君」


「はい」


「コーヒーありがとうね」


「いや、なんか急に呼び出したみたいだったんで気にしないでください」


「いやいや、どっかの野郎はこういう気遣い一つもできないから」


 隣で亜古宮さんがお菓子をちらつかせているけど、一三さんはチラ見すらせずにシカトを決め込んでいる。

 セラは携帯見ながら笑ってるし、世巡さんは……瞑想中?

 人を助けに行くってのに、本当にこんなんで大丈夫なんだろうか。


「そろそろ目的地だが――ん? あぶねぇな」


 そう言った一三さんは車の速度を落として、最終的には停止してから窓から少しだけ身を乗り出した。俺も後部座席で少し体を傾けてフロントガラスの方を見ると、一三さんが車を止めた理由が分かる。

 倉庫だらけの裏路地っぽい道とは言え、道のド真ん中に突っ立たれてたら、そりゃ止まるしかないな。


「悪いが道を空けてもらっていいか? それと道路の真ん中に棒立ちは流石にあぶねぇぞ……おーい、聞こえてるかー? 何かあったのか?」


 どうやら道を塞いで車のライトに照らされている人物は無反応なようで、渋々と言った感じで一三さんが降りようとした瞬間――俺の視界に突然現れた無数の黒い線が一三さんを飲み込む様に伸びていく。


「一三さん! 降りちゃダメです!」


「は?」


「失礼しますね」


「うぉっ!?」


 俺が声を発したタイミングで、亜古宮さんが降りかけていた一三さんの襟を引っ張って無理矢理車内に引きずり込んでドアを閉める。そして数秒後、映画やらゲームやらではお馴染みのロケット弾がフロントガラスに当たった。


「爆発!?」


「キャァァ!」


「うおおおッ!!」


「「……」」


くそっ! 爆発音で何も聞こえねぇ! ぎり俺とセラの叫び声がかすかに聞こえるぐらいか? 次々にロケランぶっ放しやがって!!

 ん……あれ? なんでこの車無事なんだ?


「どうやら長野 源次郎の予想は当たりのようですね」


「後で晴久君のお父さんにはいい酒でも買っていかなきゃな」


 不思議と音が小さくなった様な気がして、そのせいか亜古宮さんと世巡さんの言葉も聞こえた。

 なんか二人して余裕そうで、今の状況に焦ってる様子とかは一切ない。


「一三さん、私は無免許なので、このまま目的地までの運転はおまかせしますね」


「お前、状況見えて言っているんだよな? この車まだ三年目なんだぞ!」


「この場で止まっていてもいいですが、本当に全滅してしまいますよ? 後三十秒程しか持ちません」


「クソッ!」


 連続する爆発の中で悪態をつきながらも、一三さんはシートベルトをしなおして来た道をバックで逆走し始めた。


「私は前進をオススメしますよ」


「人を轢けるわけないだろ。少し荒っぽい運転になるからしっかり捕まっとけよ。後ろの三人もな!」


「この状況でもその台詞が出るというのは、律儀といいますか、私には理解できそうにありませんね」


「お前が免許を持っていなくて良かったよっと」


 こんな細道で喋りながらバックからドリフトして方向切り替えるとか、一三さんのドライブテクニックすげぇ。

 俺なんて舌噛みそうで声すらだせないってのに、よくこんな速度で運転できるな。


「……随分とご熱心なもので」


「ありゃ轢いたぐらいじゃ死にそうにねぇな」


 二人の言葉が気になり俺も振り返って後ろを確認すると、ロケランこそ撃ってきてはいないけど、なんかゾロゾロと追っかけてきているのが見えた。

 しかもなんか数増えてきてないか?


「上からも来ているな」


「みたいですね」


 今まで大した反応を見せていなかった世巡さんの言葉通り、ちょっと窓に張り付き気味で上を見れば、建物の屋根を飛び渡りながら追っかけてきている集団も居る。

 車の速度はそこそこ出ている気がするんだけど、なんで追ってこられるんだ。


「少し予定を変更しましょう。セラさん、出番です。世巡さんと一緒に晴久君を目的地まで」


「舌噛みそう! 手短にお願い!」


「こちらで囮をします。意識を車に集中させるので「分かったわぁぅ!」――理解が早くて助かります」


 セラのやつ、本当に分かっているのか? がっちり手すりみたいなの握って、車の揺れに翻弄されてる感がすごいんだが。ってかお前、空中駆け回ったりするんだからコレぐらい平気じゃないのか……。


「時間も惜しいので行動に移りましょう。晴久君、世巡さんの妹さんは頼みましたよ」


「いまいちどうすりゃいいか分かってぇ――うおぉっ!?」


 スッとどこに隠していたのか分からない刺股が顔横から伸び、亜古宮さんは亜古宮さんでニッコリと俺に返すだけ。

 どうして世巡さんと亜古宮さんは意思の疎通ができているんだとツッコミたいところだけど、なんとなく……なんとなく俺も察することができたよ。これ、俺がどうこう言っても進むし、黙ってないと舌噛むやつ。


「刺股? 運転の邪魔……おい、待て。運んでやるからやめろ!」


 一三さんの制止の言葉を無視して刺股君はメリメリと言わせながら天井を捲りあげていく……車の天井ってそういう風にめくれ上げられるもんなんすね。


「まじかよ……そうはならんでしょうよ」


 しっかり運転しながらも、車の天井がカーペットのみたいに捲れて唖然とする一三さんを余所に、亜古宮さんは手持ち用の小さい扇風機を取り出して、近くの車のフレームに固定している。

 その間にセラのブーツも形が戦闘スタイルに変わってるし、俺もなんか準備をと思ったが、寝袋はずっと背負ってるし他に準備する事もないな。この後どうするかも理解できていないし。


「では、ご武運を」


 ミニ扇風機の設置を終えた亜古宮さんがそう言うと、回転を始めた扇風機に電光で魔法陣が浮かび上がり始めて、形が完成すると同時に――なぜか扇風機と車がものすごく発光し始めた。

 目が開けられない程ではないけど、くっそ眩しい! ちゃっかり亜古宮さんはグラサンをしてるのが腹立つな!


「一三さん、どうぞ。サングラスです」


「お、おう。だが、こういう事するなら先に言え」


 俺の意思に反してふわっと体が浮く中、二人の会話を最後にデコトラみたいにキラキラした車は遠ざかっていく。それを追う武装集団も。

 ん? あれ、浮遊感は分かったけど、俺いつの間に車から降りたんだ?


「なるほど。お嬢さんもいい能力を持っている」


「Mr.ヨメグリも反応して私達を抱きかかえて降りるんだから、びっくりしちゃったわ」


 やべぇ。なんも分からなかった。

 聞いてる感じだと、セラのあの存在感を消す的な力を使った時に、合わせて世巡さんが俺等を抱えて降りたんだろうけど……マジでいつそうしたのか分からなかった。そんな事あるか? ってかセラのあの存在感消すやつって自分以外にも使えるんだな。


「それじゃ、行こうか晴久君」


「頼りにしてるわよ」


「が、頑張るわ―」


 期待に応えられる気はしないけど、この眼で見える限りは死にゃしない……はず。

 とりあえず俺が出来るのは逃げる事ぐらいだろうし、下手になんかするよりはその事に集中した法が良いはず。

 俺のやる事は一つ。妹さんを担いで逃げる!



---

--



 ――圧倒的体力差! 運動不足ッ! 息キッツ!!


「はぁ、はぁ、ひぃ、はぁ、ふぅー……」


「大丈夫か?」


「晴久、少し休む?」


「ひぃや、大丈夫、大丈夫」


 走って十分。見つからずに一つの倉庫前についたはいいが、二人に付いていく為にほぼ全力疾走。息が上がっているのは俺だけ。

 多分だけど途中でペース落として合わせてもらってこのザマ……泣けてくるわ。


「ならこのまま確認を済ませたら突入しよう。おそらく菜々はこの倉庫にいる。だが他に気配が無いのが逆に怪しい」


「私が先行して中を確認する?」


「いや、お嬢さんの能力は確かに利用できそうだが、相手の実力も分からない今は先行するなら俺がして、二人は菜々の救出に尽力して欲しい」


「わかったわ。晴久、私から離れないでね」


「ふぅー……よし、分かった」


 妹さんを入れる寝袋は広げて背負っておいて、コレとは別に出る前に亜古宮さんが貸してくれたこのゴテゴテしてるバンクルも付けてと。

 なんか使用後の反動がキツいから、バンクルを起動するのは逃げる時になってからだったな。

 逃げる時になったらこの一際デカい宝石に触れれば良い。よし、反動とかいう言葉は怖いけど、迷わず使おう。


「俺が入ってから三秒後に二人は入ってきてくれ」


「うす」


「分かったわ」


 ちょっと緊張してる事がバレてたのか、世巡さんは俺の肩をポンと叩いてから中に入っていった。

 そして三秒経って、世巡さんが開けっ放しにしていた扉から俺とセラが静かに入ると、倉庫の中央に周囲からライトアップされた妹さんが椅子に座らされているのが見える。

 ただ、下を向いていて反応がない? 先に入った世巡さんも、妹さんの様子がおかしい事には気付いているっぽいけど、刺股を構えてどこ見てるんだ?


「報告では三人見失ったと聞いたんだけど、一人だけですか? それとも僕が見えていないだけかな?」


 世巡さんの視線の先、声のした方を見ると、目がなれてきたのか妹さんの更に奥の方に人影が見えてきた。いや、向こうから近寄ってきてるのか?

 どちらにしろ誰か居る。


「貴方、反応がすごいですよ。見てください、メーターが振り切っているの分かります?」


「妹は返してもらうぞ」


「僕的にはお好きにどうぞ。でも、組織的にはまだ利用価値があるのでダメです」


 ライトアップされている妹さんの隣にソイツが立った事で、やっと姿がハッキリ見えた。

 だぼっとした服で体格までは分からないけど、身長は小柄だな。声は中性的だけど多分男か? 顔はフルフェイスで分かんねぇ。


「なら強引にでも返してもらう」


「えぇ! いいですよ! 是非、悪役からお姫様を救い出して見せてください!」


 なんかあの人、急にテンションが上がったな。

 世巡さんの実力をちゃんとは知らないけど、とりあえず敵は任せて俺とセラは妹さんの救出だ。

 セラもそのつもりで静かに様子を見てタイミング図っているみたいだし、俺も遅れないようにしないと。



 ――だが数分して尚、俺もセラも動けないまま。如何に自分が不釣り合いな場所に立ち会っているかを再度認識させられた。




ブクマ、感想、評価等々、お読みいただきありがとうございます。

前作からの方も今作からの方も、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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