Chapter2-5
「さて、本日中に片付けるのであれば急がないといけませんね」
亜古宮さんが出してきた問題に正解した俺は、他の三人と一緒に店から亜古宮さんの事務所へと移動して、いつの間に書いたのか分からない情報と、妹さんや荒らされた店内の写真やらが並ぶホワイトボードと睨めっこをしている。
時間は……後七時間ちょっとぐらいで日が変わるな。
それにしても亜古宮さんの指示で、視覚的妨害が切れても警察に連絡が行かないように掃除をしてきたけど、良かったんだろうか?
「解決するのには賛成だけど、廃ちゃんはMr.ヨメグリの妹ちゃんがどこに居るか分かってるの?」
「分かっていません。分かってはいませんが、私達をお店に釣り出すにあたって必ず確認をする術を用意していたはずです」
「でも周りに怪しい奴は居なかったぞ? 店内に入っていく俺達を不審がる奴等も居なかったし、気付いている素振りの奴も居なかったはずだ」
「私も少し注意はしてたけど見なかったわ」
「現在ではその場に居なくても確認する方法は幾らでもあるでしょう。こちらの技術を知った時には、それはそれは驚いたものです。それに仮に人を使っていたとしても、実行犯とは別で私達の知りたい事は知らない末端の可能性が高い」
場違い感凄いなぁ。なんか三人ともドラマの刑事みたいな雰囲気醸し出してるし。
俺も何か案の一つぐらいとは思うけど、人探しなんてしたことないしな。それに最近は無いけど、昔はよく物を無くしてたタイプだからなぁ……そういえば、お袋も親父もやたらモノ探し得意だったな。
「すいません、少し電話します」
「はい。どうぞ」
お袋は……時間的に晩飯の準備してるかもな。親父にするか。
『はい、長野です』
「あ、もしもし親父? 俺だけど」
『どうした。詐欺か?』
「返しがおかしいだろ」
『ハッハッハッ! しかし晴久から俺に電話とは珍しいな。母さんから遅くなるとは聞いてるけど、どうかしたのか?』
「大したことじゃないんだけどさ。俺が物を無くした時とか、親父やお袋がすぐに見つけてくれてたけど、アレなんかコツとかあんの?」
『なんだ。財布でも落としたか?』
「あー、いや、実はさ――」
親父に話して良いものか分からずに亜古宮さんと世巡さんに視線を送ると、すぐに察してくれたのか頷き返してくれた。
許可も貰ったし、親父に知り合った人の妹が居なくなったことや、今回の件にも異物が絡んでそうな事とかを簡単に説明すると、少し悩んだ様子で待つようと。
何か心当たりでもあるんだろうか。ってか、電話越しからお袋じゃない別の人の声がするんだが、誰か来てるのか?
『晴久』
「ん? 戻ったんだ親父」
『今回は少し手を貸してやれるが、大まかな現在地だけまでしか調べられない。それでいいな?』
「え? あぁ、全然ありがたいけど……そんな事していいの?」
『ダメっちゃダメだが、急いでるんだろ? まぁ、晴久は気にすんな。こっちの事はいいからその子の星座と特徴を教えろ』
「星座? 占いでもする気なん?」
『そんな所だ』
ダメだけど占いって事は、親父の力がそういう類って事なのか? 色々と話は聞いたけど、結局親父の力の事はハッキリしてないんだよなぁ。
どうやら遺伝してる力はお袋の方がメインらしいし。ロジカル・サイン名義で活動してる理由も、仕事以外で誤魔化す為とか言ってたし。結局どういう力なんだろうか。
『特徴はできるだけ詳細にな……晴久? 聞いてるか?』
「ん? あぁ、俺じゃあんま答えられないし、その世巡さんって人に替わっていい?」
『あー、確かにそっちの方が早いか。頼むわ』
「世巡さん、俺の親父なんすけど、聞きたい事があるっぽいっす」
「あ、あぁ。えっと、替わりました。世巡です……はい、はい。妹は天秤座です。はい――」
うぅん、なんかモゾモゾするな。
絶妙に年上の人が、親と話してるっていうか、敬語使ってるっていうか。おかしな事じゃないんだけど、たまにある不思議な感覚……こしょばいわぁ。
「そういえば亜古宮さん亜古宮さん。ちょっと……」
「はい?」
「亜古宮さんは、詳しく親父の力がどんなのか知ってるんですよね?」
「えぇ。知っていますが私の口からはお教えできませんよ? 以前言ったように、晴久くんのお父さんである長野 源次郎に限らず、あの時の異界の者に関しては基本的に喋らないと約束しているので」
「……そんな事言いましたっけ?」
「おや……では、今伝えたということで」
んな雑な。
ほら、聞き耳立ててたセラも、すっごい残念そうな顔をしてますよ亜古宮さん。
「お二人ともなんて顔を……そうですねぇ、一つ言える事は、不思議な事に長野 源次郎の力のコンセプトは私が居た世界よりもこちらの世界寄りという事ですかね」
「コンセプトがこっち寄り?」
「過去の異界の者の話や私の世界の創造にまつわる話、他にも言語や概念やらと小難しい話になり長くなるので詳細は省きますが、仮に天体を模倣していたとしても、私の世界ではこちらの星座は存在しないんですよ。火の神とかであれば、まだ分かるんですがねぇ」
「ん、じゃあ親父の力って」
「答え合わせは長野 源次郎に」
前に話した時、占いの仕事の事を言われて少し不思議だったけど、まさかそんな力だったとは。いやでも、あんまり力は使えないとかいう話だし、仕事には力を使ってはいないのか?
なんか気になる事が増えたな。
「晴久のパパってどんな仕事してるの?」
「ロジカル・サインとかいうヘンテコな名前で活動してる占い師? なのかな」
「え!? うそ! 今度遊びに行って良い?」
「うぉ、お、おう」
話を聞いていたセラがこっそり聞いてきたから答えたが、なんだこの反応。テンション上がりすぎだろ。
うちの親父がなんなんだ……。
「はい、はい。あぁ……いや、俺はシンプルに大きい方が好きっすねぇ」
大きい方? 世巡さん、何の話してんだ?
「うぇ? う”っ、ま、まぁあ? はい……ッス。そんな所っすね……。はい。え、いいんですか? いや、聞いて欲しいと思います。自分でもよく分からないんですけど、はい。いやいやそんな! 是非!」
本当になんの話してんの? 親父、余計なこと言ってないよな?
あー、不安だわぁ。世巡さんの反応が怖すぎる。
「ありがとう。晴久君」
「あ、いえ――もしもし親父? って切れてるし」
「折り返し電話をしてくるそうだ。それと、この件が片付いたら今晩お邪魔する事になった」
「なんで!? いやダメじゃないんですけど、どうしてそんな事に……」
あ、電話だ。
世巡さんに続きを聞きたいが、これをシカトする訳にはいかないしな……くそぉ。
「もしもし親父?」
『オレオレ、愛しの息子よ俺だ』
「切っていいか?」
『切っていいのか?』
「ごめん。ダメ」
『ハッハッハッ! 世巡さんの事が気になってんだろうが、妹さんの状況があまり良くなさそうなんでな。丁度今はこっちで診れるから招いたんだよ。お兄さんの方は俺の担当だけどな』
「なるほど――あ、あぁ……もう一人追加しても大丈夫け? なんか親父に会いたいって言う人が居るんだけど」
『ん? 分かった。母さん達にも伝えとくよ。それで妹さんの事だがな、まずは亜古宮に言って地図を用意してもらえ――』
親父の指示で地図を用意して、言われた通りに道に沿って線を丸印を付けていく。
移動手段を何度か変えているみたいで、どの地点に居るか正確な事は分からないらしい。ただ一応の目星は付いているようで、最初はそこに向かうといいと教えてくれた。
「ありがとう。親父」
『おう、気をつけて行って来い』
「うい」
さてと……'達'とか言っていたり、後ろからお袋以外の声が聞こえた気がしたりと気になる点はあったがそれは置いておくか。
まずはこっち。最初に向かえと言ったのは、ここから車で三十分ぐらいのふ頭……車とかないし、地味に遠いな。
「はい。大至急お願いできますか? そんな事を言わずに、あ、最終的には五人になると思うのでお願いしますね」
「あの、亜古宮さん。今の電話の相手、めっちゃ怒鳴ってませんでした?」
俺が親父との電話を終えて地図を見ていると、いつの間にか電話をしていた亜古宮さんは、向こうから聞こえてくる声を無視して電話を切って準備を始めた。
「十五分程したら迎えがくるので、皆さんも準備をしておいてくださいね」
「まさか……一三さん?」
「快く引き受けてくださいました」
嘘だ。
おい!おい! って叫んでいたのを俺はしっかり聞いたぞ。下手したら仕事中かもしれないのに、本当に来てくれるんだろうか。
「ねぇ、廃ちゃん。今回も何か道具を持っていくの? 前のフラッシュライトみたいなの」
「今回はアレは使わない方がいいでしょう。咄嗟にはまだ使えないでしょうし、事前に使っておくとしても効果時間がそれほど長くはなく、掛け直す暇を作れるかもわかりません」
「亜古宮、相手に戦闘部隊が居るなら何か武器はないか? 俺のはこっちじゃ出せない可能性が高い」
「そうですねぇ……出せても出さない方がいいでしょう。色々と別の面倒が起きそうですし……コレなんてどうですか?」
「刺股か」
「普通の状態では非殺傷武器ですが、魔力で刃を形成できるようになっています。世巡さんの力と合うかはわかりませんが」
「少し反発する感じはあるが、これぐらいなら問題ないな」
あぁ、そんなモノを用意するってことは、武装集団が居るんすね。
なんか世巡さんと亜古宮さんもそれなりに打ち解けてるし、俺はお留守番していた方がいいんじゃねぇかな。
「はい。これは晴久君の分です」
「……なんすかコレ」
「寝袋です」
「いや、なんで寝袋を俺に」
「世巡 菜々さんの状態が分からないので、最悪の場合は晴久君が背負ってください。その寝袋は人を入れても背負えるようになっているんですよ」
うわ、本当だ。リュックみたいに肩ベルトがある。しかもズレにくいようにカチッってするのが二つも。
普通に使うの考えると、寝心地悪そうだなおい。
「人が入ってても軽いままみたいな感じっすか」
「いえ? そんな便利な機能は無いですよ? 普通に背負える寝袋です」
「力は世巡さんの方がありそうですし、なんで俺にコレを」
「晴久君が担当するのが一番安全だと考えたので」
こめかみ辺りをトントンと叩く亜古宮さんを見て納得した。
俺が見える死線の事を言っているんだろう。だけどね亜古宮さん、俺一人なら何とかなるかもしれないけど、人を背負ってとなると逃げられるかどうか。
「まぁ晴久なら大丈夫そうね」
うわぁ、なにその謎の信頼感。
セラになんの心境の変化があったんだよ。この前の一件か?
「晴久君は必ず守ろう」
「あっす」
セラに続いて世巡さんにも目を向けてみたけど、反論も無く力強いお言葉を頂きました。はい。
考えてみればね、行かないって選択肢がなさそうなこの状況で俺ができる事といえば、確かにそれぐらいですよ。はい。
やるしかないならやりますよ。はい!
「お、やる気ですね?」
「えぇ、やってやりますよ。やってみせますけど亜古宮さん!」
「はい?」
「何かこう、いい感じの道具とかありませんか?」
ブクマ等々含め、お読みいただきありがとうございます。
これからもお付き合いいただければ嬉しいです。




