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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter2 思い切り
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Chapter2-4

「おそらく攫われたのは昨日の深夜――」


 あっ、俺の返事を聞く前に色々喋る感じのやつね。


「――だから力を貸してほしい!」


 つまり、世巡さんがネカフェで過ごしている深夜から今朝方にかけての間に妹さんが攫われ、色々と探してみたけど見つからない。

 そして世巡さん自身は複雑な理由で警察に頼む事はできず、頼れる相手が俺だけだから、こうして土下座で頼んでいると。

 セラは電話中か……いや、うーん、どうしろと。


「まぁ事情が事情ですし、手伝わないってわけじゃないんですけど、俺が力になれるとも思えないっていうか。その、本当に攫われたんですか?」


 別に妹さんも子供ってわけじゃないだろうし、そりゃ一日二日の外泊ぐらいあってもおかしくなさそうなもんだけどな。


「必ずしも俺が見守れてるわけじゃない……菜々にもプライベートがあるからな」


 一応そういう感じの常識はあるんだ。

 俺の中での世巡さんって、いきなり現れて脅してきたり、剣を振り回したり、土下座したりで、実はストーカーもしてますってなっても大丈夫な心構えはしてたんだけど、逆に驚きだ。


「普通ならそんなに気にはしないんだが、今回は違う。店は荒らされていたけど、レジとか金銭が取られた様子はなかった。だが菜々と思斬り鋏だけが無かったんだ」


 異物とその使用者だけが荒らされた中で無かったとなると、まぁ少しでも事情を知ってりゃ、たまたまとかじゃなくて最初からその二つが目的だって確信するよな。


「最初は晴久君達を疑いもした。だけどそれだと不可解な所がある」


「不可解な所? 「一つ、晴久君や私が犯人ならお店を荒らす必要はありません。二つ、そんな事が起こっていたにも関わらず事件として取り上げられていません。三つ、二つ目の理由として認識や記憶に作用する異物が使用されていた場合、その異物の気配すら残っていなかった。ではありませんか?」――亜古宮さん!?」


「アンタも来たのか」


「御連絡を頂きましたからね。それに晴久君一人に関わらせてしまうと、結果に関わらずお叱りを受けてしまうので」


 いつの間に亜古宮さんに連絡を……あぁ、なるほど。セラがさっきからしてた電話の相手が亜古宮さんだったのか。そんなにヒラヒラを携帯見せなくてもわかったって。

 まぁでも、そりゃそうだよな。亜古宮さんがセラに俺と一緒に居るように言ってたわけだし。下手したら世巡さんより先にお店の状況を知ってた可能性すらある。


「人手が増えるならアンタでもいい。どうやら妹の事や俺の事情を説明する必要はなさそうだしな」


「十四年前に捜索願が出された人間がいきなり現れて、人探しをしてくれとは警察には言いづらいですよね。晴久君を頼ってそこから警察でもいいですが、早期発見を願う今回は連絡をしなくて正解でした」


 そっか。世巡さんは警察を頼れない事情があったとしても、別に俺が警察に連絡するのはやってよかったのか。

 全然思いつかなかった。


「やっぱり警察に連絡はしないほうが良いか」


「はい。基本的に今回の事件は普通の警察の管轄外になりますから。妹さんが攫われたのは確かですが、おそらく何も得られる事はないでしょう。下手をすれば証拠を隠滅されてしまいます」


「アンタは犯人に心当たりが?」


「私の予想が正しければ、相手は一人ではなく組織です。それも、警察の相手も熟れている常習犯です」


 捜索願とか組織とか気になるワードは出てきてるものの、二人のやり取りを邪魔せず聞いていると、近付いてきたセラが俺の肩をちょんちょんと叩いて耳元に顔を近づけてきた。


「ねぇ、聞いてる感じ、もしかしてあのお店の話?」


「そうそう、セラが昨日髪切ったっていう店の事。あの人、そこの店員さんのお兄さん」


「ふーん……あんまり似てないわね」


 今まで耳打ちだったのに、小声でもなくストレートに言えちゃうの凄いと思います。

 でもなセラ。そういうのはせめて小声で聞こえない様に言うのが配慮ってもんで……ほら、心なしか世巡さんが落ち込んでいる気がするぞ。


「あ、そういえば、さっきから気になってたんですけど、俺はともかく亜古宮さんとか世巡さんが異物の気配が感じられないとかあるんすか?」


 警察に頼めない理由は、その捜索願やらでダメだし時間が掛かるってのは納得したけど、そもそも亜古宮さんや張り合えてる世巡さんが異物関連で分からないとかあるのか?


「普通にありますよ? 言ってしまえば、今でも私はこの方の異物的気配は感じられていません」


「俺もだ。アンタ、気配を隠すのが上手いな」


「お互いに」


 気配を隠すとかできるんだ。死線ありきで亜古宮さんも世巡さんも変だなって判断してたから知らなかったな。

 二人から異物の気配を取れないのは、俺が未熟だからかと思ってたけどそうじゃないのか。


「さて、異物の講習は後日改めてにしましょう。あまりのんびりしていると調査ができなくなってしまいそうなので、一先ず現場へと向かいましょうか。晴久君はご両親に帰りが遅くなっていいかの確認をお願いしていいですか?」


「あ、はい」


 亜古宮さんに言われてお袋に電話をして軽く説明してみたところ、心底大きなため息を吐かれたが遅くなりすぎない様にと許可をもらえた。

 その後、亜古宮さんに電話を替われという事で替わったが……一体何を言われてるのやら。


「……晴久君は、ジャンクフードは好きですか?」


「え? あぁー……焼肉の方が好きっすね」


 お袋、晩飯奢れって亜古宮さんに言ったんだな。



---

--



「菜々……」


「やはり完全に異物の痕跡を消されていますね」


 四人で歩いて例の店に来てみれば、本当に店内は荒れてる。外から見ても一目瞭然。台車やら鉢植えやらがなぎ倒されて、なんか土とは違う砂っぽいのも散乱している。


「ねぇねぇ晴久、私達って必要?」


「大丈夫だ。俺はいつも思ってる」


 世巡さんが俺を頼ってきたのは事実だけど、亜古宮さんが出てきた時点で俺の必要性は無いはず。セラを連れてきている理由は見当もつかない。

 まぁでも、流れとはいえここまで来たんだし、少しでも手伝えるなら手伝わないとな。


「それにしても、おかしいわね」


「何が?」


「荒らされ方よ」


「なんかおかしいか?」


「争った様子はないし、なんていうか荒らされたにしては綺麗なのよね」


 綺麗な荒らされ方ってなんだ? どう見ても凄まじく荒らされてるぞ。足の踏み場もありゃしない。

 それに争った様子が無いとか、どこ見て分かったんだ。


「晴久、アンタ……はぁ……。いい? まずガラスが綺麗過ぎるのよ。争えば割れていてもおかしくないのに罅すら無い。それに椅子にも汚れがないし、床にも土と粉みたいなのが散らばっていはいるけど、どっちも私達以外が踏んだ後は無い」


「言われてみれば確かに?」


「なんというか……拉致されたにしては足りないような気がするし、そうじゃなかったとしたらこの状態は不自然なのよねぇ」


「んぉー」


「気の抜けた反応ね」


 そんな事を言われてもな。荒らされた所なんて実際に見たのは初めてだから、言われてみれば納得するけど自力じゃ分からん。

 ただセラが言った事を踏まえて考えると……あれ? そういや世巡さんの予想では、妹さんが拉致されたのは深夜とか言ってたよな? なのに店が荒らされてて異物の痕跡を消されている。


「亜古宮さんは今回の犯人を知ってそうな口ぶりでしたけど、その人達って異物の気配っていうか、そういうの分かる人達なんですか?」


「全容を把握していないので正確な事は言えませんが、おそらく居ると思いますよ。仮に居ないとしても異物探知ができる道具の様な物は作っているかと」


 なるほど。んじゃ、もしかしたらここまで荒らさなくても探せた可能性も高いのか。そして攫われた可能性があるのは深夜帯。遅くても朝方までには、人目に付かない様に店をこんな風にした。

 なるほどなるほど……なんでだ? 後少しでハッと来そうなのに、んーーー。


「お名前、世巡さんとお呼びしても?」


「あぁ」


「では私の事は亜古宮と。改めて世巡さん、お店の鍵は閉まっていましたか?」


「いや開いていた」


「それでは、妹さんはこちらで寝泊まりを?」


「基本的には自宅に帰ってるはずだ。確か場所はそこまで遠く無かったはずだが」


 でも深夜に拉致された。ってことはもしかして拉致現場はここじゃない? 店には鋏を探しに来ただけ。だけどだったなんでわざわざ荒らしたんだ。


「ここで晴久君に問題です。おそらく今、晴久君の中では世巡さんの妹さんは別の場所で拉致されたのでは? と浮かんだでしょう。そして先程の私への質問から察するに、店内が荒らされているのはわざとであるとも気付いたはずです」


「まぁ、じゃないかなー? 程度には」


「であれば、何故店内は荒らされ、その上で人目に付かないように偽装されているのでしょうか。ヒントは、世巡さんは偽装に気付いた。ということと、店内を荒らす時には既に異物の回収と妹さんの拉致という目的は済んでいた。という所でしょうか」


「なるほど、そういうことね」


「やられたな」


 え、なに? セラも世巡さんも分かっちゃった感じ? ってか亜古宮さんは最初から何か分かってたな。

 くそぉ……俺だけ分からないのは、なんか悔しい。よく考えろ、出揃ってる情報だけでセラも世巡さんも何かに気付いたんだよな。

 ヒントは世巡さんが偽装に気付いた事、店内を荒らした時には色々と終わった後だった。亜古宮さんからの問題は、なんで店内を荒らして偽装したか……ん?


「あの、これ外から見た時も荒らされて見えましたけど、なんで世巡さんだけが気付いたんですか?」


「いい質問です。おそらくですが、世巡さんだから気付いたのではなく、日頃から異物に関わっている者であれば気付いたでしょう。ここだけ切り取った様に異物の気配が全くないというのは、逆に不自然ですからね」


「ってことはたまたま世巡さんが見つけたってことですか?」


「そうです。おそらく犯人は世巡さんが見つけると踏んでいたでしょうが、誰でも良かったというのは確かですね」


 つまり荒らした目的は、妹さんや鋏じゃなくて……異物に関わってる人物?

 あー……これは、あれか。


「もしかして俺等、釣られました?」




お読みいただきありがとうございます。

これからもお付き合いいただければ嬉しいです。

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