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傍らに異世界は転がっている  作者: 慧瑠
Chapter0 始まり
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Chapter0-1

「んじゃお前ら、気をつけて帰れよ」


 教壇で教師がLHRの終わりを告げると、教室は騒がしくなり部活だ!帰宅だ!と次々に出ていく。そんな中の一人である俺も、カバンから少し絡まりかけているイヤホンを取り出し、スマホにぶっ刺してミュージックプレイヤーを起動しながら教室の外へ。

 この時間は混む生徒用のエレベーターを避け、階段で一階まで降りて外へ続く自動ドアを越えると、始まったばかりであろう部活の音と流している曲に混ざって声が聞こえてきた。


晴久(はるひさ)ー!」


 名前を呼ばれて振り返れば、腐れ縁も腐れ縁、生まれた時から家族ぐるみの付き合いがある幼馴染が大声で俺の名前を連呼しながら走ってきている。


「うるせぇよ雅人(まさと)、聞こえてるから連呼すんな。恥ずかしい」


「イヤホン付けてっから聞こえてないかと思ってな! 何聞いてたんだ?」


FS(ファンタジースリーパー)


「本当、FS好きだな。いっつも聞いてんじゃん。FSもう解散して五年も経つってのに……他のは聞かないよな」


「解散じゃなくて前線を退いただけだ」


「でも新曲とか出して無いし、実質解散じゃね?」


「作曲とか裏で活動はしてるわ!! それに、去年うちの高校の文化祭にゲストとしてだな!」


「あー、はいはい。晴久がエスカレーターでそんまま高校上がった理由の一番はソレだもんな。ワンチャン今年もとか、もう何度聞いたか」


 聞き飽きましたーと両耳を塞いで先を行く雅人の背中が憎たらしい。何も分かっちゃいないな。また試聴会を開いてやらねぇといけないか?

 きっかけなんて些細なもんだ。親父とお袋が好き好んで聞いていたから、自然と俺も好きになっちまった。雅人もすぐにコッチ側に……。

 いや、親父達もアルバム・シングル共にサイン入りで全部持ってたし……血筋なのか?

 関係ないか。関係ないな。だってFSだからな。無理強いはしないけど、雅人もいつかは分かってくれるはずだ。もう分かりきってるかもしれないが、分かってくれるはずだ。


 つまり何が言いたいかと言うと、俺はFSが好きなんだ。


 そして雅人の言う通り、去年の学園祭でサプライズゲストとして来ていたと親父伝いで聞いた時、雅人の誘いを受けて行けば良かったと死ぬほど後悔した。動画を見ただけで満足できるわけでもなく、学園祭に行っていた雅人を恨み倒した記憶は忘れない。


「大体、FS来たなら連絡ぐらいしてくれれば良かっただろ」


「俺は何時まで責められるんだ……本当にサプライズだったから直前まで分からなかったんだよ。俺みたいに一般で来てた人はもちろん、在学生達ですら驚いてたんだぞ。晴久は咄嗟の機転で動画を取った俺を褒めるべきだ」


「それは感謝してる。多分、俺は生涯お前に感謝をし続けるだろう」


「それは重い。もうお礼としてカラオケもボーリングも奢って貰ってっから、逆にこれ以上されるとドン引きに変わるぞ」


「安心しろ親友! 向こう来世ぐらいまでだ」


「だから重いッ!! どうせ俺以外も撮ってたんだから動画でも漁れよ!!」


 そんなこんなでケラケラと笑いながら少し歩けば、下校する者達で溢れる駅に着く。

 改札のパネルに生徒手帳を翳してゲートを越え、乗る予定のモノレールを待っている間は雅人も携帯を弄り始め、俺も少しだけ流している曲の音量を上げる。


 んー、やっぱりいいな。Fantasy Sleeper――中野 理沙さん、九嶋 紗耶香さん、安賀多 縁さんの女性三人のユニットで、三人が二十二歳の時にデビューして、五年前に九嶋さんの結婚を機に表舞台には立たなくなった。

 ジャンルも幅広くて老若男女問わずに人気があっただけに、日本中が悲しんだ……と思う。俺は十歳ながらに悲しんだ。悲しさのあまり給食の牛乳を雅人にあげたぐらいだ。

 しかし去年、高等部の学園祭でまさかのサプライズ登場! 噂によれば、理事長がFSの三人と同級生らしく、何気なしに声を掛けてみたらOKしてくれたとかなんとか。

 あああああ、今年か来年、再来年の三年間ぐらいの間で、もう一度声を掛けてくれ理事長!!


「何してんだ?」


「理事長に祈りを捧げてる」


「ハハッ」


 全てを察した様な目と呆れた声で笑う雅人は、祈りポーズの俺の肩を軽くポンと叩いてから携帯に視線を戻す。俺は俺で、今一度祈りをと目を瞑った所でふと思った。


 にしても、うちの学校の理事長は何者なんだろう。たまにニュースで名前を聞いたりするぐらいで詳しいことは知らないな。

 FSと同級生ってだけでも驚きなのに、たしか今や世界に名を轟かせる人であり、幾多に渡る分野で子会社を持っているとかなんとか。

 加えて小中学校は場所こそ違うが、今通っている高等部と同じ系列で小中高一貫の学校の理事長。んで、通っている高等部は人工島に建設されたビルの一部。そのビルは会社であり、理事長が社長だか会長だかでもある。

 それだけに留まらず、人工島には幾つかの分野の専門施設もあって、高等部からそのままココの専門学生、または高等部卒業後に理事長が経営する会社で雇用される事もあるとかなんとか。

 そもそも人工島の所有者が理事長だという噂や、もはや黙認されている財閥なんて言われ方も。最後にFSと同級生。


「なぁ雅人、俺達の学校の理事長ってどんな人なんだろうな」


「んー? 新道 清次郎理事長なぁ。今も色んなモンに手を広げて、去年の世界時価総額のランキング十位内に入ったらしいじゃん。新道グループ」


「そうなのか。よく知ってるな」


「まぁ~なぁ。ニュースでもやってたし……就職はそのまま面接受けよとか思ってるから、情報はそれなりに。俺の親父が勤めてる研究所のスポンサーってか、大本が新道グループだし」


正輝(まさき)さんとこってそうなんだ。帰ってきてんの?」


「たまーに。今は、海外の地質調査とかでいねぇけど、お袋は店が終わった後によく電話してるわ」


 ポチポチと携帯を弄ったかと思うと、アプリのグループ通話履歴を見せてきた。

 どうやら'江口家'って書かれてるから家族グループっぽいけど、通話時間が三時間前後の履歴が数件と、正樹さんが送ってきた写真。それに対して、雅人の母親――恵美(えみ)さんが返事代わりに送ったであろう写真。


「うちの所も結構仲いい方だとは思うけど、雅人ん所はすんげぇ仲いいよな」


「息子の俺でも苦笑いしかできないレベルでな。この写真も、電話しながら送ってるやつだから」


「グループ通話でか」


「俺は通知ミュートにして途中で寝たけどな」


 雅人は呆れ苦笑いを浮かべているけど、別に嫌そうではない。

 何やかんやで雅人は両親の仲のいい所を見るのが好きなんだろう。その証拠に、履歴を遡ってはふんっと鼻で笑っている。

 素直じゃねぇーな。なんて思いながらそれを横目に見ながら俺も携帯を弄っていると、ふっと向かいのホームに視線が引っ張られ、目が合った。


 同じ様にモノレール待ちをしている人の中に立っているスーツ姿に明るめの蒼い髪の男。


 容姿は男の俺から見ても明らかにイケメンで、浮いてるはずのその髪の色もおかしくなく、芸能人だと言われても納得する。

 でも誰も、誰一人としてその男を見ていない。気にする様子すら無い。あんなに良い意味で目立ちそうにも関わらず、誰にもだ。


「なぁ雅人、青色の髪ってどう思う」


「青? やめとけやめとけ、晴久には似合わねぇ」


「んなこたぁ分かってるわ! 似合ってるヤツ見たらどう思うって話」


「……コスプレ?」


 弄っていた携帯から目を離し、俺が見ている方向を一瞥した雅人は、ニヤニヤとその視線を俺に向けた。

 なるほど、雅人には見えていないのか。


 色々と自分の中で納得した俺は、んなわけねぇだろと雅人に返しつつ、少しだけ'見る'という事を意識する。


 あんな男を見たのは初めてだけど、別に俺だけに見えているというのは珍しくない。なんと言えばいいか、一般的に言えば'霊感'みたいなのが俺にはあるらしい。

 お袋もそういう体質らしくて、初めて変なのが見えると話した時は、遺伝しちまったか……と両親が二人とも困った顔をしていた。


「やっぱか」


「ん?」


「んにゃ、なんでもない」


 漏れてしまった言葉に反応した雅人を誤魔化しながらも、俺はさっきとは少しだけ違う風景で男を確認している。


 日頃は意識しなければ見えず、見ようと意識すれば見えてくる黒い線。

 お袋から、見える事は絶対に内緒にして、見えてもそれは絶対に弄っていいものではなく、触れずに見えたままにしておけと言われている線。


 昔、飼っていたハムスターの黒い線を千切ろうとして、とんでもなく叱られて以来、俺は見えていたとしても触れないというお袋との約束を守っている。だってマジで怖かったんだ……お袋があんなに怒ったのは、後にも先にもアレだけしか記憶がない。

 まぁ、それは置いといて……あの蒼い髪の男には、その黒い線が無い。

 これが意味するのは、あの男は幽霊の類という事だ。


 お袋にお守りとミサンガを渡されたついでに、この視界の調整できる様に教えてくれた時、お袋は黒い線が見えないのはオバケとかだと言っていたし、最初はビビったものの、慣れてきて周りの様子と照らし合わせてそう思うようになった。

 このホームで幽霊とかを見たのは初めてだけど、なんか事故でもあったのかね。成仏してください、南無南無。


「まだ祈ってんの?」


「今度はお経」


「んだそれ」


 隣で笑っている雅人に釣られ、一緒になって笑いながら確認すると……ほらやっぱり居ねぇ。大体いつもこんなもんだ。

 ありもしない自分のお経力(きょうりょく)にほくそ笑みつつ、消えた男の事など記憶のどっかにやって到着したモノレールに雅人と乗る。


「そういや今日はどうするんだ?」


 人工島と本島を繋ぐ専用モノレール。その窓の外で流れる風景を見ていると、雅人が何か取り出して俺に見せながら聞いてきた。

 その手には、ボーリングのワンゲーム無料券。


「仕方ねぇなぁ。コテンパンにしてやんよ」


「一度でも俺に勝ってからその台詞いってくれ」


「今日は本気だぜ。俺のお経力見せてやんよ」


「なんだよそれ。さっきの髪の話は、染めるんじゃなくて、剃るつもりだったのか?」


「それはまだ早い」


---

--


 雅人とのボーリングを終え、ついでにゲーセンで全敗した帰路。

 携帯で'ボーリング 上達法'なんてワードで調べていると、ふと周りの空気がおかしい事に気付いた。


「人が居ない?」


 なんとなく呟いてみたものの、その声は不気味なほどに響く。

 住宅街の裏道といってもまだ時間は七時前。ぽつぽつと人とすれ違ってもおかしくはないし、なんというか……こんなに薄暗いはずはない。

 誰も居ないってのは、やっぱなんかおかしいんじゃねぇかこ――ッ!?


 悪寒がした。

 そして聞こえてきたハッ…ハッ…という吐息が更に鳥肌を立たせる。

 距離感は分からないけど、確実に吐息は近づいてきているのはわかる。


「お、俺は通信空手黒帯だぞこのや……ろう?」


 変態的な吐息の主に対して勇気と、この気持ち悪さを払拭する為に大声で嘘を吐き捨てながら振り返った。

 そうして俺の目に入ってきたのは変質者などではなく、目を血走らせながらボタボタと涎を垂らしながら近付いてくる犬。

 だが犬も犬で、そのサイズは見上げるぐらいにでかい。隣にある一軒家と変わらないぐらいでかい。


「わりぃ。俺、チワワ派なんだ」


 超大型犬の一歩に対して、俺も二歩分素早く下がり――即座に振り返りダッシュした。


「なんだよアレ! 完全に俺を餌としか見てない目してたって! 俺はドッグフードじゃねぇぞ!!」


 誰か居ればいいなと淡い期待を胸に叫びながら全力疾走。

 今なら世界記録更新すらできそうだと思えるほどの全力疾走。


「くそ! どうなってんだよ!」


 チラッと後ろを見れば、一定の距離感をキープしたままの超大型犬。余裕ですよーと言わんばかりにギラッギラの目を輝かせて追ってきている。

 明らかに遊んでやがる。なんか飛び散る涎は、触れた所から煙が上がって溶けてるしよぉ!

 そして俺は気付いてんだからな!


「ハウス! 飼い主の所にもどれ!」


 その首輪によぉ!


「飼い主さ―ん! ご立派な犬が! 犬がぁぁ!! うぉっ!」


 ついに犬がパンチかましてきやがった! わざとハズたみたいだけど、コンクリート砕くとか洒落になってないって!

 ってかマジで誰も居ねぇ! 誰も出てこねぇ! や、やばい。そろそろ体力がやばい。肺が痛い。


「ハァ……ハァ……よ、よーし。とりあえず話をしよう」


 走って走っていくら走っても犬は俺を追いかけてきて、結局俺の体力が先に限界を迎えてしまった。

 それでもなんとか知ってる公園にはたどり着き、俺は僅かな希望に賭けて犬との対話を試みようとした……が、返事の代わりに、目の前の犬は涎を撒き散らしながら飛びかかってきた。


「ハハッ、死ぬわコレ」


 鋭利な爪。

 頑丈そうな牙。

 なんか溶かす涎。


 心音はうるさいまま。映る全部がスローに見えて、自分を殺すのがどれかまでしっかりと分かりそう。

 それだけでも死を悟るってのに、無意識に意識してしまったのか、千切れかかっている自分の黒い線が拍車を掛けて自分の死を確信させる。


 死にたくねぇ……何が何だか分からないまま、分かったとしても死にたくねぇよ!

 お袋が言っていた。この黒い線は生き死に関わることだって。俺も何となくそれは理解してる。だったら……だったらこいつを何とかすれば!


「死ぬよりかお袋の説教の方がマシだッ!!」


 俺は初めてソレにしっかり触れた。千切れない様にガッチリと鷲掴みにした――瞬間、体から何かが吸い取られていく感覚に襲われる。


「お、おい、これ、本当に死なないよな」


 死にたくないから離したくないけど、なんか犬とは別のヤバさを感じて少し力をゆるめようと思ったのに、全然力が抜けない。

 体の中からは何かが吸い取られていくのに、足腰の力は抜けていくのに、黒い線を掴んでる手だけ力が抜けない。言うことをきかない。


「ちょ、マジで、やばい」


 掴んでる手以外の力が抜けて後ろに尻もちをついたおかげか、犬の攻撃は目の前に振り下ろされるだけで当たりはしなかった。砕けて飛んできた地面が頬を通過して切れたけど、撒き散らされてる涎は不思議と俺に掛かる事はなかった。

 でも、これ、次の攻撃避けられなくね? いや、それより……なんか……意識が――。


「おや? これはこれは……」


 俺でも犬でもない声。

 薄れていく意識の中で最後に見たのは、スーツ姿の蒼い髪の男だった。

もしかしたらタイトルが途中で変わるかもしれません。

前作をお読みいただかなくても問題はないように書きたいと思っていますが、前作の人物を登場させる予定は多々あります。

ご感想等々の返信は、必ずしもするとは限らないのでご理解ください。



キーワードとかどうしましょうかね。




まだまだ拙い所はありますが、お付き合い頂ければ嬉しいです。

どうぞこれからよろしくおねがいします。

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