五話
「正倉さんの車は?」
「えっと……この裏通りに入る前の所で、車を待機しているらしいわ」
あの後、部屋の料金を払い、未だ、香水と何やら危ない匂いのする裏通りへとまた顔を出した。瑛太の顔が歪んだ。
「……うげぇ、やっぱこの匂い嫌い……強すぎ」
「急ぎましょう……その、香水は使わない方がいい?」
「その方が嬉しい、俺は君の自然の匂いだって好きだよ」
「……もう、なんかえっち」
と、少し頬を赤らめさせ、少し早歩きになる美麗。次の瞬間には、瑛太の腕の中にいた。
「……瑛太?」
「…………ヤンキーか、追っ手か……まぁ俺たちにとって招かれざる客であることは確かだな」
美麗が、瑛太が睨んでいる方向へチラッ、と視線を向けると、ガラが悪く、やけにチャラチャラとした金属類を身につけている五人の男がいた。
「おい、兄ちゃん。女置いてきな」
「…………ほう?」
瑛太のこめかみに青筋ができた。
「男には要はねぇよ。女だけ―――――カハッ!」
男五人が反応する暇もなく、喋っていたリーダー格と思わしき男の顎を掌底で撃ち抜き、脳震盪を起こして気絶させる。
「……殺していいか?」
「ダメよ、半殺しになさい」
先程、瑛太がやったのは、古武術で、縮地と呼ばれる移動法である。
予備動作が小さく、相手の意識よりもワンテンポだけ早く移動できる縮地法は、極めれば、相手の意識の隙さえも付き、スピードが出ていれば、一瞬で目の前にいるという錯覚さえ作り出せる術である。
「半殺しね………まぁいい。ウチの姫様のご要望だからな」
一瞬のうちにリーダーがやられた四人は、瑛太を見てただただ震えるのみ。
「せいぜい――――苦しんでから逝け」
裏通りに、四人の悲鳴が響いた。
パンパン!と手をはたき、後ろで美麗がパチパチと拍手をする。
「流石ね瑛太。私の最強のガーディアン」
「当然。これは、君を守るためだけにあるのだから」
西条家から叩き込まれた古武術、空手、柔道、合気道エトセトラエトセトラ。瑛太は西条家の優秀なSP20人で囲まないと勝てないくらいの強さである。
「さ、行きましょう。正倉さんが待っているわ」
「あぁ」
また絡まれてはさらに時間ロスなので、駆け足で合流場所まで行く。裏通りを抜けると、クラクションが二回ほど聞こえるので、目線を向けたら、普通車があった。
「正倉さんよ。急いで乗り込みましょう」
美麗は、瑛太の手を引いて車へ乗り込んだ。
「お久しぶりですね、西条さん」
「えぇ、久しぶり、そして急な頼み事してごめんなさい」
「大丈夫ですよ。あなたの頼みですから」
正倉有香。齢27歳で、日本でも最高級なホテルにまでのしあげたホテルマサクラのオーナーである。
できるキャリアウーマンと言った見た目で、スーツをきっちりと着こなしている。
「そして、あなたが瑛太くんね。話はよく美麗さんから聞いているわ」
「……初めまして、柳原瑛太です」
「えぇ初めまして。それじゃあ二人とも、出発するから、頭隠してなさい」
そして、二人は最初の目標をクリアし、無事にホテルマサクラに到着するのであった。
この作品はフィクションです。実際の人物、また団体は一切関係ありません。
縮地についても、色々と動画を見て参考にしましたが、極めた後は全て妄想です。