三話
「………ふぅ」
ホテルに入り、部屋を取ってからベッドに寝転がって一息つく瑛太。美麗はシャワーを浴びに行っている。
(………そういや、父さん達から受け取った通帳、まだ見てないな)
ポケットに入れていた、『頑張れ!』と書かれた紙と通帳。開くと、そこには思わず瑛太は目を見張らせた。
「んなっ!?」
そこには、一般家庭が到底用意できないような金額であった。無論、こんな額は瑛太の両親が一生働いても稼げる額ではない。
(………父さんたちには絶対に無理だ……となると、勝さん達も一つ噛んでるな?これ……)
西条勝。美麗の父であり、次代の西条グループ頭領である。
(……となると、敵は五右衛門爺さんのみか……まぁそれでもやばい事には変わりないが……まぁ、勝さん達が敵でないことに喜ぶか)
「瑛太ー。髪梳かしてー」
シャワーを浴びてきた美麗が、バスタオルを一枚だけ羽織った姿で出てくる。美麗の完璧なプロポーションに、この世の男は誰しも目を奪われると思うが、瑛太は別に慣れているので、そんなウブな反応はしない。
「はいはい………後、今日はしないから終わったら服着ろよ」
「あら、残念」
とか言いつつも、全く残念そうには見えない。鼻歌を歌いながら美麗はベッドに座り、瑛太はドライヤーを手に取った。
「それで、これからの予定は?」
ブオオオオとドライヤーの音を立てながら作戦会議を始める。
「一応、シャワーを浴びながら色々考えたわ。でも、ちょっとだけ待ってね」
と、美麗はスマホを手に取った。
「……まさか、社交界で創ったコネクションがこんな形で役に立つなんてね……」
美麗は、西条グループの孫である。もちろん、今まで社交界に出たことはあるし、いずれ西条グループを継ぐものとして、美麗だけのコネクションだってある。
まぁ、駆け落ちしているので、このコネクションもいずれは無くなるのだろうが。
「もしもし、私なのだけれどーーーー」
瑛太は、ドライヤーを弱くした。
そして、美麗は三回ほど電話をした後にスマホをスリープモードにした。
「……どうだった?」
「えぇ、とりあえず全部一回で納得してくれて助かったわ」
美麗が立てた作戦。それは、まず第1段階に、ホテルマサクラのオーナーが、この辺まで車を用意してくれるので、その車へのってから、ホテルの部屋を二日間借り(お金はもちろん払う)、その二日でバイクを用意してくれる(お金はもちろん払う)ので、それに乗って神奈川の方へ行き、またホテルで三日間滞在した後、飛行機に乗ってその後に田舎のマンションで一生を過ごすという作戦だった。
「これが上手くいくかは分からないのだけれど、とりあえずこれが私の考えられる最善よ」
「なるほどね……はい、終わったぞ」
「ありがとう瑛太」
ちゅ、と瑛太の頬にキスを落としてから脱衣所の方へ向かう美麗。瑛太はキスされたところを二回ほど撫でてから、鼓動が早くなった心臓を落ち着けるために、ウロウロと部屋をさまよった。