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1話

「それで美麗、逃げるのはいいけど、いつからだ?」


「今日よ」


「ん?」


「今日よ」


 ぱちぱち、と瑛太は2回ほど瞬きをしてから、言葉を飲み込んだ。


「…うん、分かった、今日ね」


「えぇ、待ち合わせは今夜の11時、いつもの―――――私たちが初めて出会った公園よ」


 瑛太は、美麗の瞳を見て、しっかりと頷き返した。


 その後、二人は手を繋ぎながら帰路へ着く。いつもの別れの十字路へ差し掛かると、美麗は瑛太の手を離し、その場でくるりと回転し、瑛太を見た。


「それじゃあ………またね」


「あぁ、また夜に―――んっ」


 美麗は、瑛太にスっ、と近づくと、唇に軽く触れ合わせるだけのキスをし、顔を真っ赤にしてからタタタッと駆けていった。


(………ほんと、なんであんなに可愛いのだろうか)


 既に何回もしたというキス。ただし、未だに慣れる気がしない。





(………さて)


 瑛太は、ドアをゆっくりと開け、自室からそーっと顔を覗かせる。瑛太の今の格好は、季節が季節なので、もこもこのジャンパーを着ている。


 そして、彼が背中に背負っているリュックサックの中には、パーカーやらズボンやら着替えのセットや、充電器、サイフ、通帳やモバイルバッテリーなど、必要最低限とはいえ、かなりの量になってしまった。


(………バレないよう物音をなるべく立てないように………)


 抜き足差し足忍び足……と、心中で呟きながら、しっかりと腰を落としゆっくりと歩いていく。


 両親の部屋の前はより一層の用心を持って部屋の前を通る。


「………………ふぅ」


 部屋の前を通り過ぎたら、自然と息が出た。


(………よし、この調子で、ゆっくりと階段も降りて……)


 1段、2段、と降りていき、途中でちょっとしくじってしまい、ギシッ、と少し音がしてしまった。


(やべっ……!)


 瑛太の両親は毎日10時にはベッドに入る人で、まだ運が悪ければまだ眠りが浅い時間である。


 両親にこんな厚手のジャンパーと、大きめのリュックを背負っている姿なんて見られたら、1発で怪しまれ色々な説明をする羽目になるだろう。


(……………ふぅ、どうやら大丈夫のようだ)


 しばらく待っても、両親の部屋からは物音1つだってしない。


 ホッ、と胸をなで下ろし、先程よりも3倍の慎重さで階段を降りていく。


 そして、無事に階段を降りて、玄関へ行く。電気をつける訳には行かないので、スマホを取り出してライトをつけた。


(………ん?)


 ライトで床を照らすと、何やら床に置いてあった。


(……なんだこれ……紙と……通帳?)


 しゃがみこんで座るとそれは紙で、その紙を持つと、その下から通帳が現れた。


 そして、その紙には一言だけ。


『頑張れ!!by両親』


(…………あれまー)


 スっ、と目線を階段へ向けると、ドタドタ!と何やら急ぐ物音がした。


(………まぁそうだよな……うん、この婚約について西条家から何かしらの報告が両親にあってもおかしくはないよな)


 それもあるが、単純に少しだけ瑛太の様子がおかしかったこともある。夕食中も、どことなく無言だったり、無意識のうちに何やら落ち着きがないように振舞っていたからである。


(……ありがとう、父さん、母さん)


「………行ってきます」


 幻聴で、両親の『行ってらっしゃい』が聞こえたような気がした。


 現在時刻は10時40分。美麗との約束の公園まで、大体歩いて10分くらい。


(………少し早くつくな……まぁいいけど)









 公園に着いた。キョロキョロと、美麗の姿を探しては見るが、まだ美麗の姿は見当たらない。


(……この公園も懐かしいな)


 最後に来たのはいつだっけか……と思いながら、この公園で幻視するのは、瑛太と美麗が初めて光景だ。


(……本当に懐かしい)


 当時、どちらも2歳であり、泣いていた美麗をこの公園で見つけたのが、今の付き合いの始まりだった。


『うぇぇぇぇん!!おかぁぁさぁぁん!!』


『だ、だいじょうぶ?』


(……あそこで、ペタンと座っていた美麗がいて、母さんと必死に泣き止ませたっけな)


 その後、慌てた様子の美麗の母親が来て……そこから、瑛太と美麗の付き合いは始まったのだ。


「瑛太っ!」


「!」


 回想から無理やり引き上げる声が聞こえる。チラッ、と視線を向けると、はぁ、はぁと息を切らしながらやってくる美麗がいた。


「瑛太!」


「うおっ……と」


 勢いよく飛び込んできた美麗を一回転してからきちんと受け止める。そのまま美麗は、ぎうー!と瑛太を抱きしめ、胸の辺りで顔をすりすりと擦り付けてきた。


「瑛太……凄く会いたかったわ……」


 そして、瑛太を上目遣いで見つけた後、スっ、と美麗がつま先立ちになり、瑛太の唇を奪った。


「んっ………」


 別れた時の触れ合うキスではなく、しっかりとしたキス。


「……どうしたんだ?美麗」


「……お爺様が勝手に決めた婚約者が家に来てたのよ……私を下卑た目線で見てきて……ほんっとうに気持ち悪かったわ」


「………ほう?」


 とりあえず、そいつは暗殺することを瑛太は決めた。



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