九話
この物語はフィクションです。大村は実際に長崎にありますが、海川町とか葉瑠璃町はありません。大村湾はあります。
『まもなく、大村。大村へ着陸します。シートベルトをしっかりと締めてください』
神奈川から、空の旅約一時間半。空の旅も終わりいよいよ、今回の駆け落ちの一応の終着点が見えてきた。
「美麗……美麗、起きて」
「んっ……」
瑛太の腕に抱きつきながら寝ている美麗を起こす瑛太。二、三度声をかけると、美麗の瞼が少し動き、ゆっくりと開いた。
「んん……えいたぁ……」
しかし、寝ぼけているのか、そのままするすると首にまで抱きついてくる美麗。首元をスンスン匂いを嗅がれ、甘え始めた。
「………てい」
「むきゅ」
寝ぼけている美麗の頭に少し強めにチョップを食らわせると、トロンとしていた目が、次第に元へ戻って行った。
「………あら、ごめんなさい瑛太。ちょっと寝ぼけていたわ……」
「いや、別に大丈夫だ」
めちゃくちゃ可愛かったし、という思いは、瑛太の心の中に閉まっておいた。
飛行機が着陸し、ベルトコンベアーで荷物が流れてくるので、そこで荷物を受け取り、空港から出ているバスへそのまま流れるように乗った。
このまま、約50分くらい北上し、海川町という所のバスセンターで降り、そこから目的の山に囲まれた町―――――葉瑠璃町が、最終目的地である。
「空気が美味しいわね……東京とは全く違うわ」
バスに揺られ、50分。海川町へと辿り着いた。バスセンターの目の前には、大村湾が広がっており、海風を気持ちよく感じられる。
「次のバスは1時間後……東京と比べてそんなに数もないのな」
一時間に一本。時間帯ではない時間もある。
「あ、じゃあ早めのお昼ご飯にしましょう?私、食べ歩きとか憧れてたの!」
「お嬢様だったもんな……色々抑圧されてたものが爆発してるな……」
「あら、近くにセブ〇イレブンがあるわ!行きましょう!」
と、瑛太と手を繋ぎ、ふんふんと上機嫌で鼻歌を歌いながら歩いていく。
「おい、急いでもセブ〇イレブンは逃げないって……」
「商品はなくなるのよ!瑛太!」
その後、無事に美麗は揚げ物や、おにぎりなどを入手し、バスに乗って葉瑠璃町へと移動をしたのであった。
葉瑠璃町。周囲を山に囲まれ、町の中心には大村湾へと注がれている葉瑠璃川が流れている。
稀に見る程のド田舎であり、栄えてるところは栄えているが、ゲームセンターや、ファストフード店などは設置されていない町である。
「………へー、この町って焼き物が有名なのか………へぇ、全国シェア90パーセント?すごいな」
バスセンターで貰ったガイドブックを片手に瑛太は関心の声をあげた。毎年五月に行われる炎の焼き物祭りは、外国からも観光客が来るほどの有名な祭りである。
「……あ、瑛太次よ」
「ん、了解」
ピンポーン、とボタンを押すと『次、止まります』のアナウンスが流れ、バスが止まったので降りた。
「さて、こっちよ瑛太!私たちの愛の巣はすぐそこよ!」
「分かったから、あんまり大声でそんなこと言うなって………」




