ドラゴン討伐のとき
自分の過去作史上、一番ブクマがつかない作品かもしれない(苦笑)
あれから俺は先の尖った杭を作って黒化したり、岩を黒化させて浮かばせたりした
伝説の武具ではなく、俺の竜退治の準備は杭と岩だ
「こんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。悪魔からしたら竜なんてただの大きくてちょっと硬いだけの蜥蜴だからね」
町一つを潰すこともある竜が蜥蜴ね……なんか可哀想になるな
「さあさあ、そろそろ竜が居る麓の洞窟に着く頃だよ」
「山の頂上とかに住んでるわけじゃないのな」
「考えてみなよ。寒くて何もない頂上よりご飯が近くて快適な麓の方が住みやすいでしょ」
実際の竜が住むところは前世であったような、溶岩地帯とか雷が雨のように降る山頂とか、イメージの通りではないわけだな
景色の中にポッカリと開いた穴のように奥が見えない巨大な穴が見えてきた。これが竜の家の玄関ってわけだな、穴の大きさだけなら縦幅百メートルほどか
「レッツ、冒険だね。早く中に行こう!」
洞窟の中は涼しくて快適だな。周りは人骨だったり謎の生物の骨があちこちに落ちていて不気味な感じではあるけど……
洞窟とは奥に行けば行くほど、暗くなっていく筈だが、悪魔憑きは視界も強化されるのか外の明るさと全く変わらない
「大したことない、なまくらばかりだけど黒化して持って行こうか。木よりは鉄のほうが良いしね」
「そうだな、木の杭や岩よりは安心感がある」
長いこと放置されていたのか武具は刃が欠けていたり、柄が腐食して無かったりしていたが浮かせて硬化させるので問題はない
ふと、生臭い風が髪を撫でる。一体どこから風なんか吹いてくるんだ?
「みてみてあの先にある大きな空間で大きな蜥蜴ちゃんがお昼寝してるよ」
「馬鹿! 声がデカい。ゆっくり静かに近づいて奇襲するからな」
壁にぶつかると困るから杭や岩は地面に置いて、剣だけを背後に隠してゆっくり音を立てないように慎重に進むと、目をつむり気持ちよさそうに寝息をたてる竜が俺にも見えてきた。呼吸するたびに鋭い牙が生える口からチロチロと火が出ている
体は頑丈そうな鱗で覆われ、周りにはかつて挑んだであろう勇者たちの遺品とキラキラと輝く宝物がうず高く積まれて山となっている
「……母さんを救うためだ。俺はやってやるぞ! 行くぞクロロ」
おっと、クロロシフルが居ない? って! あいつなんで竜の顔の側に立ってるの。手には剣があってそれを瞼に向かって……
ーー叩きつけたぁぁぁぁ!
「ーーグギァァアオーン」
滅茶苦茶お怒りなんですけど! もう血走った目であたりを見回して犯人探してるし。しかも、犯人のクロロシフルが消えてるんですけど!?
(僕の相棒には卑怯な戦いはして欲しくないからね! 僕は実体化を解いて応援しているから頑張ってね)
サムズアップしてるイメージがしてむかつく……あれ? 竜さんがこっちをガン見してない? これ気づいてない?
「キサマがワガ眠りを妨げたのか矮小なるモノよ」
「僕ね迷子になった唯の子供だから分かんない」
こうなったら、幼気な子供のふりをしてやり過ごすしかないこんな山みたいな化け物と正面から戦えるわけがない
「フム、そうかならば死ね!」
なんで! なんで! おかしいだろ。くそったれならやってやるよ
「ーー黒き杭よ突き刺され!」
地面に置いてきた杭がシャキーンと浮かび上がるとミサイルのように竜に向かってゆく
「この程度の攻撃では我が鱗の鎧を貫く事はできんぞ、小僧」
竜が腕を振りかぶり杭を叩き落とそうとする。
ーーズブリ! 杭は鱗に阻まれることなく腕にしっかりと突き刺さった……嘘でしょ? そこらの森で拾った枝で作った杭だよ
「アァァァアアー、おのれ! 許さんぞ、黒焦げにしてくれよう」
竜が大きく息を吸い込むと、喉元がカエルのように膨らみ伸びて薄くなった皮は赤く光っている
ーーブレスが来る!
炎の奔流が竜の口から俺に吐き出される。岩陰に身を隠そうとおそらく高温で岩もろとも溶かされてしまう。俺はどうしようも出来ないまま身を守ろうと反射的に腕を前に突き出した
「ーー全然熱くないぞ! それに炎が黒く変化してる」
手から出た黒いモヤが急速にブレスの炎を侵食していくとブレスが俺の周りに浮く
「ーーキサマは何なのだ! ま、まさかその力悪魔憑きなのか」
(矮小な蜥蜴ごときに奇襲する必要なんてないんだよ。この世の最強種族の僕の力があればね。あっ、そうだ! ユーちゃんに僕の魔奥義を教えてあげなくちゃね)
(はい両手を地面につけて、ユーちゃんは魔奥義・《黒よ世界を喰らえ》って言ってね)
「ーー魔奥義・《黒よ世界を喰らえ》」
地面についた俺の手から黒い影が竜どころか洞窟全体を覆ってゆく、そして黒いもやを纏う手がいくつもまるでイソギンチャクのように出てくる
その黒き手が、洞窟の壁に触れると塵のように細かくなりサラサラと崩れる……そのまま手は竜の羽や頭にも迫っていく
「やめろ! 我が喰われていく。これは体だけではない魂すら奪おうというのかぁぁぁぁぁぁぁぁ」
圧倒的すぎる。これがクロロシフルの力、本来俺のものではない借り物の力……俺は使いこなせるのか? それとも呑み込まれて自分が自分で無くなってしまうかも知れない
「はい、ストップ。全部喰らったら目的の石までなくなるよ」
実体化したクロロシフルが、俺の肩を叩くと辺りに充満していた黒は消えて胴体以外が喰われた竜の死体が残る。洞窟は侵食されて天井には光が差し込む
「こんな光景を生み出す僕の力が怖くなった? 自分が力に溺れそうで心配?」
「あぁ、怖いよ。努力しないで手に入れた借り物だからな」
黒いモヤがかかったクロロシフルの顔が優しく微笑む。悪魔にしてはあまりにも慈愛に満ちた表情だ
「君は100年ぽっち僕の力をこの世で振るう対価に死んだ後は永久に僕のものだ。君は大きな犠牲を死後に払うことになるから、そんな小さなこと気にすることないのに。でも大いに悩み苦しんだ君の魂は熟成されてさらに美しいかも……やっぱり苦悩したまえ」
「心配してくれはしないのな、先のことは未来の俺に考えてもらおう。今を生きる俺は母さんを救うことだけを考えよう」
ーーテッテレ〜、ユーティリアは竜血晶を手に入れた!
最後まで読んで頂きありがとうございました。面白い作品を作れるように頑張ります。