始まりとき3
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俺の住んでる村の近くでナシハラ家とイズク家という貴族家が合戦をすることになったらしい。俺の父さんは村の開拓の際に恩義があるナシハラ家の与力として戦に参加することが決まった。
「父さん、無事に帰ってくるよね?」
「当たり前だろ。手柄を上げてたんまり褒美をもらってきてやるから楽しみにしてろよ」
筋肉モンスターの父さんが一般兵にやられることはないと思っているが、貴族が出てくるということは悪魔憑きと遭遇するかもしれない
悪魔憑きの身体能力は、下級悪魔で成人男性の2倍、中級悪魔で8倍、上級悪魔で32倍ほどだと言われている
「あなたご武運を」
母さんがそっと何か布のようなものを父さんに渡す
「このお守りが俺を守ってくれるさ。ユー、父さんの代わりにお前が母さんを守るんだぞ」
父さんがお守りに軽く口づけをすると母さんの顔がリンゴのように真っ赤になる。何でだろうか? まぁ、どうでも良いな
「はい父さん! 僕が母さんを守ってみせます」
(子供に何ができるのかなぁ? 僕の力が必要になるんじゃないのかな)
またお前か、戦場が近いと言えどもこんな森に囲まれたような小さな村にお前の力が必要なことがあるかよ。いい加減諦めることをオススメするぞ
(僕の契約童貞はユーちゃんで卒業するって決めたから悪いね)
「ーーでは、出陣する! 行くぞお前たち」
「ーーオー、オー」
父さんがリーダーを務める村の男たちの集団がナシハラ領に向けて出発する。村に残る男衆は子供かジジイだけだがゴブリン程度の魔物だったら撃退は難しくない
俺はこの時、父さんのお土産はどんな物を買ってきてくれるかなとか楽天的なことばかり考えていた。幸せが壊れるのは突然なのに……
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「ーーうぉぉぉぉぉ! その首置いていけ」
俺は自慢のバスターソードで、敵の首を切り捨てる。やはり悪魔つきが出てこなければ自分に勝てる奴はいないとダナムは確信する
「こいつ、強すぎる。まさか悪魔憑きじゃないのか!」
「ヒィィー。逃げよう」
残念ながら、そんな大したものじゃないけどな
「ダナム流石の腕だな」
「そうねお兄様。あんた平民にしてはやるじゃない! 褒めてあげる」
本物の悪魔憑きであるナシハラ家当主であるギルバート様とその妹君であるフィーネ様だ。息子のユーティリアと歳が2歳しか変わらぬフィーネ様が戦場にいることには思うところがあるが、それが貴族なのだろう
「ありがとうございます」
「そろそろ、イズク家の悪魔憑きが出てくるだろうが悪魔の格は同じ中級。ならば、下級悪魔相当の腕を持つお前がいる我々が優勢だろう」
敵軍の奥の方から、高そうな鎧を纏った男と、戦場には似つかわしくない軽装の顔色の悪い男が現れる。よく見ると服の素材は極めて高品質なようで、おそらく貴族だろう
「ーーなぜ、磁鉄球のイェルマークほどの大物がこの戦場にいるのだコンラート! 貴様は同じ国の上級悪魔憑きは戦ってはならんと知った上での暴挙か」
高そうな鎧の男がニヤニヤ笑いながら、得意げに語り出す
「あなた達は残らず死ぬのです。ならば誰が王にこの事を報告するのですかな? イェルマーク殿は10年前に逃げた大貴族の女を追っているようでしてな、呪詛による追跡でご協力させて頂きましたらお礼にと……」
「コンラート殿、おしゃべりはそこまでにしてもらおう。俺は女を殺す依頼を公爵家から受けている我が一族のためにもギルバート殿には死んでもらう」
あいつが言ってるのはマルティナのことだ。何で今更、10年も大丈夫だったのに
「くっ、妹だけは逃さねば。ダナム!」
「悪いね俺にもコイツらから絶対に逃げれない理由ができちまった。おいお前らフィーネ様を村を経由して居城までお助けしろ。そんで村の奴らも連れて何とか逃げろ」
「わっ、分かった」
「いや! お兄様」
村の仲間と一部の兵士によってお嬢様が連れていかれる
あいつらに無茶を言ったが、マルティナ達さえ逃げ延びてくれればそれでいい。お貴族様には悪いが他のことはどうでもいい
「逃すと思うか? 全員すぐに殺してやる。《磁鉄の悪魔》」
イェルマークの眉間からメリメリとツノが生えてきて、体の周りに10個の鉄球が回転し始める。これが噂の上級悪魔にのみが使える魔装と固有能力だろう
ギルバート様はイズク家のコンラートと戦い始めている。一般兵士が上級相手とか逆に笑えてくるな
相手の鉄球がこちらに向かって勢いよく飛んでくるので、バスターソードの刀身で防御する
「意外と威力がないな。今度はこっちの攻撃を受けてみろよ」
「残念だが、お前はもう俺に攻撃できない」
振りかぶったバスターソードが後ろから強い力で引っ張られる。どんなに力を込めても剣は動かない
「俺の鉄球に触れたものは全て磁石と化す、お前は一般兵としては大したものだ。しかし、世の中は残酷なもので才能なんて悪魔と契約できれば簡単にゴミと化す。持たざる者は何も成せない」
鉄球が俺の背を打ち、膝をついてしまう。そして俺の骨が砕かれ肉がはじけ飛ぶのを感じる
「さて、ギルバート殿と他の兵士にも退場いただこう《魔奥義・打ち出される磁鉄砲》」
「おのれ! ぐばっはぁ」
地面から鉄球の周りに砂鉄が集まり巨大な球体ができるとそれが全て大地を抉りながら我々の軍の方へはじき出される。
それにより、ギルバート様と戦場に残っていた兵士達がミンチになる
中級悪魔と上級悪魔でさえあの力量差、俺は頑張ったよな? もう限界……だなんて言えるはずがねぇ
ーーあの鎧の方をやれれば、村の場所はバレねえかもしれない。俺はそれにかける。バスターソドではなく懐から短刀を取りだし突き刺す
「ーーぎゃああ!貴様よくも手がぁっぁ」
最後にヘマをしちまった。首を狙ったのに手で防がれちまった……これも悪魔憑きとただの人の差ってやつかね
「このクソ。死ね死ね」
コンラートがダナムの体を何度も踏みつける
「やめろ、もう死んでいる。貴殿の望みは叶えた。今度は私の番だ」
「はい、イェルマーク殿。逃げた奴ら、他の村人達も纏めて貴様と同じところに送ってやる腕の礼にな」
ーー村に厄災が迫る……
最後まで読んで頂きありがとうございました。雑草はまだまだ枯れずに頑張っていきます(°▽°)