親愛なる寄生者へ
それなりの貴族の家に生まれた次男がケイオスだった。
しかし、貴族とはいえ領地の民から税を巻き上げる…ような権限はケイオスの親の親の…
まあ、端的に言えばかなり昔から無くなっていた。
とはいえ築かれたコネクションと貴族たる教育レベルの高さから暮らしに困ることは無い…
そんな…庶民と貴族の間に漂っていたのが『ガドルワール家』だった。
問題はケイオスが『次男』であったことから始まった。
彼の兄は突発的に生まれた『魔術の才能』を持つ人間だったのだ。
異界の者、高等な存在、奇怪な現象に罪深い…或いは純新無垢な心…
魔術の才能とは…そんな物と触れ合い、或いは成る事で育まれ、それが血として濃くなり薄くなり繋がってきた。
つまり最強無比、超越独自な魔術師の子はそれに比肩する魔術師であり、その孫もそうであり…いつしかその血筋は魔術の大家として存在感を強めていくのだ。
そんな魔術の常識を破壊するのが突発的に生まれる『魔術の才能』だ。
すなわち天才。血によって恵まれ物ではなく、世界がその個人を祝福した証明。
ケイオスは生まれたその瞬間から『出来損ない』だったのだ。
なぜなら世界は彼を祝福しては『くれなかった』からだ。
ガドルワール家に魔術の才能は無い。だが魔術の才能を持つ長男が居た。
だがしばらくしてガドルワール家に残ったのは魔術の才能を持たない次男だけであった……。
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(ふん。まだこの遊びを続けるのか?。ふざけた死に様を晒すのは我が飽きてからにしてくれ。)
「…黙れ………。」
「は?、俺何も言ってないんだけど?。」
多数の礫に打たれたケイオスは全身から血を流していた。
ケイオスは魔術師の最高峰であることを証明する称号…賢者と呼ばれている。
だが…人並み外れた者ですら差があった。
ケイオスは大きく劣っていた。
血によって獲得した才能を…
孤独と時間と…もしかしたら世界からも祝福を受けたかもしれないケンラに。
そんな事はケイオスも分かっていた。
それをウザったらしく声が呟く。
(哀れなやつだな。我は魔術の神ではないぞ?。貴様は神から祝福を受けたつもりかもしれん…だがな、お前の力は惨めにひれ伏して得た力だ。相対する者とは違う。)
低く、ガサツいた…それでも鮮明に頭の中で響く声に…己ですら分かっている差を言われた。
(所詮…お前は獣だ。生きる事と己を満たすことしか考えていないし考えない。だから我にひれ伏した。お前が紹介してきた奴らはその点では実に従順だった。)
祝福されなかった次男…ケイオスを祝福した声は…当人の意思に反してつらつらと彼が劣っている事を述べる。
ケイオスの心を揺さぶり、己は賢き者であるとゆう傲慢を容赦なく傷つける。
…だがその声は案外ケイオスの事を気に入っていた。
惨めで…それでも力を手にした瞬間我が物顔でふんぞり返り始めたケイオスを観るのが楽しくて仕方なかったのだ。
その喜劇が今や惨めなBADEND目前だ。
それがいきなり訪れて居たなら腹がねじ切れるほど笑っただろう。
(ほら、勝ちたいのだろう?。ワガママなお前の為に少しアレンジして力をくれてやる。…勿論受け取るだろ?。)
こんなつまらない結果は笑えない。退屈そのものだ。
もう一波乱…起こしてもらわねば。
「……おい、ケイオス。お前から気味悪いオーラが溢れているんだが…。」
「黙れ…。私だって最高に気分が悪いんだ。」
その数秒後…ケイオスは変異した。
オオカミと人を…丁寧に融合したかのような姿に。
連れの兵士のようなただ発達させ続けた姿とは違う。
鍛えた事など無い細い四肢が…
やはり筋肉質に…それでいて細さは維持されている。
顔は丁度上顎から上が精巧な狼の被り物をしているかのように変異している。
「おい、犬なのか人なのかしっかりしろよ…本当にこの国はろくな事がっ、」
「猟皇権限・高度制限………。」
宙に浮いていたケンラ。
しかし、ケイオスの一言で魔術が効力を失い…地に堕ちる。
それなりの高さからの落下だが身体強化との並行発動だったので難なく着地を取る。
「おっと……。なんだそりゃ?。」
魔術とは前置符と詠唱符によって構成される。
起動、励起、召喚、続唱この4つは魔術であれば必ず口にする言葉だ。
しかし、それを言わずして魔力を使用する例が無い訳では無い。
(例えばおじいちゃんが放った攻勢魔術。あの威力の魔術を猟銃の引き金を引くだけで発動させていた…。)
「目障りな羽虫を叩き落としただけだ。今から生物の『飛翔』に関して制限を設ける。」
「………へー。」
もし…、ケイオスの言っていることが本当なら一大事だ。
俺の魔力飛翔は壁によって飛べなくなった訳では無い。魔力も十分所か発動はしっかりとしている。
しかし、上方向へ力を発言させる事が出来ない。
妨害術式でも無ければ無力化の術式でもない。
ただただ『飛べない』のだ。
(いや、…本当に一大事だな。前例が無い。仕組みも分からない。)
「高次元に存在する者はぁ、己より遥かに低次元な者に常を課すことが出来るぅ!!。わかったかぁ?恵まれし者よ。……ワンッ!!」
声がした。
……狼から。
いつの間にかケイオスの傍に血で染めたような汚い赤の狼が居た。
「私わぁ。お前らで言う所のぉ……『夜刻の2』………『ガァルゴォード』と言う!!。………ワンッ!!。」
夜刻の2…。猟皇権限……。
………はぁ…………、
「まぁーーーた…………。お前らか……。暇なの?次から次えと面倒臭いことばっかりしやがって!!!。」
また…夜刻のクソども絡みか!!。
もう勘弁してくれ……俺の仕事はいつもコイツら絡みでもはや常連だ。
俺に力が有れば消してやりたい……思えばハードワークの疲れから解放される為に異世界に行ったのに……
(結局こっちでこいつらの相手かよ!!!。)
「お前らは何が楽しくて人間に関わってくる?。俺からしたら邪魔で仕方が無いんだが。」
「無限に生きるのは退屈なんだよぉ。面白そうな奴を育てるのもぉ、そいつで強そうな奴を倒すのもぉ…めちゃくちゃ面白い!!!。…ワンッ!!。」
あの狼が本当に『夜刻の2』かは分からない。しかし、今目の前で起きていること全てが信じる証拠として十分すぎる。
「とゆうことでぇ………。ケイオス、こいつを殺せ。」
抜けた印象の喋り方から一変。さながら猟皇にふさわしい…冷たく、厳かに…狼の見た目通りの秀逸な狩人としての威厳を纏った言葉で言い放った。
「言われなくても…。もうこいつは殺すしかない。」
「………はぁ。まじで失せろよクソ魔術師が。」