黒と白の賢者
「……おい、…お前は一体何をしてた。」
ケンラがケイオスに問い詰める。
無論、この一連の殺人事件の真意を…だ。
「黙れ…ただのガキがうるさいぞ……。」
まあ、普通はそういうわな。
「起動・魔力飛翔…話つもりが無いなら口を割ってやる。」
身体強化と浮遊の魔術…この2つを同時使用するのが俺の基本戦闘スタイルだ。
魔術を使うにあたって体の強度は大事だ。
不意の物理的なダメージを軽減できる上、必要なら敵をぶん殴ることができるからだ。
また浮遊の魔術も重要である。魔術師対面でなければ横の距離は詰めれても縦の距離は中々詰められない場合が多い。
さらに視界が開け、攻撃しやすいとゆう利点もある。
上に持ち上がる体。それに伴って視界も持ち上がり、ケイオスは下に……。
「これが最後だ……。何をしてた?、何が目的だ?……。」
「……さい………、」
ボソリと何かをつぶやくケイオス。その小さな言葉は強化を入れてない聴力では聞き取れない。
「答えるならもう少し大きな声で喋れ。早く答えろ!ケイオス!!。」
「うるせぇっつってんだよぉ!!!。新参のガキの分際でぇ!!……俺を見下すなぁぁあ!!!!!。」
強烈な怒気。
ケイオスから他を圧倒する覇気が肌をチクチクと刺す。
「…起動・黒色光撃っ……!!!。」
「起動・光撃!!。」
白と赤黒い光線が衝突する。
魔術の光は魔力で光を擬似的に真似た物を収束して放つものだ。
白魔術はその傾向が強い。
対して黒魔術の光撃はどちらかと言えば高速で物質干渉可能な魔力をぶつける…物理攻撃に近いものだ。
しかし、性質の異なる2つの魔術ではあるが…この2つは同じ魔力が元だ。
魔力には互いに干渉する性質が有るので、あらゆる魔術は他の魔術と干渉する。
よって衝突した2つの光撃はその中央で霧散…、
行き場を無くした魔力が急速に世界へ拡散し…
安易な変換…熱と大気の運動…すなわち爆風となる。
人がまばらな外周域。
家屋も当然少なく、路地も広いが生み出された爆風はそれでも窮屈だと言わんばかりに路地にある物を吹き飛ばす。
…だが、2人の賢者にとってはそんな事…そんな『些細な事』は気にならない。
さらに2発、3発と互いの最短間隔で光撃を放つ両者。
その度に巻き上がる爆風はレンガを剥がし、壁を割り…道に大きなクレーターを生み出す。
「くそ、埒が明かないな。深夜勤務は早めに切り上げたいのに……。」
ケンラは別に自分が圧倒的に強いと思っている訳では無い。
そもそも強い弱いとゆう感覚を持ち合わせておらず。戦闘は勝つか負けるか、勝つ場合はどれだけ早く、あるいは楽に決着をつけれるか…
そういった客観的評価でしか戦闘を考えたことが無かった。
相手も自分と同じ賢者。勝率は不明で戦闘時間も不明。
そんな相手と分かっていながらも、やはり求める勝率は楽で早い決着なのだ。
(……少しペースを上げるか…。)
しかし、命のやり取りすら客観的に眺めてしまう程…彼は強いのだ。
「応射で手一杯か?…起動・極光多光撃。」
単射かつ標準的な威力の攻勢魔術が光撃だ。
単純な為、使い手によって威力や射撃間隔が大きく変化し…少しなら曲げることも可能だ。
そんな光撃を1つの術式で複数の射撃が行える…多段化した物が多光撃であり、さらに魔力の変換量を増やし、瞬間火力を増した物が極光多光撃となる。
要するに燃費をひたすら悪くして、それに見合った火力を叩きつける術だ。
伸ばした右手でケイオスを隠す。
自身の近くで発現した魔術の方向を指定する動作だ。
単純に目で確認するよりも指差しをしながら声を発した方が見逃しが減るように、実際に手を標準器のようにして狙った方が命中しやすくなる。
右手で狙い、変換式を発生する事で体内と周囲の魔力が事象に変換される。
光撃は手の平に魔法陣が出現するが、
多攻撃は術者の背部に多数の方陣が展開される。
この数は術者の変換効率…つまり才能に依存する。
凡雑な魔術師なら3程度(このレベルなら多段化に伴うロスが多い為、光撃を連射した方が良い)。倍の6を出せたなら一線級の魔術師である。
短い方陣の展開時間を終えたケンラ。
撃たれた光撃を打ち消すために魔術を放っていたケイオスもその手を止め…そしてその『数』に驚愕する…。
「……おい、なんの冗談だ?……。」
ケイオスはざっくり数えてしまった。
そう、ざっくり数えてみた所その数は…
「『14』前後は有るだろう?。幻惑魔術でも並行詠唱したのか?。」
「世の中地道にコツコツなんだよケイオス。やってりゃ出来んだよ。」
方陣の発行で照らされるケンラ。
宙に浮きながら光に照らされるケンラは他を萎縮させる圧放っている。
「…化け物が…、起動・魔術抗壁!!!。」
対してケイオスが展開したのは基本的な防護術式。
魔術による防護術式には熱を無効化する、エネルギーを吸収するなど得意な性質で魔術を無力化するものも有るが、汎用性に欠ける。
対して基本とはいえ、術者の技量や魔力の変換量がそのまま強度に変わる魔術抗壁は万能かつ信頼の置ける防御術式である。
……しかし、ケンラの極化は度を越していた。
そ放たれる極光の多光撃。
ただの多光撃なら…降り注ぐ光の雨(これでも十分だが)さながらの光景だっただろう。
しかし、無慈悲な白の破壊者ケンラはそれを極化させてしまった。
才能と短いながらも全てを投じた人生がそれを可能にしたのだ。
光の雨なんて可愛らしものでは無い。
簡潔に言えば光速で降り注ぐ『爆撃』だ。
「ふざけるなァァァっあ!!!!。」
叫ぶケイオス、だが無理もない。
凝縮された光撃は着弾した物質の温度を瞬間的に上げる。
融解…そして揮発する物質。
膨らむ大気と揮発した物質はその体積を爆発的に増し、押し出されたその他が周囲に向かう。
浮かび上がった瓦礫を高速で周囲にばら撒く、さながら榴弾だ。
そして何より大事な事が…。
「ここは……『市街』なんだぞっ!!!!。」
ケイオスとその周囲に限定されてはいるが…瓦礫の破片は容赦なく建物を削っていく。
道は言わずもがな穴だらけ…
とゆうよりもその密度からケイオスが立つ地面を残して路地そのものが『すり減って』いく。
「…お前…。何もかもがイカれてやがるな。」
14射が撃ち終わった時…ケイオスは直撃は免れたものの飛散した瓦礫がいくつか当たりダメージを負っていた。
「……ははっ!!。しかし、大技に変換容量を割いたからには貴様はすぐには魔術を放てまい…。僅かな時間だがお前を殺すには十分だ…。」
手を伸ばし、ケンラに狙いを定めるケイオス。
人間は魔力を変換できる量に限界がある。
時間あたりに変換できる量は変換出力。
連続で変換し続られる総変換量の事を統合変換量。
そして一度に変換できる量の限界である変換容量。
一時的に変換容量が圧迫されれば当然、それが解消されるまでは新たな魔術を発現させることは出来ない。
そう、それは彼にも無理だった。
なので………。
「続唱・極光多光撃。」
本来は前段の術式に特性を追加するものである続唱(効率が悪い為ほとんど使われない)。
14射の極光多光撃を撃つ術式。それを続唱で同じ術式を追加する事で半強制的に14射の極光多光撃を2セット撃つ術式に変える。
技術も…変換力も…経験も知恵も…
全てをつぎ込んだただの『ゴリ押し』。
「ば、バカな!!!。」
失われつつあった光が再度ともる方陣。
「戦場にたてば誰でもわかる。強いってのは必要分を満たした『質』と、ただがむしゃらな『量』なんだってことくらい。」
そして再び吐き出される14射。
小さなステージの様になったケイオスの元へ…
再び迫る光速の爆撃。
「ぐへっ!。」
再び巻き上げられる瓦礫。
直撃は死。
満遍なく固められていた防護術式がその恐怖から偏りが生じる。
その脆くなった部分から瓦礫がケイオスを打つ。
「があぁぁァァああッッッ!!!!!。」
打つ、打つ、打つ…
何をしようも無い。限界を迎えつつあるケイオスの変換力と痛みによる集中力の霧散。
そして僅かにして甚大な破壊が明けた時……。
「………なぜ……。お前の様な奴が……、強いんだ………。……優れているのだ……。」
ケイオスは五体満足、命に別状も無く……
………血まみれになっていた。