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異世界で過ごす休暇の為に  作者: ますかぁっと
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霧中の殺人鬼

ケイオスもジャックも…その笑顔を頑として崩さない。


だが、それでもケイオスからは怒気のような物が滲み出ており、さながら獲物に手傷を負わされた捕食者といった様だ。



(さあ、こい!。怒りに任せて襲え、私が『証拠』になってやる!!。)



「……何の事でしょうか?…。私は単なる見回りです、ここはあんぜんそうなのでもう行きますね。」


笑顔だった。滲み出ていた怒気も嘘かのように消えている。


侵入無関係だと、敵意は一切無いと…



そのままケイオスはジャックの方へ歩み寄ってくる。教会の敷地は柵があっているので、出ようとするにはジャックとすれ違う必要が有るのだ。



2人の距離が縮まり、そして丁度隣に付いた時…。



「んなわけねぇだろゴミが。」


「…ですよねぇ。」



ケイオスが左腕を振り、左側に居たジャックは飛び退く事で回避する。



「お前だったか、邪魔してきたのは。ここで殺すに決まってるだろ。」



先程の笑顔が嘘のように。いや、実際に嘘だったのだが…それでもこの殺気を放つ男が同一人物とはとても思えない。



「殺れ。」


ケイオスの一言で付き添っていた男がこちらへ向かってくる。



でかい体には筋肉で覆われているらしく、重量感のある足音を立てながら詰めてくる。



燕尾服の裏地に縫われた魔法陣に触れる。指先に感じる絹のように滑らかな繊維で描かれた紋様を思い描き、同時に長年愛用していたナイフの手触り、質感…形状に重さをイメージする。



するとズブズブの無いはずのスペースに指が沈む。


その中には硬い感触の何かがあり、それを引き抜く。



「こちらをどうぞ。」


投げる。


懐から勢い良く引き抜いたナイフを、腕の軌道をそのままで投げる。


乱雑だか素早く、繰り返されたその動作は精度に関しても問題なく…



「ッッ?!?!……。」


男の右目に突き刺さる。



「バカが!!。何かしてくるに決まってるだろ!!。さっさと『加護』を使え!!。」



「も、申し訳ありません…。」



言うな否や、男は全身に力を込め出す。すると眼球を貫くナイフの痛みに耐えたその声帯から…苦悶の呻き声を漏らし始める。



「ぁぁ、ぁあ、ぁあああああ!!!!!。」



膨張する筋肉。その表皮からは体毛が長く、密に生え出す。


さらに骨格が変形し出す。ゴキゴキと骨がおれるような、無理やり曲げられるような音が鳴り響き…そな顔はイヌ属の動物…狼に近しいものに変わっていく…。



そう、これを単語にするなら…最も適した言葉をジャックは知っていた。



「おぉ、これは『狼男』と言うやつですかな?。いやはや、流石は異世界だ。」



驚きの声を上げつつも続けざまに2本のナイフを投擲する。



命中、しかしナイフは突立つことは無く…そのままポロポロと落ちてしまった。



「ふむ、私の精神衛生上好ましくない筋肉だ。」



「コロス。」


さらに野太くなった声を上げながら迫ってくる狼男。


その瞬発力は凄まじく、8mはあるはずの距離をわずか『二歩』で埋めてきた。



咄嗟に左へ避けるジャック。狼男の2歩は詰める2歩ではなく、その直後の右ストレートを叩き込むための2歩だったのだ。



ゴッ!!


重量のある太い腕、それが爆速で顔の横を通り抜ける。



体勢を崩しつつも一撃目を避けるジャック。

しかし、崩れてしまった状態をを活かし。起き上がりざまに狼男のアキレス腱にナイフを叩き込む。


刃をあてがい、素早く引き抜くのでは無い。そんなやり方ではこの圧倒的筋力を繋ぎ止める腱は切れない。


だが、…それでも…



「なんと…これでも『切れない』のかっ?!。」


咄嗟にナイフを手放し、後ろへ距離を取る。



……だが、これは悪手だった。


一撃目は横に…それも潰した右目によって視界が狭まった場所だからよけれたのだ。


咄嗟に距離を取る…これはジャックの…つまり人の脚力によって取れる距離であって……、


化け物の脚力からすれば脚を伸ばしても届かないだけで…軽いステップ1つで埋めれる距離だった。



「がぁっ!!!。」


だから打ち込まれた。


人の腹に…それも超人などではなく、ただの殺人鬼の腹に。


打ち込まれた…、刃物を弾く堅牢な筋肉を、人を優に超える瞬発力の筋力で…




衝突。レンガ造りの教会にジャックの体がぶち当たる。



「ぐっ…ぐふっ……。この思いは……こちらに来て2度目だ……。」


ジャックは痛感した。異世界を痛みによって感じた。



世界が違う。ここには魔法があり、超人が居て、化け物が蔓延っている。



悪辣非道な霧中の殺人鬼であってもここではただの一般人。



「ふんただの雑魚だったか。そいつはこれで殺せ。罪を肩代わりしてもらおう。」


ケイオスが狼男が落とした剣を拾い、それを持ち主に投げ渡す。



「ワカリマシタ、ケンヲ、ツカッテ、フツウニコロシマス。」



狼男が剣を引き抜き、ケイオスが再び扉のノブに手を伸ばす…。



「……はぁ……。私は殺すことの方が向いてるようだな……。」


「チガウ。ミジメニシヌコトノホウガ…トクイ。」


ケイオスがノブを握る。


あぁ、キエラは…子供達は起きてしまったのだろうか……。


どうせなら苦しまずに殺してはくれまいか…。



(なんて情けない懇願をしてしまったのだ私は…。)



守りたい、殺したい、でも勝てない、自分は強くない、惨めに殺される、なら優しく殺してくれ、敵に願うな、自分で切り抜けろ、でも弱い、敵は強い、守れない、殺せない



単語1つの思考がただただ空回る。



「全く…ブサイクな連中ですね…あなた達は…。」


その結果行き着くのもやけくそな罵倒。彼の戦いは終わったのだ。



「なに休んでんだよ。自分のした事ぐらい自分で終わらせろ。」



閃光がほとばしる。ジャックと協会が照らされる…この世界を包む夜にほんの少しの『裂け目』が産まれる。



それはジャックに刃を向ける狼男を……



素通りしてケイオスにぶち当たり、弾き飛ばす。



「ケ、ケイオス様!!!。」


「貴様……あぁ、クソ!!。1番嫌いな奴が出て来たな……。」


ケイオスと狼男は…魔術によって強化された体を光らせる…ケンラを見る。



だが、ケンラはジャックを見る。そして告げる。



「最初から人に任せるつもりなら始めるな。人の仕事を増やすな。誰かに助けて欲しいなら、誰かに『助けてもらえる』人に成れ。……あぁ、ダル……。」



その言葉に震える。目の前の敵は私がやらねば行けないとゆうことだ。


そうだ…そうだった。私も今の今まで忘れたいた。


自分は『殺人鬼』なのだ。霧と共に夜に現れ、命を刈り取り、忽然と姿を消す。


この世界の誰もが私を知らない。


殺す。そんな奴らを殺す。そんな世界を殺す。



私の名前を…この悪名を……



再びこの世界に彫り込む!!!。



「グオッツ?!。」


「おっと失礼。まだそこに居たんですか?殺しますよ?。」



目の前でケンラを見たままの狼男の脇腹にナイフを刺す。


だがやはりその肉質は硬く、腹の痛みからか力を込めづらいの合わさり…その傷は浅い。



しかし、それでも…殺人鬼の刃は刺さる。例え小さな切り傷だとしても…人の刃が人外の肉体に突立つ。



「ウットオシインダヨッ!!、ザコガァァアア!!!。」


再びその太い腕を振る狼男。


ジャックは軋む体で無理やり回避するが、その爪に左腕の肉をいくらか持っていかれる。



「…っっ…。ただの馬鹿力の分際で。」



そして始まる攻防。


ただただ拳を叩き付ける狼男。それをひたすら避けながらナイフで浅い傷を付け続ける。



お互いに一方的だが…優勢とも劣勢とも言えない微妙な力関係。



崩れそうな危うい関係。


その攻防が続いた後…互いにわずかな時間と距離を置く。



ジャックは息が上がっている。心拍数が上がり、血圧が上がり…、それでも口元はにたりと卑しく笑っている。


「おやおや…血塗れですねぇ…。まだまだこれからだと言うのに…。」



「ダマレ…チョウシニノルニハ、マダハヤイゾ…。」


足を肩幅に開き、腰を落とし、両手は反対側の腕を強く握る。


そしてただでさえごついその筋肉を一際大きく『隆起』させる。



「ガァァァアッ!!。」



皮の下で膨張した筋肉に押しつぶされ、傷が塞がる。


ただ力むだけ。それだけで止血を行ってしまったのだ。



「本当に鬱陶しい筋肉化け物ですね…。」


未だ息が整わないジャック。それでも刃は狼男へ。



「今度はその無駄な肉を…削いであげましょう。…お覚悟を……。」


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