正義の2択
結果から言うと殺人事件は…
起きた
しかし、それは夜間に被害者の『自宅』で起きた。
今度の死体は肝臓だけでなく、心臓や腎臓等あらゆる臓器が奪い取られていた。
しかも同じ様な事件が『2箇所』で起きていた。
「…結局起きてるじゃん。」
「確かに…また命が散ってしまった事に変わりは有りませんが…これは大きな変化ですよ。」
ピンポーン…家のインターホンがなる。
「はーい。あっ!美咲ちゃん。どうしたの?。」
「こんにちわ、ミシェーラさん!。お父さんがこれお昼にって。是非食べて下さい!。」
…家の外からはまた違う声が。
「ありがとうおばあさん。この『にもの?』…皆で食べますね!。」
「いいのよテルマちゃん。…にしてもケンちゃんってこんなにも兄妹が居たのねぇ。」
「ありがとうおじいさん。大きなお肉はミシェーラ姉さんとアンナさんが喜びます。」
「いいんじゃよ。むしろ近場にこんな大家族が居てくれりゃあ遠くまで肉を分けに行く事も減るからのぉ。」
アルマとテルマ…双子姉妹がそれぞれおじいちゃんとおばあちゃんから食べ物を貰っているな…。
この村は何かあれば食べ物がわけられることが多い。おばあちゃんや美咲のお父さんから渡される料理も貰った野菜で作ったものが結構ある。
「今日は中々豪華な昼食になりそうですね。アンナさん、我が家には丁度多種多様な香辛料と盛り付け用のお皿が有有りますが…。」
「え?…あぁ、そうね。お昼ご飯を食べてからにしようか。ジャック、貴方はどうするの?。」
「私ですか?…ふむ。出来ればご一緒させて貰えませんか?…それと…これも出来ればなんですが今のイギリスと、我が故郷であるロンドンを見れませんか?。」
…最初は1人で逃げるように訪れたこの異世界…。
しかし、今や向こうと大して変わらない。ワイワイと弟子達は騒ぎ、なんかよく分からない客人は昼を一緒に取ろうとしているし。アンナは料理を始めるし…。
容疑者リストの最上部であるケイオスに探知されないように異世界での会議を許可したのだが…。その結果がこれだ。託児所と大して変わらない。
「はぁ…これで本当に良かったのかなぁ…。」
「ねぇケンラ。焼くのと揚げるの…どっちがいい?。」
いつの間に準備されていたのだろうか。ちゃっかりエプロンまで持ち出してきたアンナが聞いてくる。
焼くのと揚げるのか…あんまり油は取りたくないんだよなぁ。
「揚げ物はパスで。胃がもたれる。」
「オッケー。…まあ、スパイスが沢山あるしソテーが無難かな。」
最初は1人には広いと思っていた食卓。
しかし、今や7人で囲んでいる。
そして皆…笑顔だ。
見渡せば皆笑っている…。やるせない思いがあったとてしもその光景に…自然と笑顔になってしまう自分が居た。
「昨日の殺人はやはりケイオスが主犯だろ。人は殺さなきゃ行けないがめぼしい相手が居なかった。仕方なく押し入り殺人をしたが3名の部活が殺られている事を考えて…諸々の工作をした訳だ。」
「模倣犯の可能性を匂わす為に2箇所で。連続殺人では無い可能性を出す為に肝臓以外も…。ってゆう事ね。」
ケイオスは魔術師だ。それも人の血肉を触媒とした儀式に精通する黒魔術の賢者。
何日間か連続でこれを行う必要が有るなど特殊な儀式なら無理をしてでも殺人を続けた可能性が高い。
「…だとすればあの3人は殺さず生け捕りにすれば良かったですね。殺人鬼には難しい事ですが。」
確かに、適当な奴を捕まえて吐かせた方が早そうだ。家に押し掛けて殺しを行ったのならもはや見回りをしても効果は薄いだろう。
「…もしそれをするなら私の居ない所でしてね。騎士が法に触れる様な真似したくないわ。」
「もし白ならただの拉致に傷害だからな。ケイオスに突っ込まれて捕まるかもな。」
ジャックはともかく、俺やアンナは顔が知れている。動けば悟られる。そこをケイオスにつつかれれば今回の件について動きにくくなる。
ジャックはともかく…。
「ジャック。お前なら拉致でも尾行でも何でも出来るんじゃ無いのか?。今夜ケイオスをつけてみろよ。」
「私単独でですか?。まあ、確かに私はお二人に比べれば空気同然の認知度でしょうから適任ではありますが。」
そうジャックの認知度はほぼ無だ。
さらにスマホでこいつの前歴(物語)を調べてみた所中々の大物と判明した。
追っ手を撒くことが得意なら、逆に後をつけるのも…気配を殺すのも…なんならそのまま殺す事も出来そうだ。
「何か証拠になりそうな物だけでも確保してくれ。最悪それがダメでもケイオスに詰問できるだけの状況証拠を見てこい。」
「…それが出来るなら話は早いわね。私からもお願いするわ、ジャック。」
急ぐことは大概、失敗を招く。
だが今回ばかりは時間はケイオスの味方だ。
殺人そのものを止めることは難しく、それが続けばより深刻な事態に発展する可能性が高い…。
人を連夜殺し続け、その臓物を使う儀式なんて聞いたことが無い。さらに必要な時間はその儀式の影響力や規模と直結している。人の臓器を扱う儀式をましてや連夜行うとなればその儀式はまさに国家規模の問題と言える。
「やれやれ…仕方ありませんね…。では私の前で行われる『殺人』は見逃すとゆう事で良いですね?。」
「え?…。殺人を…そんなのダメに決まってるでしょ!。」
アンナがジャックに告げる。
「無理だよアンナ。未遂で乱入じゃ、今からケイオスの所にお邪魔してシバくのと大差ないだろ。あくまで証拠を掴んで法と権力で捕まえる。騎士として奴を捕まえたいならな。」
「…っ?!…。…でも、…良くないよ…。」
アンナには厳しい判断だろう。本音を言うならケイオスの所に乗り込みたいと考えているだろうな。
だがそれでもアンナは騎士だ。不確実な罪状で感情的に動く事は無いはずだ。
しかし、正当な手順をふむには誰かの命を見捨てねばならない。それもまた、アンナの思い描く騎士道とは掛け離れた行いだろう。
「アンナはどっちの『正』を選ぶんだ?。」
下を向き、考え込むアンナ。
湯のみの中を漂う茶柱を見ているようだ。
ふわふわと中に漂うそれは、まさに今のアンナの心境そのものだろう。
「わ、私は……。」