やる気を出した幼なじみ
「んん…………。ん?。」
気付けばカーテンの隙間から光が差し込んでいた。
「…あぁ、朝か…。…奴らがどう動いたか…見物だな。」
昨夜の襲撃は異世界からの転生者であるジャックが撃退した。
そのジャックの話しによれば組織犯…ケイオスの直掩部隊による犯行の可能性が高い。
もし、昨夜に犯行が行われていなければ…その可能性が限りなく高い。
(或いは昨夜の犯行は…)
「…とゆうか……。おい、降りろこの野郎。」
俺はそこそこ寝癖が悪い。なので1人用なのだがベッドから落ちないようにダブルベッドを置いている。
つまり俺1人が寝てもこのベッドにはスペースが有る。
それに合わせた毛布も1人で使うにはスペースが有る。
「全く…バレないと思って何様のつもりだおい。」
そのスペースに『彼女』は居た。
「おい、起きろアンナ。お前に同衾を許した覚えは無いぞ。」
柔らかく、しかし締まった脇腹を容赦無く足の裏を使ってベッドの外に押し出す。
「……んぁ…、…ぉおちる!?」
あと少しの所だったのに目覚める幼なじみ。
これが騎士の本能ってやつか。
「おい、何勝手に人のベッドで寝てんだ。そこら辺の床で寝てろっつっただろ。」
「はぁ?。あれ本気で言ってたの?!。…ありえないわ〜、男が女に言う事じゃないわ〜。ジャックだってソファで寝てたわよ?。」
下の階(俺の部屋は二階にある)から声がする。
「うわっ。誰この人?。他人の家のソファで寝てるとかキモ〜。」
「あ、ミシェーラ。その人はお客さんだよ。だからソファごと捨てようとするのは辞めなよ。」
「…ね?。だから私がこのベッドを使う権利は有るでしょ?。」
豊満な方に入るであろう、たわわな胸の下で腕を組み、顔は赤くしている癖に偉そうに…相変わらずベッドの上で座り込んでいる。
「ねぇよ。女が男の寝るベッドに潜り込むなんて…そうゆう関係になってからしろ…。」
……………
「…それ…言って欲しいの?。………私に?。」
顔を寄せてくる。息がかかる程に…とまでは行かないが…、対して意識もしていなかった女の子としてのアンナの芳香を感じれる程度には…。
「別に小さい頃とか…冒険者やってた時は一緒に寝る日もあったじゃん…。」
その無駄に整った顔を…これまた無駄に近づけて来る…。
「お、おい…。愛国精神とか騎士道とやらが移るだろ…。」
「……バカっ。……はぁっ…なんでもっと大事なものが移ってくれ無いんだろうなぁ〜。」
「お前…なんだよ急に…。距離感近めだぞ。」
確かに小さい頃は手なんか繋いだりしてたし、冒険者やってた時も1つの毛布…こんなのよりもっと小さいヤツにギチギチにひっつきながらくるまったりしていた。
だが…アンナの方からこんな思わせ振りな態度を取ってきたことは無かった。
…何か別の目的でも有るのか?。
「別に何でもないよ。てゆうか客間くらい作ったら?。4人で住むにしてもそれなりに広いでしょ、この家。」
「空き部屋だったところは2つはあったがどっちも物置として使ってるよ。」
「有れはガラクタって言うのよ。」
俺や俺の弟子達は遠征先で珍しい物が有れば取り敢えず買って帰る。更に魔道具等は解体して内部の構造を見たり(ほぼ趣味で)するので同じ物を複数個買ったりもしている。
だが魔道具は例え部品単位まで解体しても廃棄は中々に面倒くさい。そもそも捨てたいと思える品があまり無いので空き部屋へ置いていたら…いつの間にか2部屋を占領するまで溜まってしまった。
「あ、そうだ。向う側に移すか。」
「あんたねぇ。そんな事だといつかガラクタだらけになるよ…。捨てる事を覚えなきゃ。」
捨てる…。正直捨てたくない。俺が満足しても弟子達がまだ必要な物かもしれないし、そのうち使い道が出来るかもしれない。
そもそもあの品々には辛い遠征を乗り越えたと言う思い出がこもった品々なのだ。
「大切な物なんだ…。あこに置いてあるのはただの魔道具(と廃品)だけじゃ無い。…そう、『思い出』だって詰まってるんだ…。」
(なんか久々に熱い事言った気がする。)
「はぁ…。物には熱くなれるのに人には熱くなってくれないのね…。もう良いわ、被害が出ているか確認しに行きましょ。」
途端に冷めたようにベッドから降り、部屋から出ていくアンナ。
寝ている間にベッドに潜込み…、起きてからは色々と思わせ振りな事を言ってくる。
「…いや、…まさかなぁ…。……あいつから好感持たれるようなことしてないよなぁ?。」
心当たりを探す…。そうだ、絶賛進行中でアンナから好感を持たれそうなことがあった。
「あぁ、今回の事件に協力してやってるからか…。んな事言っても街に殺人鬼が居るのは嫌だし、夜間の外出がしにくくなるからなぁ。…そんなに特別に見えるのか?。」
「あーあ。夜刻の19が来た時とか、今回の協力の事とか…なんか頼もしく感じてたんだけど…。まだまだかなぁ…。これわ。」
廊下で…小さな声で呟くアンナだった。