王都にかかる霧 2
ケンラの自宅から20分程歩いた場所。
そこにアンナの家…シャフール邸はあった。
周りに木々が生えているが、そのような場所に建てられた訳ではなく。王都とゆう城壁都市では限りなく有限に近い土地を木々を植え…池を作り…そんな事が出来るほど所有している…正しく貴族や名家である証明と言える。
ドンドン…。
鷲が丸い輪を加えた様な金で出来た彫刻。
その輪の部分は動かすことができ、それを戸に打ち付けることでこの屋敷の物を呼ぶのだ。
両開きのドアの向う側から足音がする。
「…ケンラ…ドアノックは3回って言ったでしょ?。私の家に来る人で2回なのはあなただけよ?。」
そこには見慣れた赤髪の女性…アンナ・シャフールが立っていた。
「アンナ…生きていたのか…。悪い噂を聞いたから心配したぞ…。」
アンナの死…そんな事を想像した自分が愚かに思える程、自然に…当然の様に彼女は出迎えてくれた。
「心配って…少し遊びに行けなかっただけじゃん…。」
そう言って少し顔を赤らめるアンナ。
はぁ…、別にいいが俺が数日会えない事すら我慢出来ずに押し掛けて来たみたいになったじゃないか…。
「なんか拍子抜けした…。無事なら別にそれでいい。じゃあな。」
帰ろ…。ガルにもらしくない事を言ってしまった…。別に恥ずかしくはないが取り乱す所を見られるのは気持ちの良いものじゃない。
「え?、なんで私が遊びに行けなかったか聞いてくれないの?!。ここまで来たのに?!。」
「嫌だよ。第一俺が無関係だって分かってるから来なかったんだろ?。」
「そ、そうだけどさ!。…幼なじみ何だから…少しは気を使っても良いじゃない…。」
珍しく上目遣いでしおらしい態度を取るアンナ…。もうお手上げって言うことか。恐らくはガルから聞いたあの『事件』の事だろう。
「例の連続殺人か…まぁ、良いよ。家にも3人標的にされるかもしれない奴が居るからな。」
「ほ、本当に?!。やったぁ!!、ありがとうケンラ。」
華のように笑うアンナ。そこまで進展が無かったのか。…べつに俺が居ても何か分かるわけじゃないだろうに。
「ここが1人目が襲われた路地だよ。被害者はここで喉を切られて死亡。その後犯人は肝臓のみを摘出して逃亡したと思われるわ。」
「肝臓のみを摘出?。」
まず考えられる可能性は魔術師による殺人だ。人間の体を使うのは魔術…その中でも黒魔術の触媒に使われる事が多い。
だがそれならこれは少々『勿体無い』。生物の肉体はそれだけで魔術的に有用な触媒だ。血や骨も含めて全て。
にも関わらず取られたのは肝臓のみ。持ち運びが不便とゆうなら…魔術に使うならば心臓を狙うだろう。全身の血液が集約する心臓は魔力との融和性が高いとされている。だが犯人は肝臓のみを狙った。
「連続殺人何だろ?今は何人やられた?。全員肝臓を抜かれているのか?。」
「うん…。被害者は3人でその全員が肝臓を取られているの…。死因も同じ、喉を切られて絶命。だからこの事件は全部1つのグループか犯人によるものね。」
…つまり犯人は肝臓に対してのみ強烈な執着が有るわけか…。それでいて痕跡を残さず殺す技術と、肝臓の摘出が出来る程度の外科技術が有る…。
「夜間の警備はしてないのか?。毎夜起きてるんだろ?。市民の外出の自粛要請とかさ。」
「自粛要請はこれからね。警備についても昨夜からは担当を決めて駐屯する騎士を総動員してるわ。ケイオスの直掩部隊みたいな魔道支援部隊も含めてね。」
(ケイオス…あぁ、賢者に居たな。)
俺の様な賢者を戦地で有効活用する為に、護衛や支援を行う騎士団を直掩部隊と言う。一応ケイオスも戦地に赴く類の賢者だったのか。
「そこまで引っ張り出しているなら尚更だ。殆どを出払っているとはいえ犠牲者を出しておいて何も無いなんておかしい。勿論今夜は違うかも知れないが…早めに掛け合うべきだろう。」
「私もそう思うんだけど…ケイオスとテーゼさんが犯人の確保が無可能になるって悩んでいるの。少なくとも今の状況で1度犯行が収まってもしばらくして、自粛要請が解除されたらまた同じく事になるって。」
テーゼ…あぁ、国土維持隊の隊長か。法執行機関ですらその考えなのか…。まあ、自粛を市民にとゆう事は自分達が犯罪者を捕まえれないとゆう事を市民にバラす事と同義だし、解除後にまた同じ犯行があれば…その信用も落ちる…。
「6会の内の2人がそれか。アトスもデニスも犯罪なんかに興味は無いだろうし、マネラは自粛要請で国家機関への不信が増すことと犯罪による市民の不安を比べている段階か…。恐らく自粛要請に賛成するのはドゥルデガくらいだな。」
6会は国家機関のトップが国王の前で国政について話し合う場だ。
国外への軍事活動を行う国外征伐軍の司令官 デニス。
国外脅威からオーフェシアを守る国境守備軍の司令官 アトス
国内の治安維活動全般を受け持つ国土維持隊の指揮官 テーゼ
国内経済の統括と貨幣の製造管理を行う国貨製造局の局長 マネラ
ギルドや工房、工場等の非政府組織を管理する国内組織統制局の局長 ドゥルデガ
そして…
国内魔術の発展と国家利益への魔術貢献を受け持つ国家魔術統制局の局長…ケイオス。
この6人が現在の政府権力の頂点であり、この6人の決定を国王が承認することでオーフェシアは動いている。
「じゃあやっぱり犯人を捕まえるしか無いってことね。」
「あぁ、そうなるな。…取り敢えず俺は空から見てみるよ。下は騎士達を信じてね。」
取り敢えず証拠が無い事と犯人を捕まえなければ犠牲は出続けることが分かった。何も分かっていないのに等しいが…致し方が無い。
「てかそのシャツ何?。」
「ん、あぁそうか。お前もこれ終わったら美咲に服選んでもらえよ。向こうでこの格好だとコスプレだと思われるぞ。」
「コスプレ?…よく分かんないけど…まあ、これが終わったらね。」
王都の住宅街…。
「……街並み綺麗だしさ…いい匂いするしさ…凄く楽しいんだけど…帰り道分からなくなっちゃった……。どうしよう……。」
道に迷った美咲が途方に暮れていた。
「君、どうしたの?。道に迷ったの?。」
後ろを向く美咲…そこには修道着を来た女性が立っていた。
「は、はい…。全然分からない場所で…知ってる人も何処にいるか分からなくて…。」
「そっか…。じゃあ取り敢えず家に来る?知ってる人にあなたの知り合い探しを頼んでみるから。」
「ほ!ホントですか!!。」
優しい…母親の様な修道女の笑顔に美咲の不安がほぐれる。
「あぁそうだ。今物騒だからあまり夜遅くの帰りになる様なら家に泊まっても良いからね。」
「お、お泊まり…流石にそれは…。」
「良いのよ、あなたの命が1番大事なんだから。」