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異世界で過ごす休暇の為に  作者: ますかぁっと
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王都にかかる霧

「殺人事件?…そんなもんどこでも起きてるのに今更どした?。」


異世界のケンラ宅、畳敷きの今でせんべいをボリボリ食いながら横になってテレビを見ている家主…光輝の聖賢(笑)の2つ名を持ケンラ・ギドアスが弟子のガルが焦りの色を浮かべながら発した言葉に気だるげに返す。



「まあ、確かにどこにでも起きてますが…1人目の犠牲者が3日前の夜…若い女性だったらしいのです。」



「へ〜。まあ、3日おきくらいで殺人なんて起きてんだろ。その際恋仲やら通り魔やらに目を付けられるのはゴリゴリな男より綺麗で若い女性なのも無理はないだろ。」


社会不適合者が「よし、殺そう。」と町へ出た時、大柄で全身重装の騎士に喧嘩を売るわけが無い。無慈悲な歯牙にかかるのは若い女性の場合が多い。



「しかもそれが連続で3夜も続いたらしいですよ!。」


「……ほう?、3夜も連続で…全員若い女性なのか?。」


「はい。」


3夜も連続となれば単なる衝動的な犯行ではないだろう。つまり殺す事に快楽や意味を見出している輩だ。この手の輩は衝動犯よりも厄介だ。快楽犯は場合によるが頭が良い奴なら長く楽しむ為にしっかりと証拠を消す。意味を持ってる奴も同じだ。



「でもそれは俺とは関係の無い話だ。ミシェーラやアルマとテルマに夜は外出するなと伝えておけ。後はアンナが片付けるだろ。」


そう、これがどんなに凶悪な人物による凶行でも俺には関係ない。治安維持活動は騎士が行うものだ。今はアンナとその騎士団員も駐屯しているのだから尚更俺の出る幕は無い。



「それなんですが…先生…。」


「ん?。」


バリッ。豪快にせんべいを頬張る。ガルが暗い表情をするのは珍しい。落ち込む事なんて今まで見た事がないぞ。



「アンナさん、ずっと来てないんですよ…。『3日前』の真夜中に…家を出たっきり…。」


「アンナが来てない?3日間も?……いや、3日前から……。」



被害者が若い女性の連続殺人。連続で3夜という事は犯行は夜間。そして1人目の犠牲者が出たのは『3日前』……。


(ま、まさか……。)



「ガル、夜の外出禁止をミシェーラ達にしっかり伝えとけよ。もしまだ犯人の事がまだ何も分かって居ないのなら…これは直ぐには終わらねぇぞ。」


『MADE IN JAPAN』と大きくプリントされたロンTの上から愛用の白いローブを羽織、ラナトリスと直通である異世界転移ドアのノブに手をかけるケンラ。


「先生はどちらへ?。」


「決まってるだろ…。こんな事態で休みを取るような奴じゃ無いんだよ…アイツは。」


アンナならこんな事件を無視する訳が無い。きっと捜査が忙しくて顔を見せられないだけだ。そもそも並の相手に負けるはずがない…


だが、相手が『並』では無いとしたら?…



平たく均された感情がチクチクとむず痒くなる。


(そんなはずがない…アイツが死ぬはずが無い…。)


ガチャッ、パタン。1秒で終わる異世界転移を終え、すぐさま外へ出る。



向かう先は当然、アンナの屋敷だ。



(全く…忙しくても少しは顔を出せよな…。仕方が無いから俺の方から行ってやるよ。)


そう、美しいが堅物に育ってしまった幼なじみは忙しいだけなのだ。


忙しいから…最近は毎日遊びに来ていたのが全く来れなくなったのだ。


そうに違いない…。そうに決まっている…。



そうでないと……そうであってくれないと……。



(こんないきなり居なくなるなんて…絶対に許さないからな…。そんなことをしようものなら聖職者にクラス替えして蘇らせてやる。)



均された感情が揺れ始める。それは異世界での賢者である自分を忘れた暮らしによって柔らかくなっていた感情を、


幼なじみの『死』とゆう受け入れ難い想像が叩き付けてくることによって生じた波だった。




「先生…なんだかんだ言ってもアンナさんの事が心配なんだな。…取り敢えず俺も王都でクエストを受けているミシェーラを探して、アルマとテルマにお留守番を伝えなきゃな。」



ガチャッ…パタン…。


………………



……………………………




……………………………………



ガラガラ……


「みなさーん!。遊びに来ちゃいました!。……誰か居ませんかー!………いいや、入って待ってよ。」


1人の少女が家に入ってくる。見る目が無い人が見れば地味だが、均整の取れた可愛らしい顔の少女だ。


実はこの村産まれの少女はあまり友達付き合いが上手ではない。高齢化の進んだこの村には幼い頃から年齢の近い子供が殆ど居なく、通う学校には近所に住む子もいないからだ。


そんな中、突然現れた歳の近い3人。一緒に街を歩いた日の記憶はとても幸せなものだった。


今日はそんな3人の家へ初めて遊びに来たのだ。



「ん?、なんでここだけこんな凝ったドアが有るの?。」


和風の家屋。そこにド西洋風の金や赤と色とりどりの模様が描かれたドアがあった。



ガチャッ…

「うわ!凄い!!。これ映画のセットなの?!。……てか広っ。こんなに広い家だったんだ。」



この少女…上田 美咲 は知らない。今、自分が異世界へ居ることを。


この異世界は…トラックに轢かれずとも、大魔道士に召喚されずとも…ドア1つを開け閉めするだけでやってこれる異世界だと言う事を。



「ケンラさーん!!。ガルさーん!!。ミシェーラさーん!!。………」


彼女は奥へ奥へと進む。


ここはケンラの自宅だ。


しかし、ここは異世界だ。


美咲は奥へ奥へと進む。ケンラの自宅を、


彼女の常識が通用しない『異世界』を。

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