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異世界で過ごす休暇の為に  作者: ますかぁっと
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誰も知らない『異世界転移』

「ほう?、実に奇怪なものだな。」


空間の穴を抜けた男。そこは木がまばらに生えている、比較的高めの丘だった。



「ん?、なんだあれは?。」


周りを見渡す男。そして気づく。暗闇の中で小さくも大量の光が密集する場所を。


間違いない、街明かりだ。


ふと後ろを見てみると今さっき通ってきた穴が無くなっている。

いや、塞がったと言った方が適切か?。



「ふむ。これはロンドンシティには帰れないと言う事かね?。」


(それは困る。あそこまで楽しめる街は2つと無いのだ。少なくとも我が母国、イギリスには。)



再び光の密集する場所を見る。光は距離のせいで小さい。だが数や密集の度合い、その範囲…



「ふむ。」


これは…かなりの大都市だ。ロンドンシティに負けずとも劣らない。しかし、近辺にこの様な丘は無かったはずだ。


となるとここはイギリスでは無いのか?


「ふむ。…まあ、良いか。」


男の中に1つの想いが生まれる。


「ふふふ…正しく『新天地』とゆうわけか。まだ私を知らぬ処女(メイデン)とは…昂ってしまう…。」



ここがパリであろうとベルリンであろうと…私を知らぬなら教えるまでだ。


恐怖と傷で…



「次は私はなんと呼ばれるのだろうか…『ジャック・ザ・リッパー』…中々気に入っていたのだが、これを超えてくるセンスを…期待するとしよう。」


2つ名は好きだ。名前も知らぬ私を恐れる為にわざわざ名前を付けてくれる…その温かみに涙が出そうだ。



「実に…楽しみだ。」


男が笑う。暗く…夜闇に溶け込むように暗く…。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「おぉ、ケンちゃん。戻ったんか。」


「はい、今帰りました。」



あぁ、…異世界は素晴らしい快晴だ。ポカポカの日差しが俺を迎えてくれる。


「あの後中々帰ってこないから心配しとったぞ?。まあ、お前さんなら大丈夫じゃと思っとったがの。」


「ご心配をお掛けしました。まだ少しやる事があるので取り敢えずは挨拶しないとと思って。」


「ん?、そうか。じゃあわしも出掛ける事にするわい。夕飯、うちで食うか?」


「はい!、ご馳走になります!。」






マーリンが作った異世界への直通ドア。これのお陰で前より簡単に異世界に出入りできるようになった。まあ、休みを誰かに邪魔される可能性は高まったが。



…それにしても、やはりこちらの世界とあちらの世界ではおじいちゃんの話す言語が違う。


アンナと普通に会話していたのでもしかしたらと思っていたが。しかもそれにおじいちゃんが気付いている様子も無い。


「異世界人…やっぱり異世界から渡ってくる人には何らかの変化が起きているのか。」


「それならこのドア凄い危険じゃない?。」


「うぉっ!…ア、アンナがなんで居るんだよ。」



異世界とはいえ俺の自宅である。だがドアがある部屋にはアンナが普通に立っている。



「っておい!!、バカヤロウここは土足禁止だ!!。」


「え?、そうなの?。それなら先に言ってよね。」


そう言って靴を脱ぐアンナ。勝手に入って来といて何言ってんだか。


「玄関はあっちだ、サッサと靴を置いてこい。」


「はいはーい。」


…はぁ、家の中にも玄関を作らなきゃ行けなさそうだな。



「それにしても本当に魔力が薄いね。こっちならケンラにも勝てそう。」


「やめろ、俺の休日に勝ち負けとか持ち込むな。」


「何が休日よ。報告書を王城に届けたらすぐにこっち来てたじゃない。王様に謁見もしないで大丈夫なの?。」



そう、今回の件について実は報告書を書けとは言われてないのだ。


俺が言われたのは把握しうる情報を詳細に説明しろ…だ。


「別に良いだろ、『詳細に説明』が出来ればさ。わざわざあいつらに口頭で説明しなくてもさ。要点をまとめた文で大丈夫だろ。」


「はぁ、前はそんなサボり癖無かったのにな…。」


「お前だって、今ほど真面目じゃなかっただろ。稽古とかサボってたじゃん。」


「そ、それはそうだけどさ………。」



………………………




「が、頑張るケンラに憧れたから……。」


「……へぇ……」



………………………



「腹……減ったな。」


「そ、そうだね。」


昼の1時。昼飯を食べるには丁度いい時間だ。



「わ、私が…なんか作ろうか?。」


「お前が?。嬉しい提案だけどこの家に食材はねぇよ。」


そう、異世界での食事は全て長谷川夫妻のご好意に甘えて来た。だが毎回それでも申し訳ない…。



「あ…そっか。まあ、私が作るんじゃ不安だよね…。」


不意に悲しそうな顔を見せるアンナ。何回か料理は作って貰ったがそこまで下手では無かったはずだが…。


まあ、それもかなり前だ。もしかしたら食べ物が置いてないという非常識を、俺がアンナに料理を作らせない為に付いた嘘だと思ったのかもしれない。



……尚も悲しそうな顔のアンナ……。



「はぁ…全く。」


俺はため息をつきつつも立ち上がり、玄関へ向かう。


2人分の靴を取りに行くためだ。



「えっ?。何処に行くの?。」


2人分。アンナと俺の靴を持ってドアのある部屋へ戻る。



「何処ってお前…食材が無けりゃ料理作れねぇだろ。」


「…え?、どうゆう事?。」


全く、こっちの親切心を理解しない鈍感娘め。


「飯作ってくれよ。異世界じゃ俺1文無しだから…。だからさ…昨日みたいに市場に行くぞ。」



パァァァァ…。アンナの曇った顔がみるみる晴れ渡って行く。


「ふふ、別に市場なら普通に料理を出してくれるお店あるじゃん。そんなに私の手料理が食べたいなんて…、急に甘えん坊さんになっちゃってさ。仕方ないなぁ。」


な、なんだよ。せっかく心配してやったのに俺の事を子供扱いしてきやがった。



「別にそれでも良いよ。てか、そっちの方が良いよ。」


「だーめ。もう私が作るって決まっちゃったの。」



はぁ、いつもの高圧的な女に逆戻りだ。もう少し絞った方が良かったかもしれない。



「ほら、早く行こ。」


靴を履き終えたばかりの俺に手を伸ばしてくるアンナ。


つい、…特に考えもなく、


…その手を握り返してしまう。



なんか…手を繋ぐなんていつぶりだったっけ?



ふと前を見るとアンナは前を見ているが…耳が赤くなっている。



「アンナ…。」


「な、なに?。」


以前前を見たまま、だがいつもとは違う少し湿り気のある…異性として色々感じるものがある声で聞き返してくる。


「アンナの…手がさぁ…。」


「う、…うん。」


ギュッ。手と言われ意識したのか握る手に力が込められる。



「す、少しだけど…手汗で湿ってるよ?」


無だった。無と呼ぶに相応しい僅かな静寂。その先に…



「ドゥフゥゥッ!!!」


朝目が覚めとき、自分が寝る瞬間を覚えていないような。まさにそのような感覚で腹に拳を撃ち込まれていた…。



「ケンラのバカ!。賢者じゃなくて愚者でいいよ!!。」


アンナはそう言って勢いよくドアを開け、向こう側へ言ってしまっまた。



「む、難しいなぁ…。」


まだ腹がヅキヅキと痛む。非魔導下であの瞬発力とは…アンナは日々鍛えているんだな。



「はぁ…なんか甘い物でも買ってやるか。」



そう言って先に言ってしまった幼なじみを追いかける愚者。


これが彼の異世界転移。とても些細で、世界を救ったり・変えたりなどせず、知識や技術で成功を収める事も無い。だが、紛れもない彼の生活だ。

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