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異世界で過ごす休暇の為に  作者: ますかぁっと
14/38

脅威は去り、休みも去る(泣)

ラナトリスが襲撃を受けた日の翌日。



王城から徒歩で30分ほど掛かる場所にある大きな家。



その一室に、家の主である男が机の上にぶちまけられた書類へ羽根ペンを走らせている。



「あ〜。こっちは疲れているのに…何故報告までしなきゃいけないんだ…。早く帰りたい……。」



今回の1件での損害は大きい。首都近くの農村が滅びた。


今は春の後半、麦を収穫し終え首都へ出荷する予定であったのでパン等の麦を原材料とする食品全般が値上がりしていっている。



にも関わらず、俺の上…国王やその周りの貴族・権力者はアーバルムの眷属についての情報にしか興味が無い。自分達は飢えたことがなく、飢える事もなく、故に飢える民の事を気にしないのだ。


刻の24体、そのうちの一角である夜刻の19…直近で最も強大な存在が敵として尖兵を送り込んできたのだから無視する訳にはいかないが、俺としては今の食品等の高騰に集中して貰いたい。



「あ〜、だりぃなぁ。」


「じゃあ休憩する?。」


最近は閉めるのもめんどくさいので寝る時以外は開けっ放しのドアからアンナが入ってくる。


「お前から休憩の提案か。今の俺ってそこまで死にそうな顔してたか?。」


「はっ?、せっかく言ってあげたらその反応なの?。」


な、何だよ。急に拗ねたような顔すんなよ。


「……ま、休憩しない理由は働く理由と同じくらい無いからな。外に出るか。」


「あれ?、ガル君とミシェーラさんは?。」


「2人は今ギルドで依頼を受けているな。俺が何かしてやる事も出来ないし、冒険者にもかなりの死傷者が出て人不足だろ?。」


冒険者には階級が有り、それぞれの階級が分かるように色付けされた皮の腕輪をつけている。上から白、赤、青、オレンジ、緑、黄の6色になっており、依頼はこの階級と人数や編成によって受けれるかどうかの可否が決められる。



ちなみに俺は白、アンナは青が冒険者をやっていた時の階級だ。ガルとミシェーラは今はオレンジくらいにはなっていたはずだ。


オークは緑の階級が主に請け負い、数が多い場合や単独で依頼を受ける人などはオレンジが行う。


今回で最も死傷者が出たのは当然その2色だ。一般人には危険だが数も多い依頼、それを受けている緑と緑が受けるには危険な依頼を受けるオレンジに犠牲者が多く出るとギルドには未消化の依頼が溜まっていく。


上位色は数も少なく、受ける以来も一つ一つがヘビーな物のため今更下位色の依頼を受けることも無い。食品の高騰と同じく、こちらも早急な解決・支援が必要な問題だ。



「そうだよね…私達の騎士団もかなり損耗してるし…体も心もね。だからさ、当分はケンラの直掩も難しいかな。」


「大丈夫だよ。何がなんでも遠征なんて受けないから。」


(全く…奇跡的に壁内の損害がないだけで問題無いと放置してるな。きっといつかは立ち直れるだろうがそれまで苦しみ続けるのは民なんだぞ。まあ、だからお偉方は動かないんだろうがな。)



「取り敢えず飯だな。店に金を落とさないと本当に潰れる所が出るぞ。」


「…じゃあ、私も手伝うね。」


そう言ってアンナが横に来る。最近で1番近い距離だな。


「私が…ケンラを『手伝って』あげる。」


ふふん、と満足気な顔になるアンナ。それは手伝うとは言わないだろ。


「そうだな、そりゃ(店の人が)助かるよ。」


「んふ。でしょぉ。私だってケンラぐらい助けれるんだから。」


(ま、喜ばせとくのが無難だろ。突っかかって来ないし。)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「しっかし、本当に値上がりしているな。」


「まあ、想像通りだけどね。」


時刻は昼。多少の不安はあれどやはり王都の市場は賑わっている。


「ご、ごめんなさい。もうしばらくすれば遠方から運ばれる麦があると聞いたので…またいつもの価格に下げることが出来ると思うんですが。」


そんな市場の中の店。ミートパイやピザが人気の店らしい。しかし今はほかの店より客数が少なく、頼まれる料理もスープや肉料理が殆どだ。


とはいえお金に困っている訳では無いのでオススメのミートパイとミネストローネを頼む。


「遠くから運ばれる…ねぇ。」


「その麦に運搬料が上乗せされる事を考えてないのかしら。」


そう言って2人で運ばれたパイを頬張る。ザクザクとした食感にトマトソースの味が濃い挽肉が合わさってとても美味い。ミネストローネと良い、この店はトマトにも拘っているようだ。



「それにしてもあのおじいさん。一体何者なの?。」


「…うーん。俺が異世界に行った時に初めてあった人で優しい『人』だ。あくまでも人のはずだ。」


ただの人があれだけの一撃が放てるのか?そもそも異世界には魔術の概念があるとは思えない。


「ほぼ無に近い状態からの濃度差による変異か…。そもそも転移の魔術自体が強大な魔力を帯びているからそれで…。どちらにせよ良くないことだな。」


「そうね。簡単に言うなら『魔獣化』だもんね。」


あの後おじいちゃんには急いで帰ってもらった。本人も鹿狩をする予定だったのですぐ帰って貰えた。


「てかマーリン?だっけ?。あの人が作るって言ってた転移門はどうなってんだ?。」


「そんなすぐには出来ないわよ。でもあの人にはお礼も言わなきゃいけないし、絶対に作ってくれるわよ。20年も前だけど、夜刻の3を撃退した…『昼刻の14』のみたいよね。」


俺の後を追う為に弟子たちはアンナの知りい会いであるマーリンとゆう賢者に俺の異世界転移についての研究を見せたらしい。その礼として扉に紋を堀り、異世界とこちらの世界をもっと簡単に行き来できるようにすると約束してくれたのだ。



「『昼刻の14』…ハゼガドワ…か。老人の姿で現れて、鹿の姿で顕現した夜刻の3を神銃で倒したんだよな。」


…似てるよな。長谷川とハゼドガワ…神銃ってのも異世界戦いの様子を見ればそりゃそう言うだろうし。


「それに…確か『でかい鹿』も倒したとか言っていたし…。もしかしたら20年前も…。」


「何言ってるの?あの人20年前から老人だったわけ?。流石に違うでしょ。」



だよな。20年は人には十分すぎるくらいに長い。だが本当に長谷川さんは…おじいちゃんは無関係だったのだろうか?。もし同一人物で有るとすれば…


「『時間軸』が不一致なのか?。向こうとこちらでは…。そして異世界からこちらへ渡った人間は強大な魔獣になるか、おじいちゃんの様な力を手に入れるか…とか?。」


「それも無いでしょ。少なくともケンラが向こうに居た時間とこっちでケンラがいなかった時間は同じよ?。」



…確かにそうだ。恐らくこちらと異世界は同じ様に時間は進んでいる。


だが果たして俺が行った異世界はこちらと平行に時間が進んだ末の異世界だったのだろうか?。


俺は行く場所の景色を予め見ていた。もしそれが過去であれば?未来であれば?当然転移先もその世界においての過去や未来となる。


そもそも過去や未来なんてその世界に共通の『今』が有るから存在する概念だ。違う時間軸なんて言う概念の共有が出来ない世界から行けば、過去も未来もクソもないだろう…。



「うわぁ〜。なんか哲学者になりそうな気がしてきた…。帰ったら寝るか。」


「それはダメ。報告書明日まで何でしょ?。少しくらいなら手伝ってあげるから終わらせなよ。」


何だよ。急に幼なじみみたいな事言いやがって。



いや、幼なじみか。



「それくらいなら全部やってくれよ〜。」


「それもダメ。もう、しっかりしてよね。」


また俺の気だるげな様子に呆れたとため息を着くアンナ。まぁ、いつも通りといえばいつも通りだ。



「もしかしたらさ。異世界で捕まえる事が出来なかった殺人鬼とかさ。案外こっちに来てたから捕まえれなかった…とか、有るかもな。」


「えー、何それ。見回りの強化しなきゃ行けないじゃん。」


そうだな。全くもって根拠の無い話で、もし本当なら限りなく面倒だ。なら考えなくていいだろう。


俺らしい、実に経済的な考え方だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




異世界 1800年代の終わり とある都市に1人の男が居た。



「ふむ。今夜のロンドン市警は気合いの入り方が違うな。」


横並びに続く家屋の屋根の上にその男は居た。ハットを被り、単眼鏡を掛けた燕尾服姿の男は、屋根に居るのが不似合いだ。



「さては今までは手を抜いていたな?。そうして私を欺く事で捕まえるとは…なんとも紳士的(ジェノメリー)では無いな。」



その燕尾服の裾は血がついている。この男は今追われているのだ。


立ち上がり駆け出す男。警察の包囲の穴を見つけては屋根から降り、包囲を抜ければまた屋根に登り人目を避ける。



「参ったな。路地は全て塞がれている…。朝まで屋根の上に居る訳にも行かないぞ…。」


詰み…とは考えていないが非常に厄介だ。さてさてどうするか。


「おや?、なんだあれは?。」


視線の先、空間に『穴』が空いている。気になり近づいてみると穴の中に風景が広がっている。


「も、もしや、これは入れるのか?」


手を伸ばす。すると何の抵抗もなく穴は男の腕を飲み込む。


「…ふむ。面白い。逃亡ついでに入ってみようか。」

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