強き人と強き者
「んあ?…。何が起こった…。」
ケンラが破壊した地面が瓦礫となって降り積もった中、1匹の魔族の声がする。
「ん…。何だこれは?…。ダイダロスがほんの僅かな肉片になっているではないか。」
「ん?、このデカイのはお前の友達か?。それなら申し訳ない、たった今消し飛ばした所だ。」
瓦礫を押しのけ立ち上がる魔人。背は高く、筋肉質な体と魔力の保有量が高そうな気配。並の魔人より強いのは確実だ。
「そいつは本気の私でもやりきれなかった。強いよ。」
なるほど。アンナのボロボロの体はやはり魔術の操作が雑だったからか。それでもやりきれないならかなり強い個体では有るだろうが。
「おい魔人。俺は早く休みに戻りたい。すぐ殺すから抵抗するな。」
傍から見れば傲慢な振る舞いだがこれが一番早く、楽で…即ち経済的だ。俺の体力とゆう極々1部での経済の話だが。
「やれやれ、吾に死ねと?。やはり人間は傲慢だ…殺すと言われて殺される魔人などこの世におらぬ。」
そう言って得物と思われる剣を握り、持ち上げる魔人。
(全く、今日も俺の体力支出は赤字だ。)
なんて軽口を心の中で呟き、すぐに集中力を高める。魔術を発動させた瞬間に奴は来るだろう。今は警戒されて膠着状態だが俺が魔術以外での攻撃方法がないとか思われれば直ぐに切り込まれる。
そこで腰の剣を抜いて切り伏せれるのなら楽だが俺は本当に魔術以外でコイツは倒せないだろう。即発動させないと…この魔人の強さ次第では死んでしまうかもしれない。
「…っと、言いたい所だが。吾もその娘の相手で腕に力を込めれん。みよ、」
そう言って片手で雑に剣を振る魔人。人からすればその重量の剣を振り回せれば十分だと思うが…確かに、俺と打ち合うのにそれでは心もとない。演技で無ければだが。
「なので貴様の命は他の者に委ねることにする。」
ん?…それはどうゆう事だ?
答えは直ぐに魔人の口から響いた。
「『アーバルム』様ぁ!!。地と別れ、なおも地を案ずる優しき神よ!!。御身の子である我らを護り!、地を滅ぼす者達へ槌を振る御身の使いをここにお遣わし下さいっ!!!。」
「んな!?。」
アーバルム…夜刻の19…てか、そんな呼べば来るようなやつなのか?!。…いやいや、流石にそんな用心棒みたいに出て来たりは…
そう思ったのも束の間。魔人の声が響き渡ってから数瞬の間を置いて…
バキン!…
『空』に直接ヒビが入る。
パキッ…パリ…ピシシッ!
その亀裂が徐々に広がっていき。まるで歪な魔法陣のようになったその時。
「アアアァァァァァアア!!!。」
女性の悲鳴のような鳴き声…
魔法陣から紫の閃光と共に巨大な『鳥』が現れる。
「マジかよ…。本当に出てきやがった。」
「うむ。吾は村長であり、最高司祭でもある。故にアーバルム様とほんの少しだけ意志を通わせる事ができるのだ!。あ、勿論これはアーバルム様の眷属であるぞ?。」
「あ、そう。なーんだ、眷属か。」
「なーんだ…じゃ、無いわよ!!。け・ん・ぞ・く…なのよっ!!!。」
はっ!、そうだった。呼んだら出てくるとゆうあまりにも尊厳の感じられない登場につい油断してしまった。
偏見の無い目でよく見てみよう。どれどれ…
距離がある為正確には分からないが全長はおよそ20m程。
全身が黒く『発行』している鴉のような外見。黒く変質した高密度の魔力で覆われているのであろう。
くちばしは雑食性の鳥類の物だろう。魔法存在とはいえ肉体が有る以上ある程度は性質が肉体がに反映される。可肉食生物という事は少なくとも穏やかな鳥では無さそうだ。
ん?、なんか周りに魔法陣がたくさん浮かび上がっているな。………!
「ァァァァァアアアアアアアッッ!!!!!」
その魔法陣から黒い矢のような物が尾を引いて飛び出る。巨大な鴉、なので魔法陣は巨大で、当然の如くその矢も巨大だ。
「起動・抗術霧域っ!!。」
白く輝く霧がアンナと俺を包み込む狭い範囲で瞬時に発生する。魔法的強度で敵の魔術を防ぐ防御魔術とは違う、接触した魔術を一瞬で上書きし霧散させる最高位の阻害魔術。
その霧へ…黒く巨大な矢が突き刺さる…
パアァァァァンッッ!!
「はっ?……。」
黒い矢が霧に触れた瞬間、霧と黒い矢が破裂音と共に猛烈な勢で蒸発する。
ありえない。魔族の強力な魔術でさえこんな事は起きなかったのに…。理由は明確だ、完全なるキャパオーバーだ。
キャッチボールをしていたらいきなりボールの中に金の塊が詰まっていたような感覚だ。
そもそも金の塊を放り投げれる人なんて居ない。明らかに人外の存在から放たれる球、故に人間様の作ったグローブ程度ではその衝撃を受け止めきれない。
魔力の濃さ、術式の強力さ、更には…
「まだ『一撃目』だぞ?!。」
そうこれはただの『一撃目』であり、更に十以上の矢が迫っている。
「ふ、ふざけるなよ!!…続唱・抗術霧域!!」
霧が消されきる前に再び追加する。
消されるまで行かなくとも薄くなってしまえばこの矢は貫通してしまうだろう。なので同じ魔術を継ぎ足して凌ぐ。
パァン!!、パァン!!、パァン!!
しかし、継ぎ足した霧も直ぐに消し飛ばされる。圧倒的なスペック差でひたすらゴリ押しされている。
威力が化け物なくせにかなりの速度で、しかも軌道を修正する事も出来そうだ。
物質と一緒で魔術もあらゆる事に魔力は消費される。その威力は勿論だが、その威力たる事象を発現させるだけの魔力を加速させるのも、それに追尾の能力を持たせるのにもだ。当然、打ち出す魔力が多ければこれの消費も増える。
「続唱・抗術霧域!!………あぁ、くそ…。」
鴉型の眷属は間を置くことなく、一定のペースで矢を放ち続けている。俺は大気中の魔力を使って魔術を起動させるのは得意なのでもうしばらくはこれの攻防を続けられは出来そうだ、が…。
それでもこれだけの高位魔術を展開し続ければ減るものは減っていく。だが相手は永遠にこれを続けられそうな様子だ。
とゆうか、この魔術の追尾能力と数を全て威力と速度に注ぎ込まれれば全力の霧でも貫通されそうだ…。
「ケンラ!、だ、大丈夫なの?。」
俺を案じるアンナの声。普段は気にも止めないが集中力を乱しかねないこの声に大人気なくキレてしまう。
「見れば分かるだろ、ピンチだよ!!。お前を覆う霧に穴が空いて欲しく無けりゃ少し黙ってろ!!。」
「ご、ごめん…。」
普段なら突っかかってくるアンナが大人しく黙る。半分になった感情でも抑えきれないほど圧倒的な差を突きつけられているのだ。
(あぁ、くそ。こりゃダメだな…。)
「おぉ、ケンちゃん。なんだか辛そうじゃの。」
え?
「どれ、少し手伝ってやろう。」
いやいやいやいやいや、なんでここにいるの?。
「お、おじいちゃんっっ?!?!。」