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ほうき星の素  作者: 萩原 學
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不透明な時代に

くもり空の日には、

君は影を失う。

あれほどくっきりとついてきた

影が、わたあめのように

溶けてしまった今。

影のない車がのろのろと行き交う

影のない子供たちがひっそりと遊ぶ

影のない交差点

影を失った街に。


影を殺した者は誰?

裏側を恐れた者は誰?

影に逃げられた薄い人々は、

他の誰かに探してもらおうと、

うろうろふらふら歩き回る、

憔悴した風船乗りのように、

影をつくるために点す灯を、

どこかに置き忘れたふりをして。


灰色の探偵は今宵、薔薇の嘆きを聞く。

「みんな何処に行ってしまったの?

 あの人たちったら、まるでまだ

 戦争が終わってないみたいなのよ!

 何もかも白く塗りつぶしてしまうから

 もう誰の見分けもつかないのよ。」

灰色の探偵は立ち上がり、やがて

静かに白く溶けていった。


支えを失った夜が落ちてくるまで

乾いた井戸が掘り返される。

美しい希望の亡骸を埋められずに

うつむいた世界を陽炎になって歩く。

「誰かそこには居ないのか?

 此処には生きていないのか?」

まだ雨は降らないのに

誰もが誰かの真似をしている。


ーーねえ、君!

  ついに裸で放り出され、立ち尽くす君

  なくしてしまったあの声を待ち続ける君

  ひとり駆け出して、逃げ出していく君

  どうして君は、そこに居る?

  君には僕が見えている?

  僕が呼んでるのは君?

  そこに居るのは誰?

ーーねえ、君!

  僕たちは、とうとう

  間に合わなかったのか?


洪水のように

時計のように

くもり空は混濁した白さを

増すばかり

燃えるように憎み合った過去の歴史が

此処からはほとんど透明に見えるのに

君が今歩く影のない街では

もう誰の顔も見分けられない……

GAGA#12 1995年4月

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