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雨猫
しとしとと雨の音が聞こえる朝には
猫の髭に水滴がかかる様を描きたくなるけれど
絵筆も絵心も猫も持たない僕は猫の描きようもなく
弁当箱を抱えたまま蹲るしかなく
しかたがないので傘を持って出かけたら
電信柱も自動車も桜の木も濡れねずみ
空はねずみ色に不機嫌にうねり走り
怯えた猫はねずみも取らず自動車の下
雨樋がねずみ色に雨を吐く頃
それぞれの職場についた人々は猫の髭なぞ忘れてしまうが
自動ドアが開いて入ってくる客は皆が皆濡れねずみ
不機嫌な猫のような笑顔を崩さない店員は
濡れねずみの客にも丁寧に愛想よく
でも鏡には濡れた尻尾がゆらゆらとしている
GAGA#76 2019年12月