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血と鉄とプラスチックと
ひんやりした鉄のノギスを当てる
潰えた夢を読むように
軽いプラスチックのノギスを当てる
ポケットに入れたネジを巻くように
開けたばかりの穴を計る
掘り過ぎて突き抜けてしまわないように
よくわからないネジを計る
穴に合わせて動かなくするために
できるだけ丁寧に、ノギスで計る
写真に撮った星月を
てのひらに握りこんだ貝殻を
暖炉に載せた兎の耳を
もう帰らない靴音を
そうだな、墓にもノギスを供えてほしい
動かなくなった奴でいい
計ってみないと確かなことは判らないから
計ったくらいで何が言えるという訳でもないけれど
月を見上げ、また目盛りを読んでみる
ミスした、気がつくと掌を切っていて
材料とノギスをみっともなく染めてしまって
洗えば落ちる汚れと判っていても
黒い悪魔のように溜息をついてしまう
自分の血が夢もなくただ黒く汚く固まる
別にいいけど不正確なのは御免こうむる
少なくとも人生の一部は美しく精確に
と願っても、もう誰にも会えないか
今は一人、山を降りるばかり
ほら、あんなに美しく輝いている