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俺達と離れ離れになってしまったバム達は、俺達がいる大陸のさらに向こうにある西大陸にいた。
「バッシュさん、ここはどこだと思いますか?」
マミリは目の前に広がる草原を見ながら言った。
「難しい質問ですね」
バムは微笑みながら答えた。
「今分かることは、わたしの知っている大陸ではないと言う事と、レイラという光の神が言っていたもうひとつの世界、『シュライス』かもしれないということだけですね」
「もうひとつの世界…真実なのでしょうか」
「わかりません…ですが、今は信じるしかないでしょう」
「そうですね」
マミリはまたバムから草原のほうへと目をやった。
「さて、これからなにをしましょうか?」
「そうですね…出来ればユカさんのことを教えてもらいです」
マミリはとびきりの作り笑顔でバムのほうを向いた。その言葉を聞いたとたん、バムの顔が少し変わった。
「…ふふ、時々あなたが十歳とは思えなくなりますよ」
「それはどうも」
マミリは小さくお辞儀をした。
「…仕方ありません、どうせやるべきことも見当たらないわけですし。いいでしょう、その質問にお答えしましょう」
バムは変装のためはずしていたメガネをポケットから取り出した。
「やはり、メガネがあったほうが落ち着きますね。では、まずは改めて自己紹介させていただきます。わたしの名はバム・ジキイス、王直属の護衛兵をやっております」
「パルシニム王のですか?」
「ええ、まぁ、護衛兵と言っても、陰で王を守る裏の護衛兵なのですが」
「そうなのですか…どうして正体を隠しておられたのですか?」
「姫様にばれると厄介なので」
「それではやっぱり…」
「ええ、彼女は正真正銘のシェイナ・ペルシニム姫ですよ」
「ペルシニム王のお姫様がなぜ旅を?」
「見ての通りです。王があのようなことになっていて、いても立ってもいられなかったのでしょう。まぁわたしも、王のことが気になったので護衛をしつつ旅をしていたのですけどね」
引きつっていたバムの表情が、少しずつやわらいでいった。
「ジキイスさんは気づいていたのですか、あのようになるということを」
「…大方は。ですが、闇の神が取り付いていたとは思いもしませんでしたが」
「…わたくしたちの世界は、無事なのでしょうか」
マミリは空を見上げながら言った。
「信じるしかありません…今は」
「…そうですね」
バムとマミリは微笑みながらお互いの顔を見合わせた。
【ブロロロッ!!】
その時だ、バムのマミリのもとに彼らが知らない何かが近づいてきた。
「何の音でしょうか?」
マミリが不思議そうに言った。
「聞いたことがない音ですね、それに近づいてくるみたいですよ」
「モンスターでしょうか?」
「わかりませんね…」
【キキッー!!ガチャッ!】
2人が不思議がっている間に車は止まり、中から身長が結構高いポニーテールの女性でてきた。
「女の方が出てきましたね」
バムが冷静に答えた。
「食べられていたのでしょうか?」
マミリは首をかしげながら言った。
【カチャッ!!】
すると女は腰から拳銃を抜き、バムのほうへと向けた。
「そこの君!!」
「わたしですか?」
バムは微笑みながら答えた。
「そう、あなたよ!!その背中に背負っている武器を今すぐ捨てなさい!!」
【カチャ!】
女はリボルバーのハンマーを引いた。
「どうして捨てないといけないのですか?」
「武器禁止令が出ているのよ、そんなことも知らないの?」
「すいません、わたしたち別の世界から来たばかりなので」
「はい~?」
女の頭の中は今『?』でいっぱいである。
「何言ってるのあんた?どこかで頭打った?」
「はぁ~、言っても信じてもらえませんか」
バムはため息混じりに小声で言った。
「どうするのですか?」
マミリは心配な顔一つせずにバムに言った。
「とりあえず今は従いましょう、いろいろ面倒ですし」
「何をコソコソ相談してるの?早く捨てなさい!!」
「分かりました、今捨てるところですよ…ん?」
槍に手をかけた瞬間、バムは何かを感じ取った。
「(この気配は…)」
「どうしたの、早く捨てなさい!!」
「武器を捨てるのは少し先のようですよ」
「はい?」
【ゴゴゴゴ!!ドバッ!!】
次の瞬間、地面より二十匹相当の蛇モンスターが出現した。バムはこいつらの気を感じたのだ。
「どうやらこの世界にもモンスターはいるみたいですね」
バムは手にかけていた槍を抜きながら言った。
「こんなときにモンスターが現れるなんて…仕方ない、君!!」
「はい?」
女はモンスターのほうへ走りながらバムに話しかけた。
「今だけは武器を使うのを許すから私の援護をしなさい!!」
「ふっ、まったく、武器を捨てろと言ったかと思えば、今度は戦え…忙しいお人ですね」
バムはそう言いながら槍を抜いた。
「マミリさんはそこで待っていてください」
バムはそういうとモンスターのもとへと走り出した。
「いくわよ!!」
【パキューン!!パキューン!!】
銃から放たれた弾は見事蛇モンスター二匹に命中した。
「よし!!」
「後ろです!」
「え?」
【グサッ!!】
女が後ろに振り返った瞬間、バムの槍がモンスターを貫いていた。
「周りをよく見たほうがいいですよ」
「よ、余計なお世話よ!」
「しかしすごい武器ですねそれ」
バムは拳銃を女が持っている拳銃を見ながら言った。
「放つと異物が出てきて遠くの敵を倒すことが出来る武器…興味深いですね、弓矢よりコンパクトで意威力がある。なんという名前なのですか?」
「拳銃よ!!ってあんた拳銃も知らないの!?」
「ええ」
「どこの田舎者よ、拳銃も知らないなんて」
「ですから言っているではありませんか、『別の世界』から来たと」
「あんたまたそんなこと言って…」
「そんなこと言っている間にも、モンスターは攻めてきますよ」
バムは女の言葉をさえぎるようにモンスターのほうを指差した。
「分かってるわよ!!秘技・狙い撃ち!!」
【パキューン!!パキューン!!パキューン!!パキューン!!】
攻めてくモンスターは四匹倒れた、があとのモンスター止まることなく進行してきた。
「いくら威力があっても、一体ずつでは意味がありませんね」
「わ、わかってるわよ…」
【カチャッカチャッ!】
女は落ち込みながらも拳銃に弾をこめた。
「仕方がありません」
【ダッ!】
「え?」
「わたしが倒しますので手を出さないでください!」
「ちょっと、あんた死ぬ気!?」
「死にませんよ…」
【タッタッタッ!!】
バムはさらにスピードをあげ、モンスターに向かっていった。
「(ここなら…)」
【ザザァー!】
バムはモンスターの中心部で足を止めた。バムが足を止めた瞬間、モンスターは一斉に飛びかかってくる。
「はぁぁぁ!!一ノ斬り、激流乱舞!!」
【ブシャシャァァァ!!】
バムが槍を大きく回転させたと同時に、残り十四匹のモンスターの首が吹っ飛んでいった。
「首を洗って出直してきなさい」
「…すご」
女はバムの技を見た後そうつぶやいた。
「…無事ですか」
女のところに帰ってきたバムはそういった。
「うん、大丈夫…じゃなくて、あんた何者!?」
「わたしはバム・ジキイスと申します」
「名前なんか聞いてない!!」
「まあまあ、とりあえず場所を変えませんか?」
「勝手に決めるな!!」
「すいません」
バムは微笑みながら頭を下げた。
「もうっ!まっ、署の方で事情徴収もしないといけないし…いいわ、着いてきて」
「わかりました」
「あっ、そうそう」
車のほうへ歩き出した女はバムのほうに振り返った。
「私はシリル・ノーウィ、よろしくね」
「よろしくおねがいします」
2人はマミリがいたところまで戻った。
▽
バムとマミリはその大陸の中心部にあるクラーズシティの警察署にいた。
「なるほどね~」
バム達は警察署内の取調室にいた。
「なんだか返答が軽いですね」
バムはそう言った。今しがたバムは今までのことを全て話したのだ。
「なんだか話が大きすぎて、いまいち実感わかないのよね~」
シリルは手のひらを顔に当てながらそう答る。
「仕方ありませんよジキイスさん、わたくしだってまだ実感がないのですから」
マミリが微笑みながらぃった。
「…あっ、そういえばそれに似た童話を聞いたことがあったっけ」
「童話…ですか?」
シリルの言った言葉にバムが反応した。
「うん、確か…」
昔々、遥か昔のお話です。
この世界には、自然界の神だけが住んでいました。彼らは楽しい毎日をずっとずっと送っていたそうです。しかし、その仲間はずれにされた闇の神が世界を傷つけようとしました。
それをやめさせるため、ほかの神たちはみんなで協力して、悪さをしないよう洞窟に閉じ込め、世界を半分にして遠ざけましたとさ…
「昔お母さんによく話してもらったな~」
「自然界の神に闇の神…今回の件と結びつくところがいくつかありますね」
「でしょ、マミマミ!!」
感想を言ったマミリにシリルは笑顔で言った。
「その呼び方はやめてください」
マミリは恥ずかしがりながら顔を背けた。
「…」
「ん?どうしたのバム」
うつむいているバムを見ながらシリルが言った。
「もしその童話が本当なら、このシュライスとミュライスは、もともとは一つの世界だったということになりますね」
「…確かに」
シリル腕組をしながら答えた。
「しかしこれだけの情報ではどうにもなりませんね。もっと調べないと」
「それなら資料室にでも行く?ここの資料室結構大きいから、古い本とかいっぱいあるわよ」
「資料室ですか…今はそこで調べるほかなさそうですね」
「それじゃ早速行きますか!」
シリルは椅子から立ち立ち上がった。
「ん?やけにうれしそうねバム」
シリルが立ち上がろうとしているバムを見ながらそう言った。
「そう見えますか?」
「うん、なんかウキウキしてる感じ。本とかすきそうだもんね~」
【ガチャッ!】
シリルはそういいながらドアを開けて外に出て行った。
「…」
「どうしたのですかジキイスさん?」
呆然と立っているバムを見ながらマミリが言った。
「あっ、いえ、なんでもありません」
「?」
「さっ、行きましょう」
「…はい」
マミリは煮えつかないままバムの言うとおりシリルについていった。
「(心を読まれたのは初めてですね…)」
バムはそんなことを考えながら取調室を後にした。
二日が経過した。この二日間、バムとマミリは毎日こもりっぱなしで資料室にいた。そのおかげで2人はこの二日間と言う短時間で、この世界の秩序、法律、機械の操作の仕方を一通り知ることが出来た。しかし肝心の情報は手に入らないまま時が過ぎていた。
「この本にもミュライスのことは書いていませんね」
【ガタッ!】
マミリは本を閉じ、棚に本を返すため椅子から立ち上がった。
「ジキイスさん、そちらの本で何か情報は得られましたか?」
「いえ、こちらも何も書いていませんね。歴史の本を読んでも、この世界の戦争のことしか書いていません…お手上げです」
バムは本から目を離し、メガネを机の上に置いた。
【ガタッ!】
棚に本を戻し終えたマミリはもといた席に座った。
「…ジキイスさん、聞いてもいいですか?」
「ええ、何なりと」
「なぜこの世界は戦争を繰り返しているのでしょうか?」
この二日間、2人が手にしたどの本にもこの世界で起こった戦争のことが書かれていた。
二十年に一度、まるで日にちが決まっているかのように戦争が行われていた。
「それは…自分の国を世界の上に置きたいと思う心、進化していく機械技術、欲がある人々はそれを守るため、奪うために戦争を起こすのでしょう」
「…わたくしたちは間違った場所に来てしまったのでしょうか」
「それは、わたしにも分からないことです…」
「…」
バムの言葉の後、マミリはうつむいたまま話を続けようとしなかった。マミリはまだ十歳、世界のことを知るには早すぎたのだろう。その姿を見たバムは机から身体を乗り出し、マミリに近づいた。
「…ですが」
「ですが?」
「あの2人なら必ず何とかしようとするでしょう。たとえ自分に関係のないことだろうとね」
「…」
「今いる場所に間違っているかどうかなんて関係ありません。その場所で自分になにができるか、なにをするかです。今我々にできること、それは出来るだけ情報を集め、あの2人と合流すること…そうすればあの2人がきっと何とかしてくれるはずです。ですからそれまでがんばってみませんか、マミリさん」
「…はい!」
マミリはみんなに見せたことのない元気な笑顔でそう答えた。
【タッタッタッタ!ガチャッ!!】
「大変よ!!」
騒々しい足音の後、シリルがドアを開けて資料室に入ってきた。
「どうしたんですかそんなに急いで?」
バムがため息混じりにそう言った。
「大変なことになったわ。サイヒシティがたった今崩壊した」
「崩壊?地震かなにか起きたんですか?」
「どうも違うみたいなの、何でも人間が崩壊させたとか…」
「人間が!?あの大きな町を人間が崩壊させたというんですか!?」
「うん、しかもその人間が使っていた能力が…闇の力だったらしいの」
「!?」
バムとマミリは同時に驚いた。2人の頭に同じ名前が浮かんできたからだ。
「まさかダギース…」
「可能性はあるわね、私はこれからサイヒシティに向かうけど…お二人はどうする?」
「当然行きます」
2人は顔を見合わせ、同じ言葉を同時に言った。
「よし、それじゃ早速行くわよ!」
シリルを先頭に、3人は資料室を後にした。