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翌朝、起きてすぐ俺達は次の目的地に向かった。
「ふぁ~」
「ふふ、大きなあくびですねユカさん」
手で大きなあくびを隠しているユカを見ながらバムは微笑んでいた。
「だから早く寝たほうがいいって言ったじゃないか」
「だって~」
俺とユカの会話聞いていたバムが満面の笑みで言う。
「おや?お二人で夜更かしですか?これはこれは、ミキスさんも隅に置けませんね」
「な、何言ってるだよバム!!」
「ふふふ、冗談ですよ、冗談。そんなに慌てなくてもいいじゃないですか。さっ、早く次の村に向かいますよ」
バムはそういうと足を先に進めた。なんだかはめられた気分だ。
▽
二時間後、俺達はようやくミュル村にたどり着いた。
「うわ~、人が多いですね」
ユカは立ち止まり、ものめずらしそうにそう言った。
「この村はルフラ大陸の中心にあるため、旅人が頻繁に行き交いしているのですよ」
バムの言うとおり、この村は旅に必要なものとかが揃っているため、旅人が道具をそろえることに利用されている。俺もよくこの村を利用している。
「さて、ミキスさんとりあえず宿を探しませんか?」
バムが俺に問いかけてくる。
「そうだな、泊まるところがなかったら村に来た意味がなくなるし…行きつけの宿屋があるんだ、そこに行かないか?」
「かまいませんよ」
バムは笑顔で答える。
「それじゃ早速行こうか」
俺達は宿屋へと足を進めた。
五分後俺達は『宿屋・スリープ』の前に到着した。この宿屋はあまり大きくはないが、俺の知り合いがやっているから安値で泊まれるんだ。
「さて、早速入るか」
【キィー】
俺は少し色落ちした扉を開けた。すると、カウンターにいる少年が「いらっしゃいませ」と俺達に言った。俺はすぐさまその少年に声をかけた。
「久しぶりだなルイ」
「あっ、ミキス先輩じゃないですか!!」
少年は飛び上がるような勢いで俺の名を呼ぶ。
「どうしたんです、最近姿見ませんでしたけど?」
「いろいろあって忙しかったんだよ。2人部屋と1人部屋1つずつ空いてないか?」
「もちろん空いてますよ」
ルイはカウンターにある棚から鍵を2つ取り出した。
「先輩以外で泊まってくれる人なんて早々いませんから。どうぞ、案内します」
ルイはカウンターを出ると階段のほうへと向かった。
「ねぇ、ルイ君は1人でこの宿屋を経営しているの?」
ユカは階段の途中、ルイに質問をした。
「ええ、親が材料を取りに行った時モンスターに襲われて…それからは僕が変わりにこの宿を」
「そうだったの…ごめんねルイ君」
「いえ、気にしないでください」
ルイは笑顔でそれに答えた。
「1つお聞きしていいですか、ルイさん」
「はい?」
バムが少し悩みながら言った。
「さっき『先輩以外で泊まってくれる人なんて早々いませんから』と言っておりましたけど、それでよくこの宿屋もっていますね」
するとルイが俺のほうを見ながら答える。
「先輩がよく賞金やらなんやらのお金を入れてくれるので、それで何とかやっていけているんですよ」
「ほ~、ミキスさんが」
「ミキスがね~」
ユカとバムは疑いのまなざしで俺を見る。なんだよそのまなざしは。
「これでも一応剣術の先輩だからな。それに、なんだか…」
俺に似ているところがあるからほっとけないんだよな。
「先輩、この二つの部屋です」
部屋の前に着くとルイは鍵を開け、鍵を俺達に手渡した。
「ありがとうルイ」
「いえ」
俺達は男と女に分かれた。俺がドアノブに手を伸ばそうとしたその時、ルイの声が俺の手を止めた。
「そうだ!忘れるところだった、この前来た旅人が先輩を探していましたよ」
「!?」
ペルシニム王国にいた旅人達がもう追いついてきたのか!?シビスの森で時間ロスしたのがまずかったかな。こんなに早く追いついてくるなんて。
「その旅人、ほかに何か言ってなかったか?」
「えっと確か…『ミキス・クロウディというものは泊まっているか?』と聞かれたので、泊まっていませんと答えたらそそくさと帰っていきましたよ」
「そうか…わかった、ありがとう」
「ゆっくり休んでくださいね」
ルイが階段を下りた後、俺達は部屋に入った。
「ペルシニム王国の連中とは違いますね」
バムが真剣な顔つきで言った。
「シビスの森でロスしたとはいえ、わたしたちを追い越して行くのは不可能」
「となれば考えられることはひとつだな」
「ええ、あなたを追っている人物がほかにもいるってことになりますね」
「…いったい誰が俺のことを探しているんだ」
「今ある情報だけでは見当もつきませんね。とにかく、今まで以上に警戒しておいたほうがいいでしょう」
「…そうだな」
暗い空気が部屋を包み込んでいた。
【ドバタンッ!!】
その暗い空気を断ち切るかのように、ユカがドアを勢いよく開けた。
「ミキス、散歩に行かない!?」
「ユカ…」
「どうしたのよ暗い顔して」
「いや…」
「も~、そんな顔していちゃ体休められないよ。気分転換に散歩に行こ、ねっ?」
ユカは俺の腕をぐいぐいと引っ張る。
「わたしは残りますので、行ってきたらどうですかミキスさん?」
バムの顔からは真剣な表情が消えていた。
「わかった、それじゃ行って来るよ」
「それじゃ行ってきますバムさん!」
ユカは俺を引っ張りながら笑顔で部屋を飛び出していった。
「気をつけるんですよ~」
【バタン!】
俺達がいなくなった部屋で、バムは一人思いふけっていた。
「…優しいですねユカさん。あなたはこの雰囲気を気遣って…しかしあなたはいつまでも『ユカさん』でいるわけにはいけないのですよ。あなたの立場をわきまえてもらわないと」
「へ~、ルイ君に剣術を教えてるんだ」
俺とユカは人通りが多い市場を避け、民家の辺りを散歩していた。
「ああ、俺があいつ始めて会ったときにせがまれて仕方なく」
「だからルイ君はミキスのこと『先輩』って呼んでたんだ」
「そういうこと」
「…偉いねミキス」
ユカは少しうつむきながら言った。
「何が?」
「ルイ君の家にお金を入れてあげているんでしょ?そんなこと、ちょっとやそっとじゃ出来ないよ」
「そうかな?」
「そうだよ…ミキスってすごい」
俺がやっていることは、すごいこと…なのかな?
「私もがんばらなきゃ」
「何を?」
「いろいろと!」
ユカは笑顔でそう答えた。
「あっ、あそこにいるのルイ君じゃない?」
「え?」
ユカが指差した先には確かにルイがいた。何でルイが民家のほうにいるんだ?
「おいルイ」
「ひっ!?」
俺がルイに声をかけた瞬間、ルイはビクッとしながらこっちを向いた。
「何を驚いてるんだよ」
「いや別に…」
「何かやましいことでもしようとしてたんじゃない?」
ユカは意地悪そうに言う。
「いやっ!違いますよ!!」
ユカの問いにルイは明らかな反応を見せた。やましいことってなんだ?
「その反応は図星のようね。私が察するに…女ね!!」
「はひっ!?」
「ふふふ、あたりみたいね」
へ~、ルイにも好きな女が出来たんだ。
「そんなんじゃありませんてば!!」
「隠しても無駄!さっ、さっそく連れていってもらおうかしら」
「どうして連れて行かないといけないんですか!!」
正論だな。
「私のカード魔法でしびれたいのルイ君?」
「…いえ」
ルイは顔を青ざめながら、観念したかのようにそういった。
「きっと、まだ早すぎるの~♪私のこの思い~♪」
歩いていると、どこから歌声が聴こえてきた。
「きれいな歌声…」
ユカは歌声に感動しながら言った。
「ああ」
本当に綺麗な歌声だ。こんな歌声聴いたことがない。
「着きました、この家です」
そういうとルイは庭の方に回った。
「こんにちはマミリさん」
庭には10歳くらいの女の子が花に水遣りをしていた。その子はロングの黒髪に緑色のペンダントを付けていた、お人形みたいな女の子だ。
「ルイさん、こんにちは」
「いつもせいが出ますね」
「毎日水をあげないと、この子達の元気がなくなってしまいますから。ルイさん、そちらの方々はどなたなのですか?」
マミリという女の子はルイの後ろにいた俺達を見ていった。
「俺の剣の先輩と、先輩の旅仲間の人です」
「俺の名前はミキス・クロウディ」
「私はユカ・ユミニイス、よろしくね!」
「はじめまして。わたくし、マミリ・ルシラータともうします。どうぞよろしくお願いします」
少女はとても丁寧にお辞儀をした。
「こちらこそ」
言葉遣いや礼儀がしっかりしている子だな。
「歌、また一段とうまくなったんじゃないですか?」
ルイがうれしそうにマミリという子に言う。
「そんなことはありません」
「え?さっきの歌マミリちゃんが歌ってたの!?」
ユカは驚きのあまり大きな声でマミリに尋ねた。
「はい、そうです」
この子がさっきの歌を歌っていたのか…世の中には入るもんだな、天性の歌声を持つ人が。
「すご~い!!」
ユカは目をきらきら光らせながら言った。
「そんなに驚かないでください…」
マミリちゃんは顔を赤くしながら下を向いた。
「ユカ、もう行くぞ」
「えっ、ちょっと!!」
俺はユカの手を引っ張ってその場を後にした。
「また聴かせてねマミリちゃん~!!」
ユカは手を振りながら笑顔でそう言った。
【キィー!】
俺達は宿に戻り、中へと入った。
「もっと聴きたかったな~」
「あんまり邪魔するのはよくないだろ?」
「それはそうだけど…」
ユカは頬を膨らませながら言う。
「おかえりなさい…何かあったのですか?」
階段から下りてきたバムは、俺達のほうに歩み寄りながら不思議そうにそう言った。
「聞いてよバムさん!ルイ君に実は彼女がいたのよ!!」
ユカはバムの元に駆け寄りオーバーリアクションをしながらバムに説明をする。
「ほ~、それは実に興味深いですね」
「それでその邪魔をしようとしたらミキスが私を止めてね!」
「それは信じられませんね」
なんで俺は悪かったみたいな雰囲気になっているんだ?
【カーン!カーン!カーン!!】
その時だ、外から鐘のなる音が聞こえてきたのは。
「ん、何の音?」
ユカは驚き、辺りを見渡していた。
「警報だな、村に何か起こったんだろう」
ただ事じゃないぞこれは。外から声が聞こえる…何て言ってるんだ?
「…盗賊が…盗賊が現れたぞ…」
盗賊…まさかあいつらじゃ!!
【バタン!!】
俺は宿を勢いよく飛び出した。
「ミキス!!どうしたんだろうミキス、血相変えて飛び出しちゃったけど」
ユカは心配そうにバムのほうを向きながら言った。
「先ほど外で『盗賊』という言葉が聞こえました」
「え、じゃ盗賊がこの村を襲撃してくるの!?」
「分かりません、とにかく我々も行きましょう」
「そうね!」
ユカとバムも宿を後にした。
▽
「みんな早く家に入るんだ!!」
「食料をできるだけ隠すんだ!!急げ!!」
村にいた人々は混乱の中、村の中を駆け回っていた。これじゃあいつらの居場所が分からない、あそこで誘導している人に聞くか。
「すいません、盗賊はどこの門から来ているんですか!!」
俺は誘導をしている人の元に駆け寄りそう言った。
「え、西の門から来ているみたいだが?」
「ありがとうございます」
俺はそれを聞くとすぐさま西門のほうへ走り出した。
「あ、ちょっと君!?どこに行くつもりだ!!」
あいつだ、あいつに違いない。今行くから待っていろ!!
「おらおら、怪我したくなければおとなしく食料を出しやがれ!!」
剣を手にしている男は村人に大声を張り上げていた。
「うぅぅ、え~んえ~ん!!」
「ほら泣かないで。飴ちゃんあげるからねー」
もう1人の背が高く狐目の男は、村人達に恐怖を持たせないように気を配っていた。
「ギーリス!子供なんかかまっている場合じゃねーだろうが!」
バーガスは剣を振り回しながら言った。
「バーガスの方こそ、村のかたがたを怖がらせないでください。皆さん大丈夫ですよ、食料を少しもらったらすぐに帰りますので」
「ふん!!ほら、さっさとはこばねぇか!!」
剣を持っている男は威張りながら手下に食料を運ぶよう指示していた。
【ヒュー!ブシュュュ!!】
「うわ!!」
その時、食料を運んでいる男達を風の刃が襲った。
「なに!?どうなってやがんだ!!」
バーガスが辺りを見渡す。
「この攻撃はまさか!?」
ギーリスも続いて辺りを見渡す。
「はぁ、はぁ…」
間に合った。
「バーガス!!ギーリス!!」
俺は盗賊の名前を叫んだ。
「なんだミキスじゃねーか。なんの用だ!!」
バーガスは大声で叫ぶ。
「お前らを倒しにきたに決まっているだろ!!」
「ほざけ!!」
【チャキン!】
「皆さん、ここは危ないですから逃げてください」
バーガスが剣を抜くとギーリスが村の人を避難させた。俺も戦う体制に入った。こいつらを倒して後であいつを…ダガスを倒す!!
「行くぞ!!ミキス!!」
【シュッ!シュッ!!】
「くっ!」
「剣を避けても体ががら空きなんだよ!!」
【ドコッ!!!】
「ぐはっっ」
バーガスの剣を二回よけたところで膝蹴りが俺のみぞおちにクリティカルヒットした。くっ、膝が落ちる!
「ちゃんと立ってろよ!!」
【ボコッ!!】
「ぐっはっ…」
膝が落ちると思った瞬間、バーガスのアッパーが見事に入り無理やり立たされた状態になった。くそっ、あごに入れられたせいで足がふらふらする。そんなチャンスを逃すわけはなく、バーガスはすぐにも斬りかかってきた。
「これで最後だ!!」
まだだ!!まだ…
「負けられないんだぁぁぁ!!風翔激滅波!!」
「ぐわ!!なんだ急に!?」
こんなところで、こんなところで!!
「うぉぉぉ!!風翔激滅波!風翔激滅波!!風翔激滅波!!!」
「風翔激滅波の乱打か…相変わらず風の力だけはすごいみたいだな、だが!!」
【タッタッタッ!】
突っ込んでくる!?
「そんな気が狂った撃ち方じゃ軌道だって読めるんだよ!!」
「なに!?」
間合いをつめられた!?
「射程距離だ」
【ブシャ!!】
「うわぁぁぁ!!」
バーガスの剣は見事に俺を切り裂いた。俺は傷口を押さえながら地面に膝をついた。
「そこでおとなしくしてるんだな」
バーガスはそういうと手下の元に返っていった。くそっ、負けるか…負けてたまるか…あの時の子供のためにも、俺は…俺は負けられないんだぁぁぁ!!
【フゥゥゥゥゥゥ!!】
「うおぉぉぉぉ!!」
「な、なんだ!?風が吹き荒れてやがる!!」
体から力が…力がみなぎってくる。これならやれる!!
「風翔激滅波ぁぁぁ!!」
「何だと!?」
俺は今までに二倍、いや三倍近くの大きさと威力の風翔激滅波を放った。でもこの攻撃はただの目くらまし、本命は!!
【ブシャャャャャ!!】
「ぐっ!!いくら威力があっても、あたらねえと意味はねえんだよ!!」
「はぁぁぁ!!」
「何!?」
風翔激滅波で起こした土煙で気を取られているうちに、俺は一気に間合いをつめ土煙を突っ切りバーガスの真正面に出た。
「(あれはおとりか!?)くそぉぉぉ!!」
「遅い!!断ち切れぇぇぇ!!風殺滅流斬!!」
【ザクッッッッッ!!】
「ぐはっ!!」
「どうだっ!!」
俺の風殺滅流斬は見事に当たり、バーガスは深手を負った。
「ぐはっ、くそっ…」
「バーガス!大丈夫ですか!!」
ギーリスは急いでバーガスに駆け寄る。
「だめかもしれねぇな」
「馬鹿なことを言ってないで今は引きますよ」
「ああ」
ギーリスは倒れているバーガスを馬車に乗せると、手下に頭のところに向かうように指示をした。
「バーガス!!ダガスに伝えろ!!『明朝、西門で待つ』とな!!」
「…わかった」
【ガタガタガタガタ・・・】
その言葉を言い残し馬車は去っていった。今度こそ、今度こそ決着をつけてやる!!
【タッタッタッ!】
「はぁはぁはぁ…やっと…ついたね」
ユカは膝に手を付きながら言う。
「こちらの門だったとは不覚でした」
盗賊がいる門とは逆の門に行ってしまったバムだったが、息切れひとつせず冷静に答えた。
「盗賊はどこなのミキス!?」
「倒し…」
【バタッ!】
ユカの声がしたとき、俺は意識をなくし地面に倒れていった。
「どうしたの!?ミキス!!」
ユカは倒れた俺に駆け寄ってくる。バムもその後に続き駆け寄ってくる。
「怪我をしているみたいですね、早く手当てしないと」
「うん、わかった」
決着を…仇をとって…
▽
「…ここは?」
気づくと俺はベッドに横たわっていた。
「ルイさんの宿ですよ」
俺が寝ているベッドの横の椅子にバムが座っていた。外はすっかり暗くなっている。
「怪我のほうはわたしが治しておきましたから」
「そうか…ありがとう。バム悪いんだけど一人にしてくれないか?」
「…わかりました。用事があるなら呼んでください」
「ごめん、ありがとう」
【キー…バタンッ】
部屋を出て行くバムを見届けてからベッドの横にある剣を手に取り気を静めた。もうすぐだ、もうすぐあいつと…
それからどれくらい経っただろうか、外が明るくなってきたことに気がついた俺は、ベッドを降りドアへと向けた。決着をつけなきゃいけないんだ。前回のようなことには絶対させないために、俺は…
【キーバタン!】
「どこに行かれるおつもりですか」
ドアを開けるとそこにはバムが立っていた。
「…決着をつけてくる」
「止めはしませんが無理はなさらないように」
「わかってる」
【トントントントン】
俺はバムの顔を一回も見ず階段を下りていった。
「今のあなたではダガスに勝つことはできませんよ」
▽
俺は西門に向かっていた。もうすぐ完璧に日が出るな。終わらせないと、俺の風の力で全部…
「おはようございますミキスさん」
聞こえてきた声の方を見てみると、そこには花に水をやっているマミリちゃんがいた。
「険しい顔をしていますが何かあったのですか?」
「いろいろと。悪いけど急ぐから…」
マミリちゃんの顔を見ず、俺は西門へと急いだ。
「熱い…熱いよ…」
「待っていろ!今行く!!」
【ザクッ!!】
「何…?」
門のところにはバーガスとギーリス、そしてもう一人大柄の男が立っていた。
「まだ生きていたとは驚きだな、ミキス・クロウディ」
俺の名を呼んだこの男、こいつこそが盗賊壇のかしらダガスだ。
「そんな減らず口たたけるのも今のうちだ!!」
「威勢がいいこと。しかし、お前に恨みを買うようなことはしてないつもりだが?」
男は笑みを浮かべながら答える。
「黙れ!!燃えている家の前で戦ったときのこと、忘れたとは言わせない!!」
「引き分けたときのことか。そんなことで恨むとは…剣士として失格だな」
「うるさい!!」
【チャキン!!】
「ここで終わらしてやる!!」
「仕方ないな」
【チャキン!!】
ダガスも腰の剣を鞘から抜く。
「行くぞ、ダガス!!」
「こい、ミキス・クロウディ!!」
一気に終わらせてやる!!
「風翔激滅波!!」
「またその技か、相変わらずだな!!」
「乱れ撃ち!!」
「なに!?」
無数の風翔激滅波がダガスを襲う。
【ブァァァゴォォォン!!】
これだけの攻撃だ、いくらダガスでも終わりのはずだ。土煙が消える…た、立っている!?しかも無傷じゃないか、どうして!?
「どうした、これで終わりか?」
「くっ」
「なら、こちらから行くとするか!!」
【タッタッタッタッ!】
突っ込んでくる!?なら!!
「風翔!」
「構えが遅い!!」
懐にもぐりこまれた?これじゃ風翔激滅波が打てない。
「判断力も遅いな」
【ザクッ!】
「ぐわぁ!!」
何とか直撃を間逃れた、とにかく距離をとって体制を整えないと。
「風を読んで何とか直撃を間逃れたか…だが、今のお前では俺には勝てない。どうする?」
「お前を倒す!それだけだ!!」
「威勢がいいな…何がお前をそんなに掻き立てる!!」
「自分の胸に聞いてみるんだな!!風翔激滅波!!」
【ブシャャャ!!】
「無駄だと言うのに…なに!?どこに消えた!?」
「上だ!!」
「なに!?」
「風翔激滅波!!」
「甘いと言うのに!!」
【ドコォォォン!!】
横飛びで避けた!?なら着地と同時に…
「風殺滅流斬だ!!」
「くっ!!」
【ブシュュュ!!】
「これしき!!」
避けられた!?ならもう一度!!
「断ち切れぇぇぇ!!風殺滅流斬!!」
【ブシャャャ!!】
「くっ…」
当たった!よしもう一度…あれ!?手が、手が動かない!?
「ふっ、自分の力のことを忘れているんじゃないのか?」
「な、に?」
「お前の力は物に秘められた力を解放して使っているわけではない。お前の体の中に存在している力を解放して使っているはずだ。ゆえに、気がなくなればそうなる…これぐらい、予想がついたはずだ」
「なんで俺の能力のことをそこまで」
「いろんな情報を集めているんでな。仕掛けてきたのはお前だ、悪く思うな」
【ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクッッッ!!】
「秘儀・十連斬」
「ぐはっ…」
ダガスの十連続の斬激は俺の身体に見事に命中した。
【バタッ!】
「終わりだ…」
く、苦しい…死ぬのか、俺…は…死ねない…あの子のために…俺は死ねない!!
「帰るぞ」
「頭…」
バーガスは青ざめた顔でダガスの後ろを指差した。
「どうしたバーガス」
「ミキス立ちました」
「なんだと!!あれだけの攻撃を食らってまだ立てるというのか!?」
勝負はまだ付いていない。
「勝負は…これからだ!!」
【ブワッ!!】
「くっ(体から気が漏れ出しているだと!?)」
「うおぉぉぉぉぉ!!風翔激滅波!!」
「ぐっ!!さっきまでと威力がけた違いだ」
「まだだ!!風翔激滅波!!」
「なに!?」
「風翔激滅波!!風翔激滅波!!風翔激滅波!!」
「ぐっ…あんな強烈な風翔激滅波を何発打てるというんだ。も、もう耐えられない…」
【ドサッ!】
膝が落ちた!!俺の中の最大の技であいつを倒す!!
「死ね!!風暴玉砕弾!!」
【シュゥゥゥ!!】
「竜巻を凝縮させた玉か…さすがに無理だな」
【ブッッッゴォォォォォォ!!】
「がはっ…」
「あの子の仇だ…風殺滅流斬!!」
「仇…だと?」
「うぉぉぉぉぉ!!」
【タッタッタッ!】
その時、誰かが俺とダガスの間に飛び出してきた。
「頭をいじめちゃだめぇぇぇ!!」
「ミク!?どけ!!」
「(あのときの子!?どうして!!)も、もう止められない!!」
「ゴーレムさん!!お願いします!!」
でかい岩の手の平が目の前に!?
【ドコォォォーン!!】
▽
「ミキス!!ミキス!!起きてミキス!!」
目を覚ますとまたしても俺はベッドに横たわっていた。
「う…ユカ?」
ベッド横の椅子に座っているユカが心配そうな顔で俺の顔を見ていた。
「やっと目が覚めた?」
「俺…確かダガスと戦って…どうなったんだ?そうだ、あの子は!?あの子はどうした!!」
「隣の部屋にいるわよ。バムさんに感謝しなさいよ、倒れるまでミキスの怪我を治したんだから」
本当だ、怪我が治ってる…
「ひん死の状態だったんだから。心配しちゃったわよ」
「悪い…ダガスはどうなったんだ?」
「隣で寝ているわ」
「そうか…」
あの時俺とダガスの間に割って入ってきたのは間違いなくあのときの女の子だ。でも何で…
「しかし驚いたわよね~」
「なにが?」
「なにがって…覚えてないの?」
「なにをだ?」
「あなたの攻撃を止めたのはな~んだ?」
ユカが人差し指を俺のほうに差しながら言う。
「…岩の手の平?」
「そっ、しかもゴーレムのね」
「ゴ、ゴーレムだって!?地の神のゴーレムのことか!?」
「そうよ。ほんと、驚きよね~」
あんな子がゴーレムを…いや、それより今は確認しないといけないことがある。
「…ユカ、手を貸してくれないか?」
「どうしたの?」
「ダガスのところに行きたいんだ」
「…」
ユカは悲しい表情でうつむいた。あの戦いの後だ、こんな表情をされても仕方が無いな。
「大丈夫。戦いは終わった、戦いはしないよ」
「…わかったわ」
ユカの肩につかまり、ふらつきながら部屋を出た。話さないと、あの子の事を。
「頭、大丈夫なの?」
小さな女の子がベッドに座っているダガスに問いかける。
「ああ大丈夫だ。少し疲れているだけだよ」
「よかった!」
【コンコン!】
「開いている」
返事を聞くとユカはドアノブに手をかけた。
「失礼します」
【キィー!】
ドアを開けると、そこには小さな女の子とベッドに横たわっているダガスがいた。
「あー!!頭を殺そうとした!!」
あの時の子だ…よかった。
「…ミク。あのお姉ちゃんと遊んでおいで」
「えー!?」
「いいから」
「ユカ、頼む」
「うん。無茶しないでね」
「わかってる」
ユカは俺を椅子に座らせると女の子の元へと向かった。
「ミクちゃん。お姉ちゃんとお外いこっか?」
「う、うん」
【キー、バタン!】
2人は部屋を後にした。
「…さて、どういうことなのか教えてくれないか?」
「何のことだ?」
「あの子は死んだはずじゃ…」
「あの時の事を勘違いしているんじゃないか?」
「あの時のこと…勘違いなんかしていない!!お前らがあの屋敷に火をつけ、後ろから斬られたことを!!」
「やはり勘違いしていたか。あの時火をつけたのは俺達じゃない」
俺達じゃないだと!?
「じゃあ…じゃ誰だって言うんだ!!」
「俺達とは違う盗賊団だ」
「嘘だ!!そんな…そんなわけがない!!」
「事実だ。確かにあの屋敷は狙った。だが汚い盗賊団が俺とお前が戦っている間に火をつけ、家族を殺して金目のものを盗んでいった」
「じゃあ…何であの子は助かったんだ?」
「屋敷の中にいたバーガス達が助けたんだ。親のほうは助けられなかったがな」
「…そうだったのか」
二年位前の事だ。ペルシニム王国の近くを通りかかった俺は、一軒の屋敷を見つけた。その屋敷を通り過ぎようとした時、俺は屋敷に忍び込む怪しい人影を見つけた。
それが俺とダガスの初めての出会いだった。
「大きいやしきだな・・・ん?人影?・・・怪しいな、行ってみるか」
『大きい屋敷』に『人影』どう考えても何かあるよな。俺は人影を追った。
「裏口はここか、バーガスとギーリスは組んで金目の物を探せ。俺は俺で探す」
裏口付近で話しているそいつらを見つけた俺は近づいて行った。
「お前ら何やっているんだ?」
「ちっ、見つかったか」
「お前ら…まさか盗賊か?」
「察しがいいな。バーガス、ギーリス、お前らは先に行っていろ」
「わかったぜ」
「お気をつけて」
指示を受けた2人は屋敷の中へと消えていった。
「見られたからには生かしては返さん!!」
「くっ、やるのか!?」
【チャキン!】
俺と相手はお互いに剣を抜いた。
「はぁぁぁ!!」
来る!!
【チャキン!】
は、速い!?今までの奴等とはケタが違う、一気に行くしかない!!
【チャキン!】
「距離をとるか!?しかし距離をとったところで…」
「かき消せ!!風翔激滅波!!」
【ブシャ!!】
「な、なに!?(刀から風の刃が!?)くっ!」
「避けられた!?」
これまで避けられるなんて。
「(今噂になっている風を操る少年か…だが、まだ剣の形がなっていない。今なら倒せる!)」
ん?なんだ?風に乗って焦げ臭いにおいが…屋敷からだ!!
「どこを見ている!ん?屋敷が燃えているだと!?」
「どうして!?」
「あついよ…あついよー」
「なに!?」
屋敷にまだ子供が残っている!!
「くっ、勝負は預ける!!」
「まて!!どこに行くつもりだ!!ちっ、とにかく助けに行かないと!!」
【ザクッ!!】
「な…に…!?」
「そんな必要はねえよ」
「くそ…」
その後、俺はペルシニム王国の兵士に助けられ一命を取り留めた。
「それでその盗賊はどうしたんだ?」
「見つけ出して王国に突き出した。たぶん処刑されているだろう」
「…」
しばらく沈黙が続いた。全ては俺の勘違いだったのか…ならやるべきことは1つだよな。
「…すいませんでした、俺のせいで」
「いいさ」
「でも!!」
「言うな。もう終わったことだ」
ダガスさんは俺の肩に手を置き、微笑みかけてくれた。
「ダガスさん、これからどうするつもりですか?」
「まだは考えていないよ」
「盗賊に戻るおつもりですか?」
「まだわからん。それに盗賊をやめてしまったら、ほかに生きる道がないしな」
「盗賊以外にも生きる道はたくさんあるはずです!」
「例えば何だ?」
「例えば!!…町を立ち上げるとか?」
「ぷっ、ははははっ!町ときたか。それもいいかもしれないな」
ダガスさんは笑顔を見せた後、どこか悲しい顔を見せた。
「ミキス、お前はこれからどうするんだ?」
「海を渡ります」
「何のために?」
「王の勅命を終わらすためにです」
「なぜ?」
「ほかの人が、危険にさらされないようにです」
「そのために自分の命を投げ出すというのか?」
「はい」
「ふっ、長生きせんぞお前?」
「承知の上です」
「ふふふ、ならば行くがいい、己の信じる道を!!」
「はい!」
俺はダガスさんに言ってもらった言葉を深く心に刻んだ。
▽
昼過ぎ、俺はユカに連れられ外に出た。外は前と変わりなく平然としていた。ユカから聞いた話では、「盗賊団は通りすがりの凄腕剣士によりボコボコにされ、心を入れ替えた」と言うことになっているらしい。俺達の事は秘密にしておいたほうがいいとバムが言ったからだ。確かにこんなところで名前を売ったら、王国にいた連中にすぐに見つかってしまって大変なことになってしまうからだ。
「あ、いた!」
「誰が?」
「今回のヒーローよ」
そこにいたのは花に水をやっているマミリちゃんだった。
「こんにちはミキスさん。お体はもうよろしいのですか?」
「おかげさまで。あの時はありがとう、止めてくれて」
「いえそんな。わたくしただ、人は殺しあうものではないと思っただけですから」
マミリちゃんは笑顔の中にどこか悲しい趣で答えた。
「ねぇマミリちゃん、ゴーレムを召喚したのは本当にマミリちゃんなの?」
「ええ」
「どうやってそんなことを…」
「このペンダントです。わたくしは古代に使われていた言葉を歌うことによって、ペンダントに封じ込まれている気を開放して、回復したりモンスターを召喚したりすることができるのです」
古代語というのは、遥か昔に神が人々に与えた一種の紋章術と言われているものだ。古代に使われていた言葉を喋れる人間がまだいるなんて、正直あまり信じられない話だ。
「どこで知ったんだい?」
「ゴーレムさんに教えてもらったのです」
「そうなのか…マミリちゃん、頼みがあるんだが」
「はい?」
▽
「それでは行ってきます」
あれから二日が経ち、バムが回復したので俺達は出発することとなった。見送りにはダガスさん、ルイ、マミリちゃんが来てくれた。
「お前は未熟だ。そのことを忘れるな」
「わかっています。早く怪我治してくださいね」
「言われるまでもない」
ダガスさんは松葉杖をながらそう言った。
「先輩、また寄ってくださいね」
「ああ、わかっている」
ルイは笑顔でそう言ってきた。
「それでは行きましょう、クロウディさん」
マミリちゃんはカバンを担ぎながら言った。その行動をルイが見逃すわけもなく、ルイはすぐさま反応した。
「先輩どういうことですか!?」
「頼んだんだよ、力を貸してほしいって」
「どうしてマミリさんなんですか!?」
「地の神の力を借りたくてな…」
「そんな…」
「大丈夫だ、俺が絶対に守って見せるから。ルイ、分かってくれ」
「先輩…分かりました」
ルイはマミリの元へと近づいていった。
「マミリさん、お気をつけて」
「はい」
「花の水遣り、僕が毎日しておきますから」
「ありがとうございますルイさん。それでは、行って参ります」
「はい!」
ルイは笑顔でマミリちゃんを新たに加えた俺達を見送ってくれた。