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あれから半日、何回かモンスターとの戦闘があったが、俺達は無事に次の村『シスル村』に到着した。
無事に村に着いたこと…それも大事なことだ。だけどそれよりも、モンスターとの戦闘中のバムのことの方が大事だと俺は思う。ユカのカード魔法の威力はペルシニム王国で見たから知っていたけど、バムの槍を使った攻撃は魔法よりも凄まじいものがあった。一瞬のうちにモンスターを抹殺するその姿は、鳥肌が立つほどだった。ペルシニム王国を出たときのあの言葉、「背中の槍は飾りじゃないですよ」は嘘ではなかった。俺が旅をしていた中で、これほど強い奴とはあったこともないし、聞いたこともない…バムはいったい何者なんだろうか。
「自然があふれていてとってもいい村ね」
ユカが背伸びをしながら言った。
「それがこの村のいいところなんだ、昔から」
「昔から?ミキスはこの村の生まれなの?」
ユカは不思議そうに聞いてくる。
「ん~、一応そうなるかな」
俺の生まれた場所か…だめだめ、暗くなっちゃ。今はそんな場合じゃない、そんなこと考えている余裕はないんだ。ん?あそこにいるのはまさか。
「お母さん?」
俺は買い物かごを手にしている女性に問いかける。
「え?ミキス?ミキスじゃない、帰ってきてたの!?」
そう、この人は今まで俺を育ててくれた人、つまりお母さんだ。
「うん、今帰ってきたところ。お母さんは買い物の帰り?」
「そうなの、野菜を買いにね。ミキス、そちらのかたがたは?」
お母さんは俺の後ろにいる2人を見ながら言った。
「はじめまして。私、ユカ・ユミニイスといいます」
「バム・バッシュと申します」
お母さんは笑顔でそれに答える。
「はじめまして。ミキス・クロウディの母、シュトル・クロウディです。よろしく」
挨拶もつかの間、俺は急ぐためお母さんに事情を説明する。
「ねぇお母さん、帰ってきてすぐで悪いんだけど、ゆっくりしてられないんだ。またすぐ旅に出ないといけない」
「そうなの…わかったわ。体には気をつけるのよ」
「わかってる。それじゃ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
笑顔で見送ってくれるお母さんを背に、俺達はシスル村の西出入り口に向かった。
「ミキスよかったの?少しぐらいゆっくりしていけばいいのに」
ユカは心配そうにそう言ってきた。
「これでも二週間に一回は帰っているから大丈夫。それに、お母さんもたぶん分かってくれるから…」
「大丈夫ですよミキスさん」
俺とユカが並んで話している後ろから、バムが笑顔で言ってきた。
「お母さんはあなたのことを分かっています。だからこそ笑顔であなたを旅に送り出せるのですよ」
「そ、そうかな?」
「ええ。あなたのお母さんの目は、そういう目をしていました」
そういう目、か…
「ミキス、出入り口ってここ?」
ユカの声が考え込もうとしていた俺を正気に戻した。
「え!?ああ、ここだ」
話しているうちに俺達は西出入り口に到着していた。この西出入り口は右と左に分かれていて、右は断崖絶壁が続くギス山脈の入り口、左は植物モンスターが出るシビスの森の入り口だ。
「この先の道どっちに行けばいいのかな?」
ユカは分かれ道の真ん中で悩んでいた。
「山脈と森、どちらにせよ険しい道ですね」
バムの言うとおり、楽な道なんてない。だけどこのどちらかを通らないと、次の村にたどり着くことはできない。ここはいつもどおり左に行こう。
「シビスの森を抜けて行こう。シビスの森は俺の庭みたいなものだから抜け道を知っているんだ」
するとユカは俺達二人の前に飛び出し、笑顔で俺達を呼ぶ。
「そうと決まれば行こ!早くしないとまた襲われちゃうよ!」
「そうだな、行こう!」
俺達はシビスの森に足を進めた。
▽
おかしい、空気がよどんでいる…この森の空気がこんなによどんだことは一度もなかったのに。
「なんだか薄気味悪いね」
ユカが身体を震わせながらそう言った。身体が震えるのはよく分かる、俺の身体も少し震えているからな。なんなんだ一体、この恐怖を感じる空気は。
【ゴゴゴゴゴゴッ!!】
「キャッ、何よこの揺れ!?地震?」
ユカは驚きその場に倒れこんでしまう。
「大丈夫かユカ!!」
「うん平気」
こんな時に地震が起こるなんて…いや違う、地震じゃないぞこれは!?
「バム、これは一体?」
「ミキスさん下から来ます!!」
「下!?」
バムの言葉の後、俺は下に目をやる。すると地面は盛り上がり、何かが出てくる気配を感じた。
「みんな避けろ!」
【バァァーン!!】
「あれは!?」
避けた地面から飛び出したのは、植物モンスター『ジュール』だ。でもあの大きさは!?
「この大きさは以上ですねミキスさん」
バムは槍を手に戦闘体制に入りながら言う。
「ああ、俺もこの森でこんなに大きなジュール見たのは初めてだ。くるぞバム!!」
【ブシュブシュブシュブシュ!!】
ジュールは蔓を何十にも重ね、そしてねじり刺してきた。こんなのに刺されたらひとたまりもないぞ。とにかく攻撃だ。
「かき消せ、風翔激滅波!!」
【シュルシュルシュル・・・】
「なに!?」
蔓で壁を作り出した!?
【ブシャッ!!】
蔓で俺の風を防ぐなんて!くっ、また来る!!
【シュッシュッシュッ!!】
「くっ、くそっ!!」
いつまでも避けてられない、どうすればいいんだ。
「ミキスさん、攻撃手段が見つかりました」
同じく攻撃を避けていたバムが、ジュールのほうを見ながら言う。
「本当かバム!?」
「あの蔓は攻守共に完璧です。しかし、頭はがら空きのようです」
「そうか、そこを攻めれば!!」
「ええ、あのデカ物を倒せるかもしれません」
「よしやってみよう。バムとユカはおとりを頼む。その間に俺が攻める」
「わかりました。ユカさん!!」
バムがユカの方に目をやったとき。
「きゃ!わっ!た、た、たすけて~!」
ユカは悲鳴を上げながら、必死でジュールの蔓攻撃を避けていた。
「…まあ、あれはあれでおとりになっているか」
俺は戦闘中ながらも、少し呆れた顔でユカを見ていた。
「そうですね…それではいきましょうかミキスさん!」
「ああ!」
風を足に集中させて通常以上に跳ぶ!!
【ブシュー!!】
「行きます。一ノ突き、衝撃突!!」
『衝撃突』とは、突進により発生した衝撃波で敵を吹き飛ばす技。前の戦いで見たときはビジュック三匹を吹き飛ばしていた。
【ブシュッ!!】
「くっ、やっぱりだめですか」
バムの技は鶴の壁により防がれてしまった、だけどジュールの意識はバムのほうに向いている。今だ!!
「風翔激滅波!!」
【ドバァァァン!!】
風翔激滅波は見事命中し砂ぼこりが立ち込めていた。やったか?
【シュルシュルシュル!】
鶴が襲ってくる!?まだ生きているのか!?
【ブシュブシュブシュブシュブシュ!!】
「ミキスさん!!」
バムが俺のほうを見ながら叫ぶ。
「うわぁ!!」
鶴は俺の体をかすめていく。でもこんなことでしりぞいてられない。風翔激滅波で倒せないならそれより強力な技、『風殺滅流斬』で決めてやる。風殺滅流斬は剣に風をまとわせて切り裂く接近技。ダメージ覚悟で行くしかない。
「うおぉぉぉ!!くらえっ、風殺滅流斬!!」
【ザクッッッッ!!】
「や、やった…」
縦に斬れたジュールは地面に倒れていった。
「大丈夫ですかミキスさん」
バムはすぐさま俺のほうに駆け寄ってきた。
「あんまり」
「まったく、今からリカヴァリィをかけますので動かないでください」
手をかざした場所から傷が引いていった。回復魔法を使える者はほんの一握りしかいないということを聞いたことがある…なんでバムが使えるんだ?
「治りましたよ」
「あ、ありがとう。そうだ、ユカは?ユカ!!」
「は~い、ぶじで~す」
ユカはペタンコ座りをして手を振りながら俺の声にこたえた。ユカを見つけた俺は、急いで駆け寄り手を差し出した。
「立てるか?」
「うん、ありがとう。よいしょっと」
「よし、急いで森を抜けるぞ」
「うんうん。こんな危ないところ早く抜けよ!」
ユカが首を大きく縦に振って答える。
「バムいくぞ」
「わかりました」
俺とユカはそそくさとその場を離れた。しかしバムはその場を動こうとせず、戦闘体制のままその場に立ち尽くしていた。
「あれが、風の力ですか。トゥールマジックとはまた違う力…本当に興味深いですね」
【ドドドドドッ!】
そのとき、バムの後ろからまるで地震のような足音が聞こえてくる。
「しかしだめですねミキスさん。こんなことではこの先が思いやられます。さすがにわたし一人ではマグレス山脈にたどりつくことはむずかしいですからね、もう少しがんばってもらいませんと」
【ドドドドドドッ!!】
その足音はどんどんバムに接近してくる。
「どうやらさっきのモンスターのお仲間がきたみたいですね。大きいサイズが五体…仕方がありませんね」
バムはポケットからメガネを取り出した。
【ザクザクザクザクザク!!】
「一ノ斬り、激流乱舞」
【ドサッドサッドサッドサッ!!】
「やはりメガネがあるとないとは大違いですね」
ジュールは一瞬のうちにバラバラになっていった。
「巨大化現象と今回の勅命。なんらかの関係があるのかどうかを調べないといけませんね」
▽
森を抜けたころには日が落ちかけているところだった。ジュールのおかげで時間が大幅に遅れてしまったな、仕方ない。
「今日はここで野宿するか」
俺はカバンを地面に置いた。
「でも誰が準備するの?」
ユカもカバンを置き、俺に尋ねてきた。
「準備は俺がやるよ。野宿なんていつもやってるから慣れてるんだ」
「なら、わたしも手伝いましょう」
バムもカバンを置きながらそう言った。と言うわけで準備をするのは俺とバムに決定した。俺達は早速準備に取り掛かった。俺はカバンからヒノの木の欠片を取り出しこすった。ヒノの木を削った欠片は、こするだけで火がおこる特殊なアイテムである。旅人が必ず持つアイテムの一つで、炎系のトゥールマジックを持ってない旅人の必須アイテムである。
俺達が準備をしているとあっという間に夜になっていた。ユカが料理をしたいと言い出したので料理担当はユカになった。
だけどまさかシビスの森があんなことになっていたなんて。村は大丈夫なんだろうか?いったいこの世界でなにが起ころうとしているんだろうか?この旅の終わりに何が待っているのか?考えても分からないことが多すぎる…
「出来ましたー」
ユカの大きな声が俺の耳に入ってきた。料理が出来たみたいだな…考えるのは後にして、とにかく今は食べよう。
「ボリューム満点『トリトルスープ』はい、バムさん」
「ありがとうございます。鳥のスープですか。いいにおいですね」
バムはユカからスープ入りのお皿を受け取った。俺のところまでスープににおいがしてくる…ん~、いい香りだ。
「これはミキスさんの分」
ユカはスープの入ったお皿を俺にも手渡す。
「ありがとう。それじゃいただきます…うまい!ユカって料理うまいんだな」
「えへへ、ありがとう」
ユカはほほを赤らめて笑った。
「いいお嫁さんになりますね」
「ば、バムさんからかわないでくださいよ!」
バムが言った言葉の後、ユカはさらに顔を赤くした。何をそんなに恥ずかしがっているんだろか?
▽
俺は岩の上で周りの景色を見渡していた。バムと交代しながら見張りをすることになり先に見張りをしている。
目の前には月の光に照らされた草原が見える。いつもはモンスターがいる草原だが、月の光のおかげで今まで見たことのないほどの美しい景色に変わっている…いい景色だ。しかし今日はいろんなことがあったな。王からの勅命、狙われる命、巨大化していたモンスター、今までで一番疲れる一日だった。だけどこれからもっと大変になっていくはず。マグレス山脈…旅を始めてもあそだけは避けていた場所だったからな。生きて帰れるよな、俺達。
「ふにゃ~」
『ふにゃ~』??誰だこんなこと言うのは!?
「むむぅ~。あっ、ミキスさぁ~んまだ起きてたんですか~?」
ユカか、良かったバムじゃなくて。バムがもし『ふにゃ~』なんて言っていたら…う、想像するのは無理があったか。とにかくいまはユカだ。
「どうしたんだユカ?」
俺は眠気眼のユカに問いかける。
「む~、わかんにゃい~」
は~、完璧に寝ぼけているな。仕方ない起こすか。こんな状態でいられたらこっちが持たない。
「起きろユカ!!」
「ふに~…ん?ミ、ミキス!?え、あれ、私何で起きてるの?」
ユカは慌てながら辺りを見渡した。
「寝ぼけてここまできたみたいだぞ」
「え、うそまた…」
「また?」
いつもなのか、いつもあんな寝ぼけ方をしているのか?
「あはは。あ、そうだ、なにか話さない」
あ、はぐらかされた。
「別にいいよ。でも、明日早いから寝といたほうが…」
「よいしょっと」
ユカは俺の言葉を無視して岩を登り座り込んだ。
「いま少し寝たから大丈夫」
大丈夫って…ホントかな?
「で、なんの話をするんだ?」
「そうね…何歳くらいのときに旅に出たかってゆう話なんてどう?」
「ふむ、何歳くらいの時だっけな」
俺は旅立ったときを思い浮かべながら考え込む。
「…たしか、十二歳くらいだったかな」
「十二歳!?四年間も旅をしていたの!?」
ユカは目を大きく開けながら驚いていた。
「それくらいになるかな」
「よく1人で旅に出ようなんて思ったわね」
「旅に出るのに年齢なんて関係ないよ。それに目的のために早く行動したかったし・・・」
「目的って?」
「…本当の親を探すっていう目的」
「本当の親って…シュトルさんは本当の親じゃないの!?」
「聞いた話では、二歳くらいのときシビスの森の入り口で俺は拾われたらしいんだ。それで、今のお母さんが育てるということになったってこと」
「…ごめんなさい、変なこと聞いちゃって」
「いいよ、別に今のお母さんが嫌いってわけじゃないし。それに本当の親を探しているおかげで、旅に出ていろんな経験ができているわけだし。だから気にしなくていいよ」
「うん…わかった」
「そうだ。俺ばっかりじゃなくてユカの事も教えてくれよ」
「それは乙女のひ・み・つ。もうそろそろ寝よっかな」
ユカは岩を降りて寝床に走っていった。
「おやすみ~」
なんなんだよ…ま、いっか。とりあえず見張りを続けよ。満天の星空の下、俺は見張りを続けた。




