第1話 常勝の終焉
第一話 常勝の終焉
天正10年 6月 上野国
ここに来た時からわずか数か月、織田軍の関東方面軍は危機にある。
一度は、不可侵の間柄であった関東の大名“北条氏政”の軍勢が迫っている。
近いうちに来ることはわかっていた。
織田家の総帥たる存在である“織田信長”、さらに織田家当主たる存在“織田信忠”が京の都にて死去したのである。
いくら関東が遠方で時間がかかったとしても、自分達が知ってからそう遠くないうちに知るはずであった。
関東入り後に味方した将たちには既に預かっていた人質と共に帰国を許可し、あとは上手く逃げれば良いだけ。
「左近殿。」
声をかけてきたのは妻子を先に返し、自らは退路を導くと言ってくれた真田安房守である。
「左近殿、まもなく上信の国境、碓氷峠を越えます。」
声に反応し、一息つく。
「安房守殿…かたじけない。」
碓氷峠…すなわち、上野信濃の国境地帯である。
一時期、北条と接し、沼田周辺まで領していた真田もこの時は劣勢。
「なんの…。武田が滅び、運命を共にすることも考えた当家からすれば、この程度の窮地は大したことない。」
後に"表裏比興の者"、"天下人の天敵"と恐れられた男からすれば、この程度は大したことないということか…。
「それに、峠を過ぎれば、小諸城にて一息付けます。左近殿はとにかく西に退くことを考えられませ。」




