第十二話 従者ケロベロス
俺は何が起こったのか分からなかった。だって、ついさっきまで魔物相手に無双していた義母さんが、
今は、血だまりに沈んでいるのだから。
「か、義母さん!」
俺は義母さん目掛けて飛び出そうとし、次いで亜人の女性に腕を掴まれる。
「おい、放せよ!」
「...それは、出来ません蓮様」
彼女は気絶している奏を空いた腕で掴むと、<テレポートスキル>を使ってルルカ村付近の森に転移した。
「なっにしやがんだてめぇ!」
俺の<テレポートスキル>のリブートには後、三時間。あの草原までは一日以上かかる。
もう、いくら急いでもあの怪我では手遅れだ。
俺は亜人に掴みかかる。
が、彼女の瞳には涙が浮かんでいて、面食らう。
「う、うぅぅぅ。わ、私だって本当はこんなことしたくなかった。
けど、薫様に頼まれたから、蓮を巻き込まないでって、
あの子には普通に生きていてほしいって言われたからぁ」
そう言って彼女は泣き出した。俺だって泣きたいのに。
気が付くと、涙が止めどなく溢れだした。
「...ごめんよ。俺、変に意地張って、母さんってよべなくてごめんよぉ」
...そして、また転移したが、そこには血だまり以外なにも残ってなかった。
...一条薫も、あの魔物も。