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掘り起こしちゃいけない昔の話  作者: 鈴宮ハルト
4/10

どんずるぼう

挿絵(By みてみん)

どんずるぼう入口

 大阪府南河内から奈良に抜ける竹内峠(武内?)の途中だったと思うが、『どんずるぼう』と呼ばれる場所がある。



 ここは終戦間際、アメリカ兵に蹂躙されるくらいなら・・・と、若い女性達が身投げをした場所だと先輩からは聞いていた。実際に防空壕があり、ここでは大勢の人がお亡くなりになっているそうだ。


 絶対に遊び半分で行ってはいけない場所だ!

と、先輩からは聞いていた。ゴツゴツと白っぽい岩肌が切り立つ山で、夜に行くとかなり怖い心霊スポットだった。


 当時友達の間では、丑三つ時にそこへ行き『肝試し』をするのが流行っていた。ゼミの何人かは実際に幽霊を見たと言っていたが、俺はまだ幽霊を見た事がない。怖いもの見たさで深夜の『どんずるぼう肝試し大会』を企画した。



 で、そのメンバーはと言うと?

例の不思議ちゃん"あっくん"と、その友達だけ・・・

流石に『どんずるぼう』はハードルが高かったようで誰も集まらず、俺の企画に集まってくれたのは彼女たち二人だけだった。昼間の内に下見に行って所有時間とルートの確認までしたのに、予想外に反響がなくてとても残念な気分になった。


ーーーん~、まっ イイかっ!


 丑三つ時に到着するタイミングで車を走らせ、どんずるぼうへと深夜のドライブだ!友だちと紹介された娘は普通に可愛いかった。


 予定通りに目的地に到着。

階段の入り口付近に車を停め、懐中電灯を片手に奥へと続く300メートルほどの階段を上る。20分ほどで『どんずるぼう』の説明が書き記された看板がある少しだけ開けたベンチがある場所に到着した。かなり珍しい地形で、天然記念物の指定を受けていたように思う。看板に書かれた内容は幽霊の説明ではなく、もちろんこの土地についての説明だ。


 ここから奥に行くと防空壕の跡がある。

入れる壕はひとつだけで、他の入口は雨水が溜まって水没していたり、牢屋みたいに木の格子があって入れなくなっている。その場所に行くには獣道に近いようなルートを通るが、人数が集まらなかったので今日は行くつもりはなかった。


 正直、三人だけで入るには少々怖すぎる場所だったし、そんな所にあっくんを連れて行けばまた何が起こるか分からない。彼女が参加した時点で、防空壕に入るのは諦めていた。



 暗い事もあり、この位置からだと何も見えない。

少し歩いた場所から、月の明かりに照らされた岩肌の上の部分が見えるだけだ。ゴツゴツして足場の悪い岩場を少しだけ探検していると、今回初対面のあっくんの友達という娘が帰りたいと言い出した。



ここじゃ何も見えんし、何も出んわなぁ~

防空壕はあいつがおったら行けれんし・・・


つまらん・・・

友達が帰りたい言うんじゃ仕方ないか・・・



 女の子のノリも悪いし、これ以上滞在しても意味がないと諦めた。車が停めてあるところまで戻る事にして階段を降りる。写真は流石にヤバい気がしたので一枚も撮ってない。念の為に御守り持参で来たが、必要もなさそうな普通の夜の雰囲気だ。


 俺に霊は見えないが、悪い場所だけは分かる。

今までもずっとそうして来たが、本当にここはマズいと思える場所には近づかないで来た。下見の時に防空壕へも行ったが、昼間見た感覚だと幽霊なる者が居る雰囲気はなかった。出るとしたら夜だが、それを確かめる気にはならなかった。なぜなら、あっくんがいるからだ。



「フッ」


階段を降りていると急に懐中電灯のタマが切れた。


「あれれ?切れちゃたよ?」


 そう言いながら、後ろについて来ているあっくんとその友達の方を振り返ろうとしたその時、



「だめ!振り返らないで!!

後ろについて来てる!刺激しないようにゆっくり歩いて!」


あっくんが小声だが強い口調でそう言った。

友達は震えた声で、


 やめて・・・

 やめて・・・

 やめて・・・


を繰り返し「来ないでよぉぉ〜」と耳を塞いだ。

冗談かと思ったので、俺はそれほどビビっていない。


「びしっ!」


 ラップ音がした。


「びしっ!!」


 また鳴った。


「ぎゃあああああっ!!」



 友達が耐えきれずに走り出した!

俺もあっくんも後を追って走り出す!


 前の娘をあっという間に追い抜き、俺は階段を駆け降りるとすぐに車に乗り込みキーを差し込んだ。


「早く!」

「早く出してぇぇぇ!!」


続いて乗込んで来た2人が叫ぶ。


「っ!?」


エンジンがかからない!?

セルは回るのに、キュルキュルと音がするだけで何度試してもエンジンがかからないのだ。


「マジかぁぁ!?」


 気丈な俺でも流石に怖くなった!

諦めずに何度かキーを回していると、やっとエンジンがかかる。下に敷かれた駐車場の砂利をガガガッと削り飛ばしながら急速反転し、街道に出るなりアクセルを底板まで踏み込んだ。たぶん自己ベストではないかと思えるスピードで峠の道を駆け下りる。



「ふう・・・危なかったね?

マジに今のは怖かったって!」


なだらかになった道をスピードを落として走行する。


「最高にビビったぜ!あははは〜っ!

アレ冗談なんだろ?・・・あっくん?」



 続く沈黙・・・

そしてあっくんは消え入りそうな声でこう言った。



いるよ・・・・

乗ってるよ・・・

まだ隣りにいるよ・・・



助手席に座ってるあっくんの隣!?

って、俺の隣でもあるじゃん!?


・・・何だこれ?

左側が・・・冷たい???


必死に走っていた時は気づかなかったが、少し落ち着きを取り戻した俺にその奇妙な感覚が突然に襲ってきた。鳥肌が立つ程度の話ではない。明らかに異常な冷さを持つ何かが、俺の左側にベタリと張り付いていたのだ!



「とにかく走って!止まらずに走って!!」


 言われるままに、とにかく走った!

信号機も無視して、とにかく走った!

うわわぁぁ!と情けない声を上げながら、ただただアクセルを踏み続けた。



 途中の事はあまり覚えてないが、たぶん10分くらいは走ったろうか?街に入る手前の橋を渡ったところで、圧迫感が嘘のように消えた。あっくんの方を見るとコクンと頷き、さっきの川の手前でぬけたよと言った・・・



「お前が呼んだんじゃねぇのか!?」


 言いたい気持ちになったが言わなかった。

なぜなら不思議ちゃんに悪気などないからだ。



 幽霊と接触すると冷たいらしい。

はじめて霊体験らしい体験をした俺は、憧れた幽霊との遭遇がそれほどに気持ちの良いモノではないと知った。やはり何事もない平和な日常が一番だ。


 しかしそれは選べるモノではなかった。

大阪芸術大学という古墳の上に建つ学校に通う以上、俺の意思とは関係なく様々な霊体験に襲われる事になるのだ。最後にあの『トンネル』に遭遇するまで、それはゆっくりとだが確実に時を刻んでいた。




 あれから随分と時が経つので大丈夫だとは思うが、ネットに載せるのも躊躇われるその奇妙な体験は、今も俺の心の深くに疑問を残している。もし本当に異界というモノが有るのなら、まさにあのトンネルの向かう側だと思えて仕方ないのだ。


 最終話『トンネル』を書くのは勇気が必要だ。

読んでくれた皆さんに不幸が訪れないかと不安になる。しかし俺はこうしてペンを握り、書き出してしまった。


 最後まで書き通した後に何が起こるのか?

それは読者のみが知る事になるだろう・・・





『どんずるぼう』終わり。

次は『壁の中』をお届けします。

最後の「知る事になるだろ・・・」の後に「なんちゃって」を付けようか迷いました。霊現象なんて滅多にあるものではないので、別に何も起こらないでしょう。


ホラー短編集は10話で終了です。

イラストや写真は後で追加するかも知れません。

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