丑三つ時の高野山 (第二夜)
ナルミちゃんに呼び出された俺は、深夜の二時に女子寮が集まる地区へと歩いて向かう。別に夜這いに来たのでもないのに、やたらとドキドキして周囲の目が気になる。電話口での雰囲気からすると普通ではない状況が待ち構えているような感じだった。
「おいおい・・・また丑三つ時かよ~っ」
とても嫌な予感がした。
いや、悪い予感しかしなかった。だいたい考えて見れば分かりそうな事だ。あっくんを墓場なんかに連れて行けば何をしでかすか分からない。トラブルメーカーだし、変な体質の持ち主らしいのだ。
彼女の部屋に入るとあっくんがおり、タオルケットにくるまった状態でこちらを見ていた。目つきが何だかおかしい。
マジで嫌な予感がして来た。
そしてそのまま、しばらく沈黙が続く・・・
一度、ナルミちゃんのほうを見てから彼女がしゃべり出した。彼女の口からはとんでもない言葉が飛び出して来る。今から高野山に連れて行って欲しいと言うのだ!
「今から?午前2時過ぎだぞ?」
理由を聞くと、石ころを出して来てこう言った。
「これ、戻さないと・・・」
「何だそれ??」
「・・・・・・・」
「まさか、高野山の墓場から持ってきた石!?」
ーーーとんでもない事しやがるっ!
呪われるぞぉ!!って、もう呪われてるよ~!!
ナルミちゃんに「連れて行ったあんたにも責任があるんだから、説教はじめる前に責任取れっ!」と言われ・・・結果3人は高野山へと向かう事になった。
全く楽しくないドライブのすえ再び高野山へ。
墓場は相変わらず真っ暗闇で不気味な感じがする。なんだか前回来た時よりはるかに怖い雰囲気があった。なんとなくだが、周りから敵意のような圧力までを感じる・・・
ーーー当たり前だよな~っ、
だって無縁仏の天上石を持ってきちゃうんだから・・・
なんとか無事に墓石をもどし、ごめんなさいと謝って無縁仏に手を合わす。しまった!お線香を持ってくりゃ良かった!と思ったが、当時のコンビニにはお線香などなかったから、たとえ途中で気づいたとしても準備できなかっただろう。
墓場を出る頃には東の空が白み、もう夜が明ける時刻になっていた。3人は御守り売り場が開くのを待って魔除け札を買い、早くも鳴き出した蝉の声を聞きながら高野山を後にした。
あっくんは明るい表情を取り戻し、ナルミちゃんと後部座席でいつものように笑いながら話しをしていたが、俺はとにかくめちゃくちゃに疲れ話しかけられるのも億劫だった。もうこんなに疲れるドライブは二度としたくないと、強くそう思った・・・
帰ってから不思議に思った事がある。
悪いものを皆で探した時、石なんてモノは見付からなかった筈だ。そんな怪しい物を見落とす訳がないし、あの石はどこにあったのだろうか?
次の日、久しぶりにゼミに顔を出したあっくんを捕まえて聞いてみた。そしたら彼女の口から、怒られると思って手に握ったまま懐に隠していたのだと知らされた。
「ごちん!!」
頭にげんこつをくれてやり一件は落着したが、霊視ができる人の存在を実際に体験出来たのは貴重かもしれない。原因となった悪い物が持ち込まれた事を、少し状況を説明しただけで電話口の向こうから言い当てたのだそうだ。
「霊能者おそるべし!」
でも、それよりも恐ろしきはあっくんの常識外れの行動だ。彼女についてはもう一つの話がある。不思議ちゃんあっくんは期待通りのトラブルメーカー振りを発揮してくれたのだ。
次は"どんずるぼう"をお送りする。