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掘り起こしちゃいけない昔の話  作者: 鈴宮ハルト
10/10

トンネル (そのニ)

 警察に捕まるという予想外のトラブルがあったが、いざ、お化けトンネルヘ!と気合を入れ直して車を走らせた。


 何度か道に迷いそうになりながらも山道を登り、途中妖し気な雰囲気のする侘びた集落を二つほど抜ける。元々出発したのが夕方だったので、目的のトンネルにまで到着した頃にはかなり遅い時刻になっていた。


 目の前にはポッカリと口を開けたお化けトンネルの入り口が見えている。しかし、イメージしていたモノと違って、普通によく見かけるコンクリート製の外観だった。



 特に威圧感もなくオドロオドロしさも感じない。

かなりヤバい場所だと聞いていたので、自分の勝手な妄想で盛り上がり、岩肌むき出しの天然洞窟であるかのようなイメージを作り出していた。



「本当にこれ?」


俺は、助手席で地図を片手に誘導してくれた友人に聞く。この時代、ナビゲーションシステムなんて高価なモノは一介の大学生には持てなかった。買えば30万以上はしたし、トヨタのクラウンにすら標準装備されていなかった。唯一搭載されていたのはその上のマジェスタCクラスだけだ。


 ちなみに、俺の車は三菱ミラージュだった。

排気量1500ccの3ドアハッチバックで、『サイボーグ』と言えば覚えている人もいるだろう。ホンダのシビック初代全盛期と重なり、『ランタボ』で知られる走り屋仕様の姉妹機種に当たる。走る割りに燃費が良く、免許取りたての大学生が乗るには楽しい遊び車だった。


「ちょっと待ってな、いま確かめるわ・・・」


 聞かれた友人もイメージと違っていたのか、地図でここまでの道のりを再確認する。鋭角にカーブを曲がる三差路もあったので、そこで間違えていたら違うトンネルに到着した可能性も考えられた。


「間違いない。これであっとるわぁ」


「じゃあ入ってみる?」


「おう、行ってみよう!」


 と言う事でミラージュを進ませ、トンネルの中に入った。照明などはもちろん無く、途中でカーブしているのか向こう側をハイビームで照らしても薄暗い壁しか見えなかった。


 現在の第三トンネルがどうなっているかは知らない。

しかし当時は、20㍍ほど進んだ位置から岩肌がむき出した工事を途中で放置したような状態になった。天井も壁も狭くなり、車1台がやっと通れるスペースしか無くなる・・・




「なんか雰囲気出て来たな!出るんちゃう?」


 後部座席で肩擦れ合う状態の三人が騒ぎ出す。

期待が高まるにつれアクセルを緩め更にゆっくりと進むが、やがて車は向こう側へと抜けてしまった・・・



「は?これで終い?」


「やっぱり、ガセやん!お化けなんて出ぇへんわ!」


 そんな簡単に出るワケがない。

出たら出たで困るし、狭い車内はパニック状態になっただろう。とりあえず広い場所まで行かないとUターンも出来ないので、そのまま山道を進んで行く。


 そこは舗装もしていない凸凹道で、水溜まりがあちこちにある状態の悪い道だった。Uターン出来る場所が見つからぬままゆっくり車を走らせていると、前方から光が近づいて来る。山道と言えど道なのだから使われていて当然だ。しかし、突然に現れたような気がして少しドキリとした。


 どうやら対向車は軽トラのようだ。

ギリギリまで路肩に寄せて、なんとかその軽トラとすれ違う。乗っていたのは皺の深い爺さんだったように思うが、スピードも緩めずこちらを無視して過ぎ去った。



そのまま3分ほど進むと、道は行き止まりになった。


ーーーおかしいな?

あの軽トラはどこから来たんだ?



 仕方ないので、バックでトンネルまで戻る事にした。トンネルの近くでかろうじてターン出来そうな場所を見つけ、車を降りた友人達に誘導してもらいながら方向転換した。


 再びトンネルをくぐったが、やはりお化けは出ない。


 がっかりだ・・・

 俺達はそのまま寮へと戻った。



 帰ると、定員オーバーであふれた小日向が待っていた。


「出た?」


「出んかった」


「明日連れて行ってよ。飯おごるでさぁ」



 あまり気乗りしなかったが、ガソリン代も出すと言うので、行く約束をした。



 翌日また同じ道を走る・・・

先にご飯をおごってもらい、たらふく食べたので、運転中眠くなってしまった。何度か瞼が落ちそうになるのをこらえながら、山道を進む。



 また道に迷いそうになる。

しかし迷いそうになる度に、助手席から、右だ、左だと教えてくれて、なんとかトンネル入り口にまでたどり着いた。


ーーーやっと着いたか・・・


 到着したと言うのに助手席からの反応が無い。隣りを見ると小日向はスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。


「おい、着いたぞ!」と起こす。


「悪い、悪い、寝ちまったよ」


「ああ、でも助かったよ」


「何が?」


「途中、俺も眠くってさあ~

何度か迷いかけたけど、お前、教えてくれたろ?」


「は?」


「お前が道知っててくれて良かったよ~」



(しばらくの沈黙)



「知らないよ・・・

俺、初めてだし・・・」



「うそ・・・だろ?」



「だって寝てたし・・・」



目の前のトンネルが黒い口を開けていた。




挿絵(By みてみん)

イラスト:第三トンネルの闇



 本来怪談話としてはこれで終ってもよいのだが、この話にはアフターがある。


 何か得体の知れない危険な雰囲気が漂っていたので、小日向は行こうとゴネてたがトンネルには入らずに帰った。行く途中、二回ほど道を間違えそうになり、そのとき声がしたのは確かな事だ。


 幽霊の姿は見ていないが、声を聞いたのはさすがにビビった。入れば絶対に何か良くない事が起こるような気がしたので、ガソリン代は払わんでいいし、先ほどの食事もワリカンにするからと言って納得させて帰った。


 行き止まりから出て来た不信な軽トラは、もしかしたら出れなくなってさまよっていたのかも知れない。こちらをチラリとも見ず、スピードも緩める事なく過ぎ去った車・・・


 そして入れかわりに入って来たのは俺の車だった。

今度は逃がさないぞ!と何かが待ち構えていたのではないかと想像すると恐ろしくなり、その後はトンネルに近づいていない。


 

 その時の車は、卒業するとき友人の伊藤に譲った。

しかし手元を離れたとたん、わずか二週間で事故に合い廃車になった。友人も免許取り消しになったので、もしかしてトンネルの呪いか?とも思ったが、不幸な伊藤クンには何も伝えていない。もう車は無いのだから、知る必要もないと思ったからだ。



◇◇◇◇


 最後にひとこと・・・


 学生時代の話はこれにてペンを置きます。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。最後に少しだけお願いがあるのだけれど、聞いてくれるだろうか?


 振り返らず玄関の戸口まで行き、『臨兵闘者皆陣烈在前』と九字を切るか、出来なければ塩を撒くだけでもして欲しい。


 皆様に災厄が訪れぬ事を心からお祈り致します。




 (END)

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